038 「しっかりした子」
一話一話が1000字程度の短編連作です。一話読むのに3分かからないかと。
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「今頃先生は何をしてるんでしょう? 大丈夫でしょうか?」
「あの子なら心配はいらない。なんだかんだ言ってもしっかりした子だよ」
手に持ったランプの明かりだけを頼りに、不確かな足場の道を歩いていく。
いぬねこはああ言うが、お手伝いさんにはイマイチその言葉が信用出来なかった。本当にしっかりした子なのだろうか。
確かに怪鳥に襲われた時には、見た事も無いような俊敏な動きをしたが、それとこれとは話が別だ。スッカスカのリュックを背負って何がしっかりした子なのだろう。
「本当ですか? 約3ヶ月一緒に過ごしましたけど、先生にそんな感想は抱きませんでしたよ?」
「ふっふ、サラッと酷い事を言うんだね君は。まぁ聞かなかった事にしておいてあげよう」
そう言ってからいぬねこは、しばらく黙りこくった。何かを考えているように見える。
喋っていい事なのか、ダメな事なのか。
それを探っているような印象を受ける。
思考の邪魔をしないように、お手伝いさんは無言で歩を進めていた。
「……アレには理由があるのさ」
やがて、いぬねこはゆっくりと静かに言った。
「理由?」
いぬねこが言う〝アレ〟とは一体なんなのか、ピンとは来なかったが話の流れから察するに〝しっかりした子〟に関する事なのは分かる。
「昔は、真面目……いや、生真面目という字を擬人化したかのような子だった」
急に訳の分からない事を言ってきたり、本来ならば自分の当番なのにお手伝いさんに押し付けてきたり、人間が食べられないような物を作ってしまう人が、昔はそんな真面目だったと言うのか。
「だから〝伝説の錬金術士〟とまで呼ばれているんだよ。今でこそあの調子だが……」
考えてみれば錬金術士がどうして〝伝説の錬金術士〟と呼ばれているのか、そこまでは知らなかった。確かに有名な人ではあったが、何をして有名になったのか、それをお手伝いさんは知らなかった。
「とある出来事がきっかけで、真面目である事を止めたんだ」
「とある出来事……ですか」
一体何があったのだろう。
いぬねこがとても重い内容のように話すものだから、突っ込んだ場所まで聞いていいのか、判断に困ってしまう。
「小生が今喋れるのはここまでだ」
「あ……」
いぬねこの口からはそこまでが限界のようだった。これ以上はきっと、錬金術士から許可を得たり、同伴だったり、もしくは本人の口からしか聞けないようだ。
やっぱりその先はまだ聞いちゃいけない事だったんだ。
「さぁ、ペースが落ちているよ。早く歩きたまえ」
「置いていきますよ……⁈」
重苦しかった空気はどこへやら。
次回第39話「迎えに行かなきゃ」
お楽しみに!




