066 「アレ」
1話1000字前後の短編連作です。3分もあれば読めるかと。
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師匠の暇潰しとして勝負に付き合わされたお手伝いさんは、少し困っていた。
二歩先を歩く師匠が、明らかに不機嫌。イライラしているというよりは、納得できなくて拗ねているような感じ。
「言っとくが、アタシが本気出したらこんなもんじゃねーぞ」
「わ、わかってますよ……」
唇を尖らせて師匠は言う。
もし師匠が最初から本気を見せていたら、秒殺もいいところだ。よくわからない道具を使われて、対処も出来ないままに終わってしまう。
今回は運が良かった。それだけだ。
「しかしクソ野郎、テメェなかなか器用じゃねーか。テメェならアレを使いこなせるかもしれねーな……」
褒め言葉が飛び出してきて少し心が弾んだお手伝いさんだが、その後に続く言葉に青ざめる。
アレとは。アレとはなんだ。一体何を使わせようとしているのだ。まさか自分で実験しようとしているのでは。
嫌な汗が、じわりと滲む。
「……先生は今頃どうしてますかね? 修行は順調でしょうか?」
慌てて話題をそらした。
「さーな。出来はいい子だから詰まったりはしてねーだろーよ。腕はアタシも認
めるところだが、中身がガキンチョだからな……飽きたりしてるかもな」
「あはは……」
これっぽっちも反論できなかった。さすが錬金術士の師匠なだけあって、彼女のことをよくわかっている。
疲れたー。お腹すいたー。甘いものー。
そう言って駄々をこねる姿がありありと想像できる。
「よし、決めた」
「なんですか、急にどうしたんですか?」
「テメェにも修行してもらう」
「……ハイ?」
いきなりな宣言に声が裏返る。
(修行って……まさか、大先生から直接錬金術を学べるのか?!)
かつての錬金術士のように、この人から錬金術を学ぶ。それはある意味、錬金術士から教えてもらうよりも凄いこと。
何と言っても、この人は「伝説の錬金術士」と呼ばれるまでに教え子を育て上げた張本人。
「まさか、錬金術を教えてくれるんですか?!」
「ア? 誰がんなこと言ったよ?」
「……へ?」
師匠の顔が、ニヤリと笑みを浮かべた。
この人は、錬金術士以上に唐突なことを平然と言ってのける。覚悟なんか、している余裕もなさそうだった。
次回第67話「あの子を守るために」
お楽しみに!




