004 「名前」
一話一話が2000字程度の短編連作となっております。一話読むのに三分もあれば充分くらいの文量ですので、何かの休憩などにチラッと読んで落ち着いて頂ければそれだけで書いた意義があるというものです。
週に一話投稿出来ればいいなぁと思ってます。
今日はとても天気がいい。絶好の練金日和だ。
「それはそうとお手伝い君。私が教えた事をちゃんと覚えてるのは偉いし嬉しいんだけどさ」
錬金術士が言っているのは「人の体のほとんどは水で出来ている」の事だ。
「先生は止めてって言ってるでしょー? 私にはソーラって名前がちゃんとあるんだからねー?」
お手伝いさんがここで錬金術を学び始めてから3ヶ月。正確には学びに来た訳ではなく、倒れているところを偶然拾われた。
そのお礼として、お手伝いをしているのだ。
「それを言ったら僕にだってヴィオって名前があります。お互い様じゃないですか」
「そうだけどぉ……」
錬金術士はムスッと頬を膨らませ唇を尖らせた。
「歳は近いのに〝先生〟っておかしくない? お手伝い君は言ってて恥ずかしくない? 言われてる私は割と恥ずかしいんだけど」
「特に恥ずかしいと感じた事はないですね」
先生と呼ばれて恥ずかしがっていた事は知らなかったが、呼んで恥ずかしいと思った事はない。
だが、もし逆の立場だったら先生と呼ばれるのは確かに恥ずかしいだろうなとは思った。だからと言って呼び方を変える気は、今のところ無い。
「他に聞いてる人いないんですから、気にしなくてもいいんじゃないですか?」
強いて言うならいぬねこが聞いてるくらいで、この家の付近に人が近付く事はあまりない。
訪ねてくるのは郵便の人と、依頼がある人くらいだ。わざわざ忍び込んだり盗み聞きをしたりする人なんかいない。
「いぬねこちゃんが聞いてるもん」
「そうですけど……いぬねこちゃんは気にしてないですよね?」
いぬねこは窓から差し込む暖かな日差しに目を細くしてひなたぼっこをしていた。
「んー? 良いんじゃないのかな」
実に眠そうな声で返事が返って来た。いつもならしっかりと話を聞いて、どうでもいい所まで掘り下げるくせに肝心な時に限ってこれだ。
「ほら、気にしてないって言ってますよ」
「そんなこと一言も言ってなかったよねー⁈」
いぬねこはそのまま眠りに落ちてしまったようだ。丸まって小さな寝息を立て始めた。
「とにかく仕事をしましょう。今日は依頼ないんですか?」
少し強引に話を進める。
先生って呼ぶなと言われるのはこれで何度目か分からない。このやりとりはいつもやっているので、呆れていぬねこは寝てしまったのだろう。
「もう、お手伝い君イジワル」
渋々といった体で切り上げてくれた。
果たして、いつかお互いを名前で呼び合う日は来るのだろうか。
(小生をちゃん付けで呼ばないで欲しいんだけどもね。言っても聞かないんだろうな、この二人は)
いぬねこの心の声は、誰にも届かず、誰にも伝わらず、夢の中に消えていった。