056 「もしかしなくてもヤバイかも知れない」
一話1000字程度の短編連作です。3分もあれば読めるかと。
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お手伝いさんが師匠に連れられて外に出た直後、
「そうそう、伝え忘れていた事があったのだが――」
錬金術士の修行に付き合っているはずのいぬねこが、部屋に戻って来た。
「おや?」
しかし部屋には誰も居らず、いぬねこはキョロキョロと二人の姿を探す。
お手伝いさんに爆発の件の口止めをし忘れていた事を思い出したいぬねこは、手遅れになる前に伝えに来たのだが、一足遅かったようで入れ違いになってしまった。
「二人が居ないという事は、もしかしなくてもヤバイかも知れない……というやつだね」
二人きりになっているとも限らないが、別々になっているというのもまた考え辛い。
こういう場合は最悪の事態を想定して動くのが定石というもの。
つまり二人は今一緒にいるがここにはいなくて、師匠が謎の地響きの事をお手伝いさんに問い、そして〝もしかして〟と心当たったお手伝いさんがボロボロといぬねこが黙っておいた情報を零してしまう事。
それが今考えられる最悪の事態。
師匠は『誰かのせいだったら錬金の材料にしてやる』と言っていた。このままだと何も知らないお手伝いさんが錬金術の材料にされてしまう。
いや、下手をすればいぬねこも危ういだろう。お手伝いさんがいぬねこも一緒に居た事を黙っているとも到底考えられないからだ。
「この家には居ないだろうから恐らく二人は外……ううむ、しかし……いや、だが……」
師匠の家の部屋数は四つと少ない。今いぬねこが居る一番大きな部屋のリビング、倉庫に師匠の部屋、そしてバスルーム(トイレも)の四つだ。
一人暮らしとしては広すぎるくらいの間取りだが、職業柄荷物が増えてしまうため、いた仕方ない部分もある。
錬金術士は師匠の部屋で修行中。位置的には左右に倉庫とバスルームがあって挟まれているため、どちらかの部屋に出入りがあれば振動や物音で判別できるのだがそれが無かったのでいぬねこはこの家に二人が居ないとすぐに分かったのだ。
ではどうして外に居ると分かりつつも、こんなに渋っているのか。
「一人で出るには寒すぎるな……三分と持たず凍え死ぬ姿が目に浮かんでしまうではないか」
極端に寒さを苦手とするいぬねこは、割と本気でそう考えていた。
そして割と真実でもあった。
「一匹では毛布に包まったまま移動は出来ないし、修行の邪魔をするわけにもいかんし……」
錬金術士の集中力はとてつもない事をいぬねこは知っている。そしてその集中を中途半端に途切れさせてしまうと錬金に失敗する事も知っている。
錬金の失敗、それすなわち大爆発。
錬金しようとしていた物によって規模は変わるが、大小あれど爆発する事には変わりない。以前珍しく失敗して家を半壊させた事もあるので、出来る限り錬金の失敗を誘発するような行動は取りたくないのである。
「小生がこんな姿ではなかったらもっと打つ手があったというのに……」
ああじゃない、こうじゃない、あれは無理そう、これも無理そうと一匹で右往左往している間にも話が進んでいるかもしれない。
刻一刻と、命の危機が迫っている。
錬金術の材料として死ねるなら本望だ、と一瞬諦めかけたが「いやいや、小生は阿保か⁉︎」とすぐに思い直す。
逆だろう、と。
錬金術の材料として死ぬくらいなら凍え死んだ方がマシ。
「いやいやいや、だから小生は阿保か! 馬鹿なのか⁈」
そもそも師匠が言った事は本当に本気なのか? 彼女なら充分にやりかねない事だが、いくらなんでも自分の弟子のパートナーや助手を殺してしまうような真似までするか?
答えは否。そこまではしないだろう。
しかし最悪の事態を想定して動くのが定石というものと、先程も言った。
「ええい、なるようになれ!」
いぬねこは意を決し、外へと飛び出して行った。
次回第57話「師匠と」
お楽しみに!




