067 「あの子を守るために」
1話1000字前後の短編連作です。3分もあれば読めるかと。
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師匠と戦った穴倉からアトリエに戻ると、おもむろに師匠は倉庫部屋に入っていった。
お手伝いさんは、ソファーに深く座り込み、疲れを吐き出すように長い長い溜息。そのまま瞼を閉じて眠りに落ちたかったが、倉庫から聞こえてくる物をひっくり返す音に邪魔されて、それどころではない。
錬金術士の姿もいぬねこの姿も見えないので、まだ師匠の部屋で錬金術の修行の真っ最中なのだろう。
時計をチラリと見やれば、すでに夕飯の時間を過ぎている。
(そういえばご飯どうするんだろう……)
師匠は三日三晩錬金し続けても何らおかしくないと言っていた。その間、何も飲まず食わずで過ごすのか。
食べるの大好きな錬金術士が、そんなことできるとは到底思えないのだが。
「おい、クソ野郎」
倉庫部屋から戻ってきた師匠が、呼びかけながら埃まみれの小さな箱を放ってくる。
慌ててそれを受け取り、お手伝いさんは首をかしげた。どうやらこの箱を探していたようだが、さっき言っていた「テメェにも修行してもらう」に関係ある品なのか。
「開けてみな」
言われて、恐る恐る開けてみる。
「……手袋?」
中には、美しい装飾の施された布の手袋が一組。
黒を基調にした、銀色の幾何学模様が美しく布地に走っている。
「そいつもアタシが作った最高傑作ではあるんだが……いかんせん難易度が高くてな、作ったアタシですらまともに扱えなかった」
一体いくつの「最高」があるのか疑問に思ったが、そんなことは今はどうでもいい。それよりも大切なことは、どうして師匠がこれを自分に渡したか、だ。
「それを使いこなしてもらう。あの子を守るためにな」
「守る……?」
師匠の言う「あの子」とは錬金術士のこと。しかし「守る」とはどういうことか。
「そのうちわかる日が来るだろう。今はとにかく、後悔しないためにも強くなれ。手袋はそのための力だ」
錬金術士の師匠ほどの人が言うことだ、きっと何か意味がある。この人は言うこともやることも乱暴だが、信ずるに値する人間であることは間違いない。
お手伝いさんは、素直に頷いた。
「よし。じゃー腹減ったし、なんかメシ作れ」
「僕ボロボロなんですけど……」
「知るかよ、後にしろ後に。アタシの腹じじょーの方が優先だ」
ボロボロで満身創痍な人間が目の前にいるのに、それよりも空腹を満たすことの方が大切ですかそうですか。
頂いた手袋はいったん箱に戻し、肺いっぱいに空気を吸い込んで、最後の力を振り絞るようにキッチンに立ったお手伝いさんだった。
次回第68話「ただの一人も」
お楽しみに!
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