002 「命の灯火」
一話一話が2000字程度の短編連作となっております。一話読むのに三分もあれば充分くらいの文量ですので、何かの休憩などにチラッと読んで落ち着いて頂ければそれだけで書いた意義があるというものです。
週に一話投稿出来ればいいなぁと思ってます。
「なるほど。言いたいことは分かった」
興奮した子供を落ち着かせるような声音でいぬねこが言う。
お手伝いさんがこの家に来た時にはいぬねこもいたので、この二人? 一人と一匹? の関係は分からない。でも、まるで親子のように感じる瞬間がたまにある。
「でもそういう事なら、命のともし火って言葉がすでにあるじゃないか。わざわざ別の言い方をしなくてもいいんじゃないのかい?」
「風船の方が具体的です!」
確かに風船の例えだと天国とか地獄とか、そんなのまで出てきているから具体的ではある。
錬金術士は新しいものを生み出す柔軟な発想に重きをおき、いぬねこは古き良き発想を大切にする。
こんな二人だからこそパートナーとして上手く機能しているのだろう。
「それに風船の方が可愛いでしょ? お手伝い君もそう思うよね?」
急に話を振られたお手伝いさんは困惑した。
命の話に関しては、正直ともし火の方が分かりやすいと思った。でも風船の例えも面白いし、悪くないと思う。
命の話題な訳だからそこに可愛さや面白さを求めるのは如何なものかとお手伝いさんは考えるが、女の子の思考傾向としては、その部分も大事な要素なのかもしれない。
「そうですね」
と、ここは当たり障りのない返事をしておく。
「だが先人の残した言葉は大切にするべきだ。学ぶべき事が多い」
しかしいぬねこは納得いかないのか食い下がってきた。
「確かにそうですね……」
お手伝いさんは同意した。
世の中には有名な言葉や諺がごまんとある。どうして昔の言葉が今も残っているのかなんて、少し考えれば簡単に答えに辿り着けるはずだ。
答えは、実際に〝その通り〟だからだ。
「一寸の虫にも五分の魂という諺がある。虫だろうが人間だろうが、同じく、等しく、均等に命があるという意味だ」
それは、ここじゃないどこか遠い世界の古い言葉で、
それは、ここじゃないどこか別の世界の古い言葉だ。
どういう訳か、この家にはそういう事が記された書物が残されていた。
「生きて鼓動する全ての存在に、命のともし火は宿っているのさ」
それだけで全てを語り終えたのか、満足したような顔をして二人を見る。
もちろん本当にそんな顔をしているのかなんて分からない。
「よく分からないけど、いぬねこちゃんが物知りと言う事は分かりましたです!」
拳を握りしめて錬金術士は言った。
どうやら一番分かって欲しい人には伝わらなかったようだ。