威力
使える駒を手に入れたが、今は魔法に専念しようと思う。その心は都合が良いから。
基本的に魔法は貴族にしか使えない。それは血が関係しているらしい。だがマジックというものが存在し、これは平民でも使う事が出来る。マジックとは、魔法の下位互換として認識出来る。ライトと呼ばれる明かりを点けるものや、魔素を活性化させ身体強化をしたりする事が出来る。つまり平民には、魔素を魔力に変えるゲートになんらかの不具合があるようなものだ。
「貴族でよかった……平民とか人生バッドエンド待った無し」
魔法は使えといた方が良いな。
ピコリン
[魔法は貴族のステータスです。極めておいて損はないかと。]
ここで解決しとかなければならない問題がある。こいつだ。呼び掛けやすいように名前を決めようと思う。ピコリンって音がなるからピコとか? うーん、名付けセンスの無さが露呈してきたな。考えてみたら声しか聞いた事無いんだよなぁ、声だけの関係。あ、シュティンメからとってシュティなんてのはどうだろうか。よし! これからお前の名前はシュティだ!
ピコリン
[シュティ……かしこまりました。]
それと気になっていたんだが、もう少し柔らかい話し方にしてくれないか? なんか話しづらい。
ピコリン
[そんな事言わなくても知ってるよ!この豚野郎がっ]
ファ!? も、もっと他ので頼むよ……]
ピコリン
[分かりました]
さて、それじゃあさっそく魔法の練習をしましょうか! ま、適当に本に載ってたウィンドバーストって魔法で練習してみよう。
……まったく分からん。魔素をゲートに通すってのがよく分からない。イメージが出来ないんだな。コツが分からないともいう。そをな時、俺に助言をくださる女神が降臨した。いや、女神云々のまえに性別分からんけど。
ピコリン
[心臓に注目してみてはどうですか? 動脈に関所を置き、そこを通過した血液が魔力に変換させるというように]
なるほど! つか、考え方に人間味がありすぎて怖い笑。
よし、やってみよう。
「ふんっ!」
物凄く大きな音を聞いた瞬間に壁が吹っ飛び、太陽と顔を合わせた。やっちまったと思うと同時に、身体中の力が抜けて視界が真っ暗になるときに慌てて部屋に入ってくる使用人が目に入った。
○
結果からいうと、さっそく魔法が使えた。それも強大な。原因は二つだとシュティは言った。まず、発動した魔法が中級魔法だった事。中級魔法というのは魔法が得意な大人クラスが使う事の出来る魔法だ。そして魔力を使い過ぎたという事である。イメージが端的過ぎた。心臓付近の動脈から云々のイメージをしたせいか魔素のほとんどを使ってしまったらしい。
部屋の壁をぶっ壊した事により両親には怒られたが、これだけ強力な魔法をこの歳で使えるなんて凄いと、それ以上に褒められた。変な事が起きなければ良いが……
「セバスチャンです。夜分遅くに失礼します」
ふとノックの音が聞こえた。何の用か……昼間の事だろうな。
「セバスか、入れ」
セバスと略す事にした。俺達はソファに座った。
「昼間は大変でしたね、お身体は大丈夫ですか?」
おお、やっぱり心配しにきてくれたのか。
「問題ない。それより大変とは俺よりも使用人達の事だろう、皮肉か?」
こういう時、この口調がキズだなぁ。素直に感謝の意を伝えようとしただけなのだが……
「いえいえ滅相もない!
それよりもイザーク様、昔と変わられましたね。昔なら、そんな事をイザーク様が考えたら直ぐに罰の執行をしていたと思いますよ」
この爺さん……流石執事を務めているだけはある。有能だ。
「……気のせいだ」
するとセバスはかしこまったように口を開く。
「それで本題なのですがーー」
嫌な予感がする。はっきり言うなら聞きたくないような。
「間近に迫っている、イザーク様の誕生日プレゼントなのですがどうやら決まったようです」
うん? あー、そういえば俺が目覚めてからそんな話をしていたな。あの時は適当にまかせるなどと言ってしまったが。
「それで? 内容はなんだ」
やや口ごもりながら、はっきりと告げてくる。
「玩具、らしいですぞ」
玩具? なんだそれは、何かの隠喩か。ただ悪い予感はする。
「玩具とはなんだ」
「亜人の奴隷、つまりエルフや獣人などの事のようですぞ。獣人は数がいるから価値はあまり高くはないですが、わざわざ誕生日プレゼントとして贈るのです。ただの獣人ではありますまい」
やっぱり生き物系か。絶対に厄介なイベントが起こる気しかしない。
「ふぅむ……ご苦労である。他に無いのであれば考え事をしたい気分だから下がってくれ」
セバスを引っ込めると聞き慣れた音が脳内に響く。シュティだ。
ピコリン
[覚悟はしておいた方がよろしいかと。セバス様のおっしゃる通り、ただの獣人という事は考えにくいです]
ほぅ? それならシュティは何だと思う。
ピコリン
[亜人となると種族でいえば多いので分かりませんが、エルフや……魔人族ですかね]
魔人族、それは人間よりもはるかに魔力の扱いに特化した存在。一般的に魔族と呼ばれ、魔物と同列に扱う。魔族に限っては亜人というよりも人外と呼んだ方が適切かもしれない。それほどまでの差別が存在する。
「これは困った、平和なスローライフからまた一歩遠くなった気がする」
思わず声に出てしまった。それよりも、そんな金どっから捻出すんだよと切実に思った。