085 「脱出開始」
1000文字前後の短編連作です。
毎週火曜日更新中!
「スッキリしたからそろそろ行くか」
あらかたアイテムの山を胸の谷間にしまい込むと、師匠はおもむろにそう言った。
「そろそろ行くって……そんな簡単に言わないでくださいってば」
いったい誰のせいでこんな大変な目に遭っているのか、本当に自分で分かっているのだろうか。お手伝いさんは本気で心配になってきた。
「テメーはこのアタシを誰だと思ってんだ? この辺はアタシの庭みたいなもんだぞ?」
長年この土地に暮らしているのだから、確かに庭みたいなものだろう。彼女以上にこのあたりの地形を熟知している人物など世界のどこを探しても見つかりはすまい。
師匠は電気を帯びたオーブを取り出し、布を広げると、お手伝いさんの腕を掴んで強引に崖へ飛び出した。
「えぇぇぇぇ!?!?!?」
広げた布にオーブで電気を通して硬化させ、そのまま足元へ。固まった布の上に乗って崖を滑り落ちていく。
「大先生死ぬ気でスカァッ!?」
「んなわけあるか。ここは下るにつれて傾斜が緩やかになってんだよ。このまま滑り降りて地面に激突! なんてことにはなんねーから安心しな」
突然の自殺行為に大いに慌てるお手伝いさんとは裏腹にいたって落ち着いた師匠。長年をこの山で暮らし、この辺りの地形を熟知しているからこその自信だった。
そうとは知らないお手伝いさんは失神寸前だ。
「ああああぁぁぁぁっぁっ〜〜!?!?」
崖を滑り落ちて内臓が浮かび上がるようなゾワッとした感覚を腹部に感じ、自然と肺から絶叫が弾き出される。顔面蒼白になりながら、振り落とされないように師匠にすがるようにしがみ付く。
対するは、非常に楽しそうに黄色い声を上げて硬化した布を巧みに操り崖を滑る師匠。
仮に何事もなく下まで滑り降りれたとして、また上まで登る必要があることを考える余裕などあるはずもなかった。
「ひゃっほ〜〜うっ! ちょーさみぃぜー!!」
大きなとんがり帽子の鍔を摘んで飛ばないようしつつ、楽しい悲鳴をあげる。
この時だけは、いぬねこの捜索などもはやどうでもいいと本気で思ってしまったお手伝いさんだった。
次回第86話「出るから気を付けろよ」
お楽しみに!




