071 「ヘタに動くんじゃない!」
一話1000字前後の短編連作です。
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朝食を終えたお手伝いさんと師匠は、再びアトリエの裏にある洞窟のような実験場にいた。
師匠は相変わらずど真ん中で仁王立ち。
「あの……まさかまた勝負なんて言い出しませんよね?」
恐る恐るお手伝いさんは口を開く。
何をするのか具体的な説明をされないままに連れてこられた。この場所でなくてはいけないとなると、少なくとも平和的な事柄ではないはずだ。
「それも魅力的だが……」
魅力的なんだ。この人どれだけ好戦的なんだ。
「アタシが渡したアレは持ってるな?」
「……これですか?」
懐から取り出したのは、小さな箱。師匠が作った最高傑作の一つらしく、中には手袋が入っていた。
あの子を守るための力だ、とか言っていたが……。
「昨日話した通り、それを使いこなせるよーになるまでお前にも修行してもらうから、そのつもりで。とりあえず着けてみろ」
このままだと錬金術士が修行している間、お手伝いさんは完全に師匠の雑用係と成り下がる。そんなことになるよりは、多少は有意義な時間かもしれないと前向きに考えるようにして、お手伝いさんは手袋を着けてみる。
非情に肌触りのよい生地で仕上がっていて、不思議とフィットした。
「あの、それで――」
「待て! ヘタに動くんじゃない!」
ただ手袋を着けただけなのに、大げさに叫ぶ師匠。その手にはいつの間にか、氷の意匠された巨大なスプーンが握られている。
握っているだけじゃない。構えている。真剣な顔で前に突き出して、防御的な姿勢。
「いいか? ゆっくりだ。ゆっくり……そこのガラクタを何でもいいから拾え」
師匠はアゴで、お手伝いさんの真後ろに山のように積まれた使用済みの道具たちを指した。彼女が錬金術で作り、実験に使った成れの果て。
「はぁ……?」
何をそんなに怖がっているのかサッパリ理解できないお手伝いさんだが、師匠の言う通りゆっくり歩いて、適当に目についたテディベアに手を伸ばした。
刹那、音も無く縦に六等分された。
「へ……?」
手を伸ばした姿勢のまま固まるお手伝いさん。
自分は何もしてない。ただ手に取ろうと思っただけなのに、その前にバラバラに裂けてしまった。中の綿も、目の部分のボタンも、綺麗に切断されている。
「あの、大先生……!?」
「だからヘタに動くんじゃねぇ! アタシまでバラバラになっちまうだろーが!」
「えぇ!?」
何が起こったのか全然理解が追いつかないお手伝いさんは、師匠に助けを求めようとしただけなのに怒鳴られてしまう。
「……一応聞くが、どうしてそーなったか、分かるか?」
「いえ、全然……」
口だけを動かして、ピクリともしないお手伝いさん。
こうなった理由が分かるなら、ここまで混乱してないだろう。
「その手袋の指先から、目に見えないほど超極細の繊維が出て、テディベアを切り刻んだんだ」
「……あの、確かこれを『使いこなせ』と言ってましたか?」
「そーだ」
「ムリ!」
素直に、正直に、お手伝いさんは思ったことを叫んだ。
お手伝いさんは気付いた。ちょっとでも間違えれば、師匠より先にお手伝いさんがテディベアと同じ運命を辿るであろうことに。
しかしお手伝いさんの心の叫びは、鬼の師匠には届かないのだった。
次回第72話「増えちゃうんですけど」
お楽しみに!
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