セバスチャン
前半はやや説明回
本の内容は俺にとって非常に興味深かった。魔法を発動するには魔力を使用する。身体の中の血管、そこを血液などと一緒に魔素というものが流れている。その魔素はゲートを通して魔力に変換される。ゲートは身体のいたるところにあるとされ、よって大きさは極小さいとされる。
「ふむ……これはこれは」
俺が考えるに、飛び抜けて強い奴はいないんじゃないか、という結論に至った。魔素が血管の中を流れているのなら、血液中の魔素濃度のようなものも上限があるはずだ。よってとてつもない魔力量を秘めている、なんて事はないはずだ。
あるとすれば魔素から魔力に変換する際の効率だ。一の魔素が一の魔力になるなんて事はないだろう。どこかでかならず漏れが生じる。これをどれだけ減らせるかが鍵だ。
それと、もう一つ重要なのが限られた魔力の中でどれだけ完成度の高い魔法を使うかという点だ。同じ魔法でも様々だ。大きさや威力、発動までの時間、初速、速さ、連射生、他にも色々と思いつくがこんな所だろう。どうだ?
ピコリン
[おおよそその通りです。補足するなら学園で重視される評価項目は威力です。どれだけ強力な魔法を放てるかで評価されます。]
なるほど、あえてそこで技巧派を気取ってモードの風を起こすのも楽しそうだな。っと、いかんいかん、俺の目的はここでゆっくり平和に暮らす事だったな。
今日はこの辺で引き返すとしよう、明日は魔法の特訓でもしてみようかな。
家族(笑)との夕食も終え、本を脇に挟み自室に篭る。当たり前の事だが本物のイザークは既に文字が書けている。当の俺はというと話す事は出来るんだが、書けない&読めないだ。これはまずい、なので文字の勉強を優先して進める事にした。そうして時間が過ぎていくと不意に、コンコンとノックの音がした。
「失礼しますイザーク様、セバスチャンです。開けてもよろしいでしょうか?」
セバスチャンとはバイヤー家の執事だ。しかしこんな時間に訪ねてくるなんてどうしたんだ?
「入れ」
入ってきて良いよ、みたいなニュアンスで言ったのだが、口から出てきたのは横暴な言葉だった。いや、横暴というよりは貴族とその他との会話の口調か。本物のイザークの影響が俺にも出てきてるのか……
「夜遅くに申し訳御座いません。私、どうしてもイザーク様にお礼を申し上げたかったのです」
ガチャリと部屋に入ってきての第一声がこれである。っとっとっと、危うく流す所だったけどお礼ってなんだよ。
「何のことだ」
「メイドのセフィールの事でございます。イザーク様がお見逃しになられたとか……」
ふぅむ、なるほどなぁ。つまりセバスチャンはあのメイドを気にかけていると。うん? つまりどんな関係か掴めないな……
「何故お前があのメイドの事を気にかけている」
少し間を置いてセバスチャンが答える。
「セフィールは私の娘なのです……」
ほぅ娘か……って、えええ! おいおい全く似てないじゃないか。
「ほぅ? 悪いが俺の感覚だと似ているようには見えないが?」
セバスチャンが目を伏せる。だいたいこういう場合は言いたくない事なのだろう。
「彼女は今は亡きとある貴族の家の者でございます。家が潰れた事により、匿うように私がひろったのです。あぁ、ひろったというのは文字通りひろったのです」
ひろったねぇ、おそらく邪魔に思う何者かが刺客を送ったんだろう。そして逃げてきた所をたまたまセバスチャンがひろったと、そして此処で雇わせてもらっているということか?
ピコリン
[おおよそその通りです。それと……イザーク様の両親は、彼女に貴族の血が入っている事を知りません]
それはそれは、ばれたら厄介だな。
「父上や母上はこの事を知らないのか?」
「その通りでございます。この家の中ではイザーク様に話したのが初めてです」
ここで最後にひとつだけ確認しとかなければならない事がある。
「それなら父上ではなくこれからは俺の部下となれ、もちろん秘密裏にだ」
「イエス マイ ロード」
セバスチャンは即答した。
どうも!
眠い……