No,01 プロローグ
「はい、こちらが部屋の鍵です。以上で契約手続きは終了です。」
「ありがとう。」
今日から私、三戸 冬夜の新しい生活が始まる。
「どうする?もう直ぐ仕事も終わりだし、案内ついでに一緒に帰る?」
手続きをしてくれた彼女の名はスージー。
名前の通り国籍は外国。
なんだけど下手な日本人以上に流暢な日本語を操る私の数少ない友人のひとりだ。
「ん?んじゃ、そうしようかな?」
今回の引越しも彼女の提案だった。
彼女とはもう10年近い付き合いになる。
元々はネットで知り合った。
同じゲーム仲間で妙に気があうし、色々と真剣に心配もしてくれる。
先日、両親が事故で他界した。
それ自体はショッキングな出来事なんだけど・・・
あまり気にして無い。
というか、実感が無い。
両親と言っても何年も前から会っていない。
10数年前に私を捨てていった両親。
別に恨んでもいないけど。
そんな両親でも色々と残してくれた。
保険金、家とか色々と私の名義になったが一人で暮らすには広すぎる。
ちょっとばかし金額とか資産とか多かった。
まるで記憶に無い親戚が群がってくる程度に。
見たことも無い親戚の対応と天秤にかけて結局は
後で税金とか面倒くさそうだけど取り敢えず売り払った。
「お待たせ。帰りにちょっと買い物して行こう。今日は冬夜の歓迎会だ。」
「そんな気を使わなくてもいいよ?」
「ごめん、と言うのは建前で・・・他の住人が飲みたいだけなんだよね。」
「丁度いい理由が出来たってところか。」
「うん、そんな感じ。まぁ、悪い奴らじゃないから。仲良くしてやってよ。」
これから住む鹿鳴館には彼女も住んでいる。
同棲?んな訳無いでしょ?同じアパートの住人ってだけ。
まぁ、彼女が居るからってのが一番の引越し理由なんだけど。
鹿鳴館なんてすごい名前だよね。まぁ、凄いのは名前だけじゃ無い。
ちょっと山奥にある洋館で・・・見た目が・・・その・・・
出そうな感じ。うん。お化けとかね。
「お?スーちゃんお帰り。誰だい?彼氏かい?」
電車とバスを乗り継いで降りた町の商店街で肉屋のおっちゃんが話しかけてくる。
「違いますよ、うちの新しい住人ですよ~」
「って事は今日は歓迎会だな?」
「えぇ、他の住人達がめちゃめちゃ乗り気ですしね。」
「にいちゃん、酔った勢いで襲うなよ?」
「なななななに言ってるんですか!!冬夜君がそんな事する訳無いでしょ!!」
「そうかい?んじゃあれだ、スーちゃん、襲うなよ?」
「し、しませんそんなこと!!」
真っ赤になってるスージー、可愛いな。
白人って大変だよね。
照れた時とか顔色、うちら以上にわかりやすいわ。
肉屋のおっちゃんとのやりとりと同じような感じで何軒かのお店で買い物をし家へと向かう。
ちょっと買い過ぎじゃ無い?って位買い込んでたけど
「これ位は多分、あっという間に無くなる。」って事だった。
小さな川を渡り、舗装されてない林道を進む事数10分、私が今日からお世話になる鹿鳴館へと到着した。
「ただいま~♪」
そう言って玄関を開けるスージー。
「お帰り~。あれ?その人は?」
扉の先にはジャージ姿の女の子がいた。年齢は・・・10代前半位?
「ただいま、珠子さん、彼が今日から入居する三戸 冬夜君。」
「あぁ、なるほど。よろしくね、冬夜君。私はここの管理人やってる緑川 珠子だ。」
え?管理人?小学生かと・・・
「よ、よろしくお願いします。」
「見た目こんなんだけど、これでも一応20代だ!」
そう言って腰に手を当てて胸をはる姿が『えっへん!』って感じで可愛いな。
「んじゃ、買ってきた食材はキッチンに置いとくから珠子さん、後はよろしく。わたしは冬夜君部屋に案内してくる。」
「ほいほーい。7時半位にはご飯出来るからそれまで部屋の片付けでもしてらっしゃい。冬夜君の荷物、部屋に置いてあるから。」
「はーい、行こう、冬夜君。」
スージーに連れられ廊下を進む。一階には食堂、キッチン、風呂とかあって
基本、住人の部屋は二階にある。階段を上ると前からメイドさんが歩いてくる。
・・・・メイドさん?
「あら、スーちゃんお帰りなさい。あら?早速彼氏連れ込んだの?」
「ちちちち違います!今日から住む三戸 冬夜君ですよ!」
「あらあら、彼氏じゃないのね?」
なんか、こんなやりとりばっかりだなぁ・・・
「ち、違いますよ?・・・・・今の所は」
ん?
「そっか。んじゃわたしが手を出してもいいのね?」
ん?ん?
「だだダメですよ!冬夜君は普通の人なんですから!!」
普通の人?
「同意があればいいのよね?」
「そりゃ・・・・そうですけど・・・」
「そんな訳だから♪わたしはマリー、仲良くしましょうね♪」
そう言ってひらひらと手を振りながら歩き去っていくメイドさん。
発言が不穏過ぎて何故メイド服なのかとかスルーしちゃったよ。
「スーちゃんお帰り!!」
背後から声が聞こえた。
そのまま声の主は横を駆け抜け、奥の部屋の中に消えて行った。
「ちょっ!!クリス!!ちゃんと服着なさい!!」
・・・そう。駆け抜けていった女性・・・全裸でした。
「・・・変わった人、多いね。」
「ごめん、というか・・・ちょっと変わった人しかいないんだよ、ここ。」
は?