特別編19 「うるう年」
一話1000字前後の短編連作です。
本編は毎週火曜日更新中!
部屋を暗くして、テーブルの上には一本のロウソク。
ゆらり揺らめく灯りをぼんやりと見つめながら、犬にも猫にも見える動物、いぬねこはひっそりと口を開いた。
「ついにこの時がやってきてしまったようだね……」
「なんか怪談っぽい雰囲気ですけど、何が始まるんです?」
「さ〜?」
お手伝いさんの質問に、小首を傾げる錬金術士。
やけに神妙な声を出すものだから静かに聴き入ってしまうが、果たして今日は何かある日だっただろうか?
いつものようにふわふわな髪と白衣を楽しそうに動かして錬金術士は仕事をしていたし、お手伝いさんも日々の雑用を無難にこなしていた。
特別な意味のある日ではなかったように記憶している。
「今日は、4年に一度だけやってくる、存在しない1日……うるう年!」
「……はい? なんですかそれ?」
いぬねこのよくわからない言葉に錬金術士とお手伝いさんは揃って首を傾げる。
この様子と「4年に一度」というワードから察するに、本日2月29日はそこそこ重要な意味合いを持っているようだ。
しかしそれらしい雰囲気は感じ取れないし、仕事の依頼を毎日運んできてくれるウサミミがトレードマークの郵便ちゃんの様子もいつも通りであった。
「二人は1日が何時間か知っているかい?」
「それは……24時間ですよね?」
常識的なことを意味深に聞いてくるものだから少し恐いが、間違いはないはず。毎日を過ごしているのだから、間違えようがない。
「30時間くらいにならないかな〜とは思ってるけど〜」
「違う世界に生きてますよそれ」
錬金術士の願望は置いておいて。
「そう、24時間だ。しかしこれは正確に言うと誤りで、実際は4分ほどの誤差がある」
「4分? っていうと、24時間と4分が1日ってことですか?」
「いやすまない、言い方が悪かったね。足すのではなくて引くのだよ」
「じゃあ〜、23時間と56分が1日ってこと〜?」
「その通りだ」
いぬねこは博識である。この認識は二人の間でも確信を持って断言できることなので、いぬねこの言葉に疑いを持つことはなかった。
だが当然、疑問は湧いてくる。
「それを聞くと毎日4分だけ損してる気分になりますね。で? その誤差があるとどうなるんですか?」
「あ、なるほど〜」
お手伝いさんがよくわかっていないまま、錬金術士は納得の声を上げた。
今の話だけで何をどう納得できたのか謎だ。
「お手伝い君。一年は何日〜?」
「365日ですよね」
「それだけの日数で4分を損し続けたらどうなると思う〜? 長い目で見て」
計算は得意な方ではないが、毎日4分損するとどうなるか、という考え方ならわからなくもない。
「……いずれ一年が消滅しますね」
「そうならないために、4年に一度だけ1日多くして、『一年が365日』という常識を維持するんだよ〜。ってことで合ってる、いぬねこちゃん?」
「その通りだ」
満足げにうなずくいぬねこ。
「その1日多い日がまさに今日というわけさ。つまり我々は今、本来は存在しない1日に生きている……そう考えると恐怖を覚えないかい?」
「いえ全然」
「だね〜。むしろ1日得した気分?」
「あっ、そうですか……」
いぬねこの感覚を共有できなくて悪いと思いつつ、得した1日を有意義に過ごすのだった。
危うく4年に一度のチャンスを普通に過ごして逃すところでした。セーフ!




