073 「錬金材料の刑、確定?」
一話1000字前後の短編連作です。
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全神経を指先に集中させるお手伝いさん。その先には、まな板に乗っかった、一本の野菜。
緑色の細長い、いぼいぼしたものだ。
これを師匠からもらった手袋で半分に切ろうと思っているのだが、
「あ」
力加減を微妙に間違え、まな板ごと切れてしまう。やばいどうしようと、師匠にバレないように真顔で悩んでいると、
「おいクソ野郎」
見計らったかのようなタイミングで師匠が声をかけてくる。その師匠はソファーに座っているので、お手伝いさんが陰になってまな板の惨劇は見えない。
とりあえず形だけでもくっつけて、お手伝いさんは対応する。
「な、なんですか、大先生?」
「すっかり聞くのを忘れていたんだが」
師匠は腕を組んで何かを考えている様子。腕に乗っかる胸がふにゃりと形を変える。
「オメーらがここに来る途中だと思うんだが、爆発みたいな地響きがあったんだよ。心当たりねーか?」
爆発みたいな地響き。
そう言われて思い当たるものなど、一つしかない。
「あ、それ多分僕です」
「ほう?」
けろっと言うお手伝いさんに向けて鋭い視線を向ける師匠。それで? と続きを促すので、お手伝いさんは口を開く。
「いぬねこちゃんと洞窟を進んでたらおっきな蛇がいて、手持ちの物でなんとか出来ないか相談した結果、ランプの予備燃料を撃ち抜いて爆発させて、怯んだ隙に一気に抜けてきたんですよ」
「あのクソダヌキ……このアタシに嘘ぶっこきやがった訳か。ククク……正直に話していれば良かったものを……」
お手伝いさんの話を聞いた師匠は凶悪な笑みを浮かべて嗤う。
大きなとんがり帽子のツバで目元は見えなかったが、釣り上がる口角を見て背筋が凍るような感覚に襲われる。
「よくぞ教えてくれた。クソダヌキは錬金材料の刑に決定だ」
「え? あの……どういうことですか?」
お手伝いさんは深い眠りに落ちていたときの出来事なので知らないが、いぬねこはこの事実を知りながら、師匠の同じ質問には知らないと答えていた。
つまりしらばっくれたという訳だ。
知りながら知らないと答えたいぬねこは、師匠の逆鱗に触れてしまった。
その時、錬金術士が不安そうな表情で部屋に入ってきた。
「あれ? 先生、どうしたんですか? 修行の方は……」
「えっと……キリがいいとこで中断したんだけど……いぬねこちゃんいる?」
歩を進めながらキョロキョロとパートナーの姿を探す。
「いえ、僕達は見てませんよ。先生と一緒だったんじゃなかったんですか?」
「ううん、気付いたらいなくなってて……ずっと集中してたからいつ出て行ったのかもよく分からないの」
いつもそばにいた口うるさくも頼もしいパートナーの姿が見えないだけで、ここまで不安そうにするとは、思ってもみなかった。
「身の危険を感じて早々に逃げだしやがったか? まぁいい、おい弟子。テメーは修行を続けてろ。アタシとクソ野郎で探しておくから」
「でも……」
「いーから。錬金を途中で放り出すなんざ、錬金術士の風上にもおけねーぞ。そんな風に教えた覚えはねーな」
「……はい」
錬金術士は師匠の言葉に渋々ながらも頷いて、ゆっくりと踵を返して元の部屋へと戻って行った。
ほんの少しばかり姿を見なかっただけだが、まだ元気そうで安心するお手伝いさん。
「さて、どこで何してるか知らねーが、クソダヌキを探しに行くぞ」
言うが早く、準備も何もなく手ぶらでいきなり玄関から外へ出てしまう師匠。
「えぇ!? いや、ちょ、これどうすれば……」
まな板の上に放置された野菜と玄関を交互に見てから、お手伝いさんも慌てて師匠のあとを追いかけたのだった。
次回第74話「無事だといいんだけど」
お楽しみに!




