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001 「命の風船」

一話一話が2000字程度の短編連作となっております。一話読むのに三分もあれば充分くらいの文量ですので、何かの休憩などにチラッと読んで落ち着いて頂ければそれだけで書いた意義があるというものです。

週に一話投稿出来ればいいなぁと思ってます。

挿絵(By みてみん)


 広い広い草原にある丘の上に一軒、ひっそりと小さな家が建っていました。

 その家には伝説の錬金術士と呼ばれる女性、犬にも猫にも見えるパートナーのいぬねこ、そして特に特徴のない男性のお手伝いさんの三人が暮らしている。


「お手伝い君。命ってなんだと思いますかー?」


 ふわふわした服装にふわふわした髪にタンポポの綿みたいなふわふわの髪飾り。おまけにしゃべり方までふわふわな錬金術士はぶっきらぼうに聞いた。


「いきなりそんな事聞かれても困りますよ」


 本当に困った風をして返事する。

 錬金術士が唐突に変な事を言うのは今に始まった事ではないが、今日は特段に変な事を聞かれた。


「それはつまり、どう答えればいいんだい?」


 いぬねこが落ち着いて聞き返す。

 犬のような猫のような、犬であり猫であるみたいな、まるでどっちつかずの見た目をした生き物が喋った。

 ……喋った。


「私は命って風船だと思うんです」


 そう言った錬金術士は棚から箱を下ろして中から赤い風船を取り出した。

 まだ空気が入っていない真新しい風船だ。


「命の誕生とともに風船は膨らんでいき……」


 話をしつつ風船の口から息を吹き込んで膨らまそうとするが、全く膨らまない。

 どんどん顔が真っ赤になっていき、終いにはその風船と同じくらい赤くなった。

 早々に膨らますのを諦めた錬金術士は小さくハァハァと息を切らしている。


「お手伝い君」


 それだけ言うと錬金術士は風船をお手伝いさんに手渡した。

 何の説明も無しに渡されてもどうすればいいのか分からない。


「私の代わりに膨らませて? 私じゃ全然ダメなんだもん」

「ああ、そういう事ですか。わかりま……」


 した。と続ける前にギリギリで気付いた。

 これって間接キスになるじゃないか。

 錬金術士はそういった事に頓着しない性格というのをお手伝いさんは知っている。知っているが、どうも踏みとどまってしまう。

 いいのだろうか、と。

 その事を知ってか知らずか、いぬねこはニンマリした表情で見つめている。本当は表情なんかよく分からないけどこの時だけはそんな顔をしていると思った。


「どうしたの? 早くー」

「はい」


 覚悟を決めたお手伝いさんは大きく息を吸って一息に風船へ空気を送り込んだ。

 もう一度息を吸って吹き込み、段々と大きくなっていく風船。

 それを見た錬金術士は満足したような顔で続けた。


「大きく膨らんだ風船が、持ち主の手から離れたら空高く舞い上がり天国へ」


 ふわふわと浮かび上がる風船の軌道を追うように指先を空へ向けた。


「割れたら地に落ち地獄へ」


 上げた手をストンと下ろして床を指差した。


「何か悪い事をしたら他人からの視線や悪口で風船が傷付き、罪悪感に圧迫されいずれ割れるんです」


 ペチン、と可愛く手を打った。風船の割れた音を伝えたかったのだろうが、それじゃ小さくて瞬きにも劣るだろう。

 風船に空気を入れ終わったお手伝いさんは、口を縛って錬金術士に渡してあげた。


「ありがと」


 小声で礼を言うと話を続ける。


「寿命を迎え、紐が持ち主の手から離れたら天国に向かうんです」


 受け取った風船をポーンと軽く放りあげる。当然、息で膨らませた風船だから話のように宙へ舞って行ったりはせず、ゆらりゆらりと落ちてきた。


「これが、私の思う命です!」


 腰に手を当て、自信満々に言う。

 そしてポーン、と錬金術士の頭の上に風船が落ちてきたが全く気にしていない様子。


「…………」見つめるお手伝いさん。

「…………」見つめるいぬねこ。

「…………?」首を傾げる錬金術士。


 というか、気付いてすらいなかった。

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