騎士
どこの世界でもお勉強は必須のようです。と、思った今日この頃。僕は今屋敷でお勉強中でございます。僕に付いている家庭教師の性別は女性、お姉さんタイプです。美人ですね。まったく、こんなお姉さんを雇う金もったいないで。
ピコリン
[その方はイザーク様が選んだのですが……]
おぅ、イザーク君よぉ。たしかに美人だと思うが君とは趣味が反対のようだ。っと、そこ! ロリコンとか言わない!
「はい、それじゃ今日はまず確認テストからしましょうか」
そう言って差し出して来たのは中学生レベルの数学だ。正直言って簡単すぎる。ここでわざと少し間違えた方が良いのかと迷ったが、素直に解いてみることにした。
ピコリン
[上から1、√47、51/97、7/9、1219、9iです]
解こうと思った時、答えを知らされた。なんだかやるせない気持ちになった。ま、シュティが居ればこれからずっとこんな感じだろうと、俺はその通りの解答を書いた。
書いてから、お姉さんの顔を見て失敗したなと思った。回答する時間が短すぎた。紙を見て、シュティの声を聞いて速攻で答えたからなぁ。
「え、え、え? あ、合ってるかな?」
お姉さんが確認の為に問題を解く。その時間十五分! この世界は学問が遅れてるのかな。
ピコリン
[失敗したようですねイザーク、書くのが早すぎです]
しっとるわ!! くっ、ペースを持って行かれる。
「合っているだろう? わざわざ目の前で解き直すとは俺を馬鹿にしているのか?」
「いっ、いえ! 申し訳ありません! イザーク様は八歳ですよね、天才ですかっ! 」
ピコリン
[天才って言われました、うれしいです]
シュティ、お前絶対そんな事思ってないだろ。だんだん人間味が出てきたと思う。
「このくらい普通だろ」
お姉さんは首をぶんぶんと横にふる。
「貴族でもこんなに早く解ける方はいらっしゃいませんよ! それこそ学者クラスです」
ふむ、数学はこれ以上学ぶ事は意味が無さそうだな。せっかく異世界なのだから、数学はやめよう。どうせなら異世界にしかないようなーー
「おいお前、名前はなんという?」
「はい? ……リサですけど」
「出掛けるぞ支度しろ」
異世界について教えて貰うとしますか!
○
「イザーク様、実力不足であるかとおもいますがこのラインハルト、お供させてください」
イザークパーティは三人になった。屋敷を出た時、女子供だけではと、騎士の一人が護衛について来た。
ピコリン
[ラインハルトはこの領地一の腕の持ち主です。安心してよろしいかと]
この一言で安心したよ。シュティの意見は正しい。もちろん外の状況を知る方法は俺を通してなので、完全に信頼する事は出来ないのだが……
「ふむ、仕方ない、ついて来い」
「ありがとうございます」
俺は知っている。この家に忠誠を尽くしている者がいない事に。だからラインハルトも仕方なくついて来るのだと。
この世界には魔物がいる。そのため、ほとんどの大きな街には壁が存在する。大きな街には基本的に辺り一帯を治める領主がいる。バイヤー家も例外にならずに街の中に屋敷があった。賑わっている場所から少し離れた所だ。これには理由があり、少しでも危険から遠ざけるためだ。
つまり、屋敷からメインストリートとの距離は近い。大通りは人が集まる、という事は必然的によからぬ輩も多くなる。
どっ、と薄汚い格好の男とぶつかった。幸い倒れこむ事は無かった。
「す、すいやせん」
一言謝っていそいそと遠ざかろうとする。だが、騎士ラインハルトが男を組み伏せる。
ピコリン
[なるほど……]
「ラインハルト、放してやれ」
「は!」
ラインハルトは何故? と、不思議そうな顔をしている。蹲っている男に近づき懐から、金貨や銀貨の入った袋を取り上げる。
「ひぃっ、すいやせん! すいやせん!」
「ふむ、この街を治めている貴族から金を盗むか……」
袋から金貨を一枚取り出して男に投げた。リサとラインハルト、そして男の全員が唖然とする。
「 うん? どうしたの、取れよ。それが欲しかったんだろ?
俺に盗みを働くなんて中々出来たものじゃない。その勇気に敬意を払いその金貨を贈るよ。あ、悪いけど全部はあげられないんだ、ごめんね? ほら、取りなよ」
しゃがんで男と目線を合わせて笑いながら促す。普段使わないような口調で、どこか煽るように。
ピコリン
[あなたも人が悪いですね]
「ひっ、すいやせん!」
男は金貨を拾わずに走って行ってしまった。すぐに見えなくなった。
「イザーク様、どういうおつもりで?」
ラインハルトが問いかけてくる。探られている気がするが……
「何が言いたい」
「何故金貨をーー」
「本当に分からないのか?
あれはチャンスだ。本来俺のような貴族にあんなことをすれば極刑は免れない。その辺の奴らとは違うからな。つまり、死を覚悟で犯行に及んだんだろ? そこまでしなきゃ生きて行けない環境が出来てしまっているんだ」
そう、街にいるという事は辺境の民とは少し違う。街の人があそこまで追い詰められてるのか……
「なるほど……さっきの男はもうチャンスが無いと?」
「そうだ。金貨一枚あれば変えられるチャンスはあったはずだ。それを棒にふった。あの男は一生あのままだ。変われない」
「あーこれとこれ、あとこれを貰おう」
街を巡り、食料品を買い込む。だいたいこんなもんかな?
ピコリン
[ええ、それだけあれば足りるかと]
ラインハルトに全ての荷物を持たせてとある場所に向かう。
「イザーク様、何処へ向かっておられるのですか?」
「裏路地や、スラムだ」
配給のようなものをおこなう。まぁこれは本来の目的ではない。話を聞く事が目的だ。手ぶらでは寂しいからこんな事をするのだ。
ラインハルトには止められたが実行に移した。食事を配り、一人一人に話をしに回る。やはりほとんどが苦しいと言っていた。中には襲って来る者もいて、ラインハルトが斬ろうとした事もあったが、逃がした。
もちろん全ての民を幸せにする事は出来ない。だがこれも解決出来たら良いなと思った。
「このラインハルト感服いたしました。私はイザークに忠誠を誓います」
ラインハルトが地面に膝を付き頭を下げる。
「父上よりも俺の命令に従うという事か?」
念を押すように質問する。これが一番大事な事だからだ。
「その通りでございます」
ラインハルトは即答した。
ピコリン
[テッテッテー、騎士ラインハルトが仲間になった]
どうも!
途中から空気の家庭教師のリサさん