113 「いえ! それはダメです!」
一話1000字前後の短編連作です。
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想像以上にアトリエが散らかっていたこと、復帰したばかりということ、なんとなく錬金術士と同じ空間にいるのがこそばゆいということ。
それらの理由からかなり掃除に時間がかかってしまったが、あらかた片付いた。
個人的にはまだまだ満足いく出来栄えではなかったが、これから先、時間はたくさんある。なにも一気に終わらせなくてもいいかと、思い直したのだった。
「っふぅ」
一息ついたお手伝いさんは、食事の用意をしようと思い台所に立ち、そして顔面蒼白になる。
「ああ、そうだった……」
「なに? どうしたの~?」
お手伝いさんの思わず漏れた呟きを健在の地獄耳で拾った錬金術士は手を止め、視線をお手伝いさんへ向ける。
「いや、ご飯を用意しようと思ったんですけど、材料が無いことをすっかり忘れてました……」
彼が床に伏せっている間、料理スキルが壊滅的な錬金術士は主に出来合いのものを近くの王国から買い溜めして凌いでいた。
そのストックも底を尽き、およそ食べられるものは今のアトリエには無い。
「お~、そういえばそうだったね~。今日は買いに行くにはもう遅い時間だし、明日王国に行くとして~……」
指を口元に当て、中空を見つめながら思案する錬金術士。考えながら、練金釜をかき混ぜる手を再開させる。
「今晩はどうしよっか~? 1食くらい抜きにしても問題無いけど――」
「いえ! それはダメです!」
ピシャリと言い切るお手伝いさん。
「ダメなの~?」
「なんか負けた気がするんで。僕がなんとかしてみます」
ずっとベッドから動けない日々を送っていたお手伝いさん。その間の看病も、いぬねこと錬金術士に頼りっきりであった。
お礼も兼ねて、今こそお手伝いさんの存在意義を発揮するとき。
「確かここに――」
お手伝いさんがとある棚を漁り始める。
「あっ、お手伝い君、そこは――!」
「――っと、あったあった」
慌てて引きとめようとした錬金術士だったが、一歩遅かった。
「僕が知らないとでも思ったんですか?」
ニヤリと微笑む。
お手伝いさんが手にしていたのは、かつて彼が作った保存のきくお菓子が詰められた四角い缶。
アトリエの隅々まで清掃していたのだから、どこになにがあって、そこになにが隠しているのかも把握している。
「あえて残して、夜な夜な食べていることも知ってますから」
「なぜそれを?! そんなぁ~……」
肩を落とす錬金術士。
お手伝いさんがそれを手にしているということは、お菓子が食事になるということ。
お菓子はおやつの時間に食べるもの。決してご飯ではない。
そう決めていた彼女は、とうとう自分の信念を曲げるときがやってきたのかと、覚悟を固めかけるが、
「これであったかいスープでも作ってみましょう」
「え、スープ? でもそれお菓子だよ?」
「知ってますよ。なにせ僕が作っものですからね」
和かに笑うお手伝いさん。
手際よくお鍋の用意を進めると、錬金術士に視線を向けた。
「アトリエの裏にあるハーブを少し頂いてもいいですか?」
「うん、いいよ~」
「すぐにできるんで、早めに終わらせてくださいね」
そう言い残し、玄関口から外に出てハーブを取ってくるのだった。
***
言われた通り最速で仕事を終わらせた錬金術士は、
「お、美味しい~……!」
元はお菓子だったスープを一口含んで、舌鼓を打つ。
「それはよかったです」
満足げに頷いて、お手伝いさんはまともに動かせるようになった手でスプーンを操りスープをすする。
程よく残った食感と、わずかな塩味が身体に沁みるようだ。ハーブの香りもいいアクセントになっている。我ながら残り物だけにしてはいい出来栄えだと内心で自画自賛。
久しぶりの錬金術士の笑顔に、胸がいっぱいになるお手伝いさんであった。
次回第114話「ヒ・ミ・ツ〜!」
お楽しみに!




