007 「郵便ちゃん」
一話一話が2000字程度の短編連作となっております。一話読むのに三分もあれば充分くらいの文量ですので、何かの休憩などにチラッと読んで落ち着いて頂ければそれだけで書いた意義があるというものです。
週に一話投稿出来ればいいなぁと思ってます。
「ピクニック行くぞー! おー!」
錬金術士は子供のようにはしゃいでいる。
やる気を出してくれているようで良かったと安心したお手伝いさん。
「ん? お手伝い君なにか言ったー?」
家に入ろうとした手前で立ち止まり、聞き耳を立てた錬金術士。まさか心の声が聞こえているという訳でもあるまい。
「何も言ってませんよ?」
いったい錬金術士の耳は何の音を拾ったのだろうか。
「でもほら、声が聞こえるよ?」
「声?」
言われてお手伝いさんも同じように聞き耳を立ててみる。しばらく静かにしていても何も聞こえないから錬金術士のイタズラかと思い始めた瞬間、かすかに「すみませーん」という声が聞こえた。
……ような気がした。
くらいのレベルの音量で。
「ほら」
「……ですね」
確かに声が聞こえた。こんな小さい声を拾えるなんて随分な地獄耳だなと思うお手伝いさん。
声が聞こえた方向へ目を凝らしてみると、砂埃を巻き上げながら猛烈な勢いで走ってくる人が一人。方角は北。王国の方からやって来ている。
「あの人みたいですよ。たぶん」
走りながらも大きく手を振って存在をアピールしているように見えるし、聞こえてくる声も段々と大きくなってきた。
姿はまだ遠くてちゃんと確認出来ないが、聞こえてくる声は女の子の声だった。
それにしても凄い勢いだ。みるみるうちに距離が縮まっていく。
「おん待たせしましたっ!」
ズガガガガー! と二人の前で急ブレーキを掛ける女の子。気付いた時は、あれだけの距離があったのにもう到着してしまった。
「きゃ⁈」
「どわっ⁈」
ブレーキで、飛んで来た砂やら土やらをモロにぶっかけられたお手伝いさん。錬金術士はと言えば、
「ビックリしたねーお手伝い君」
「ええそうですね……」
見事にお手伝いさんを盾にしていた。
「どちらさまー?」
錬金術士はお手伝いさんの影からひょっこりと顔を出して突然の来訪者を見た。
白金色に輝くショートヘアに巨大なウサミミをつけた小さな女の子だった。
「かわいいー!」
一目見た瞬間に錬金術士はそう言った。確かにお人形さんのように小さくて可愛い。
「初めましてっ! 新しくこの地区を担当する事になりました、配達員のチナですっ。遅れてすみませんでしたっ!」
「あぁ、郵便ですね。ごくろうさまですー」
と、落ち着いた風に喋りつつも興味津々なようで目は光り輝いている。
「先生、ヨダレ垂れてます」
「おおっと……」
袖で拭う錬金術士。これじゃどっちが子供がわからない。
チナと名乗った女の子は新しい郵便配達の人らしい。ハキハキと喋って活発そうな印象があるし、動くたびにピョコピョコはねる大きなウサミミがとても似合っている。
お手伝いさんはさっきから体に付いたゴミを払い落としているのだが、想像以上に砂埃などをぶっかけられたようで、払っても払っても次々と出てきて苦戦中。
「今日から配属されたので配達と一緒に挨拶をしてたら遅くなっちゃいましたっ」
「挨拶回りはいい事だよー。郵便ちゃんは小さいのにしっかりしてるんだねー」
前の人は男性だったので〝さん〟だったが、女の子と分かるや〝ちゃん〟に変わっていた。
「えへへ……」
照れくさそうに鼻をこする郵便ちゃん。
「あ、ハイこれ。お届けものですっ!」
肩にかけたバックから一枚の手紙を取り出すと錬金術士に手渡した。
「はい確かに。ねぇねぇ、もしよかったら一緒にお茶でも飲んでかない? そうしよーよー!」
新しい郵便ちゃんをいたく気に入ったらしく、早速お茶に誘っていた。
「お誘いは嬉しいですけど、まだお仕事が――」
「ふわぁーあ……なんだか騒がしいね。いったい何があったというのかな?」
郵便さんの言葉を遮って家からいぬねこがあくびをしながら出て来た。
外の騒がしさで目が覚めてしまったようだ。
「出たーっっっっ!」
郵便ちゃんはいぬねこの姿を見た瞬間、素っ頓狂な声を上げて走り去ってしまった。
まるで脱兎の如く。まさに脱兎の如く。
「あぁ! 待ってー郵便ちゃーん!」
慌てて呼び止めるが、しかしその声は届かない。あっという間に遠くへ走り去ってしまった。
「行っちゃいましたね」
ようやく埃を払い終わったお手伝いさんは、肩を落とす錬金術士に声を掛けた。
「うんー、残念……」
ホントに本気で残念がっている錬金術士であった。
挿絵追加しました! 兎星アノさんが書いてくれました!