065 「見えない姿」
1話1000字前後の短編連作です。3分もあれば読めるかと。
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「んもー、どっかんどっかんうるさくて集中できないよー!」
錬金術士は師匠の部屋で一人、嘆いていた。
失敗しないように錬金釜に集中を向けていたのだが、それを邪魔する音と衝撃が外から響いてきて、それどころではなかった。
いつの間にかパートナーのいぬねこも居なくなり、気を紛らわすための癒しが足りない。
「いぬねこちゃーん……」
ふわふわな毛をナデナデして癒し成分を補給しないとこれ以上集中を維持する事が出来ない。贅沢を言えばふわっふわな甲羅を持ったわたがめ様の方が効果は絶大だが、こんなところにあのピンク色の姿を見つけることはできない。
とりあえず、何とかキリのいいところまで錬金することができたので、かき混ぜ続けて疲れた腕を休めるために休憩に入る。
「ふいぃ〜……あぁ、糖分ほしー。あまいもの〜」
ずっと錬金釜から目を離さずにいたので、瞼を閉じると疲れが癒えてきて気持ちいい。一人用の大きめなチェアーがあったので、失礼を承知で腰かけた。凝った肩を回してほぐす。
「お手伝いくんがこのタイミングでお菓子持ってきてくれたらあと一週間はがんばれそうだなー……」
チラッ。
ちょっぴり期待がこもった目で入口を見るが、その先にも人の気配は感じられない。
久しぶりの完全独りに、どう過ごせばいいのか戸惑っていた。
「なーんて、そんな都合よくこないよねー」
分かってはいたが、いつもそばにいて欲しい時にいてくれた人の姿がないだけで、どうしてこうも人恋しくなってしまうのか。
おなかすいたーあまいものたべたーい。そんなワガママをいつも困ったような笑顔で受け入れてくれた姿を求めてしまう。
アトリエの前で倒れているお手伝いさんを助けてから3ヶ月。すっかりアトリエに必要な存在になってしまった。
「アトリエにっていうか、私に……」
そこまで口にしてから、錬金術士は小さく首を振る。
眠気が襲ってきてぼんやりと変なことを考えていた。口走っていた。
「よーし! まだまだこれから! がんばるぞー!」
改めて気合いを入れ直し、錬金釜の前へ。かき混ぜ棒を力強く握り締め、再び中身をかき混ぜ始める。
完成品の姿を脳裏に思い浮かべながら。
「いぬねこちゃんどこいっちゃったんだろ……?」
そんな僅かな不安も、錬金の集中にかき消されていった。
次回第66話「アレ」
お楽しみに!




