特別編10 「七夕」
一話1000字前後の短編連作です。3分もあれば読めるかと。
本編は毎週火曜日更新中!(って言っても今日がちょうど火曜日だから更新されてます!)
――少し外に出てみないかい?
犬にも猫にも見える動物、いぬねこが珍しくそんなことを言って二人をアトリエから外に連れ出した。
「どうしたのいぬねこちゃん? なんか珍し〜」
後ろで手を組んでのんびりと言うのは全体的にふわふわな印象を持つ錬金術士。のんびりとアトリエ周辺を、にこふわな笑顔で散歩する。
すでに太陽は鳴りを潜めて辺りは真っ暗。少し遠くに見えるアトリエから漏れる光が眩しく見えるほど。
「ですね。なにか思い入れでもあるんですか?」
危なげに歩く彼女の二歩後ろを、転んだら支えてあげられるよう気を配りながら歩いているのはお手伝いさん。
お手伝いさんは、頭の上で物思いに耽ているようないぬねこに問うた。
「思い入れと呼べるようなものは無いけれど、思うところはあるかもしれないね」
「なんですかそれ」
相変わらずな物言いに、やれやれと笑いながらお手伝いさんは先を行く錬金術士についていく。
頭上に広がるのは、広大なる曇天。晴れていれば満天の星空を拝むことも出来るのだが、残念ながら今日は見上げても重圧を感じるだけ。
「とある伝説の話だ。星空の世界には、オリヒメとヒコボシという大層仲の良い働き者がいてね、この二人は結婚を許されたんだが、それ以降仕事をしなくなってしまった」
「それはまたどうして?」
「仲が良すぎたんだよ。仕事を忘れて遊んでいたらしい」
仕事を忘れて遊んでいた。
何となく、ふわふわな髪を弾ませて前を歩く女性のことを言っているような気がしてしまう話だ。
「だから神――いや、『親』と言っておこうか。親は怒ってこの二人を引き離した」
二人は初めて聞く伝説なので、いぬねこは分かりやすいように言葉を選んで語る。
「えー、せっかく結婚したのにそれはかわいそうだよー」
「うん、小生もそう思う。だから年に一日だけは会えるように取り計らってくれた。それが今日なんだ」
「じゃあそのヒメとボシは今頃会ってるってこと-?」
「恐らくね」
いぬねこは彼女らしい愛称に苦笑しながら、三人して星の見えない空を見上げる。
あの雲の向こうでは、一年ぶりの再会を喜んでいる二人がいるのかもしれない。久しぶりの愛しい顔を見れたとき、どんな感情を抱くのだろうか。
「いぬねこちゃんの『思うところがある』って言うのは何ですか?」
「……二人とも、自分の仕事は忘れないでほしい、ということさ」
錬金術士とお手伝いさんは、口々に文句を言っているが、もちろん本心からの言葉ではない。
いぬねこの目には、錬金術士とお手伝いさんがオリヒメとヒコボシのように見えて仕方がないのだ。
本当に言いたくて、でも言わなかったこと。
――いつか、何者かの手によって二人は引き裂かれてしまうのではないか。
心にこびり付くようなそんな不安が、どうしても拭えなかった。
夜風に当たりながら大好きなお喋りでもしていれば、あるいは気が紛れるかとも思ったが、そうもいかないらしい。
「とにかく、後悔しないように自分の仕事はキッチリこなしてくれたまえ」
文句のうるさい二人を切り捨てるように言うと、錬金術士がキツい一言を言い返してきた。
「万年寝太郎のいぬねこちゃんに言われたくない」
「うぐ」
心に突き刺さる棘ある言葉の痛みで不安は紛れたが、想像以上のダメージに再起不能に陥ったいぬねこだった。
雨が降ると天の川の水位が上がって川を渡れず、二人は会えないらしいです。
だから二人の涙が雨となって地上に降ってきているんだとか。
梅雨の時季にしか会えないとか、意地悪ですね。




