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巫女と巨人  作者: Anzus
4/4

彼女と彼と、現状

ディアンの年齢を変更しました:10/24


「えっと……久しぶり。二年半ぶりぐらいだっけ?ちょっと老けた?」


とりあえず思考を目の前の現実に戻して、彼に声を掛ける。

私としては当たり障りないはずだった冗談交じりのその問いは、何故か彼を苦笑させた。


「いや。この世界では、あれから既に30年経っている」

「……はぁ?」


首を横に振ってそう言った彼の言葉を信じるどころか受け入れることすら出来ず、怪訝な顔をして素っ頓狂な声を出してしまったのは仕方ないと思う。

だが、彼が冗談を言っているようにも見えないし、彼はあまり冗談の類を好まない。第一、こんな嘘を言ったところで、彼には何の得も無いだろう。むしろココで「ドッキリ大成功!」とかって看板を出して来たら、私は彼を殴っても文句は言われないと思う。と言うか、言わせない。


しかし、だからと言って受け入れるには少々どころではなく色々とおかしい。何の因果か知らない間に違う世界に来てしまったのだからタイムラグがあっても今更驚かないが、30年が経過していると言う割には、彼の容姿は以前共に過ごした時と殆ど変らないのだ。思わずまじまじと彼を眺めてしまった私に、彼は更に苦笑を溢した。


「……30年?」

「あぁ」

「冗談でしょ?」

「冗談ではない」

「や、だって、てかディアンって今幾つ?」


混乱して質問責めにする私に、少し視線を上の方で彷徨わせながら指を折りつつ何か考えているような表情を見せた彼は、しばらくして私に視線を戻し、とんでもない爆弾を投下してくれた。


「166だ」

「はあぁ?!」


ただでさえ混乱しているところに、更に爆弾を投下されて半分悲鳴に近い声を上げた私に、予想の範疇だったのか特に驚くでもなく微かに苦い笑みを浮かべるディアン。人間の寿命ではありえない数値に、そういえば彼は人間ではなく巨人族という種族だったなと思い至る。


何このファンタジー、と少し遠い目をしてしまったのはご愛嬌だ。


「あ~……。……まぁ、本題はそこじゃないし、とりあえずこの話は横に置いとこう。で、何で私が此処に居るの?家で寝てたはずなんだけど」


思考を少し遠くに飛ばしたことで少々落ち着いた精神が、本題へと意識を戻す。考えてみれば、彼が今幾つであろうと今私が置かれている現状況において大した問題では無いのだ。


とりあえず、何故ここに居るのかと、帰る方法の有無、それと帰るにしても帰れないにしても、当面の生活は自力で何とかしなければならない訳で、その方法も聞いておけたら聞いておきたい。


暫くはディアンに世話になるにしても、帰れない、又は帰るのに時間がかかる、帰れるには帰れるが方法が見つかっておらず長期戦になる等々、可能性は上げればキリが無い。長期でこの世界に身を置くともなると、ずっと世話になりっぱなし、という訳にもいかないだろう。出来ればディアンがしていたという「冒険者」のような、危険と隣り合わせな生活は避けたいし、そこのところも詳しく聞いておきたいところだ。


何故、ここに来たのか。正確には、どうやって此処に来たのか。それさえ分かれば、帰る方法が分からずとも、糸口ぐらいは見えるかもしれない。「異世界」なんて右も左も分からない場所に身一つで放り出されて、素直に野垂れてやるほど私はお淑やかではないのだ。

ましてや、話に聞いていた限りだとこの世界はどうも技術的な発展が遅れているらしく、脆弱な現代っ子である私が何事も無く生き残れるとは到底思えない。夏の直射日光にも、冬の乾燥にも、季節の移り目の急激な温度変化にも弱い私が、現代機器の助けなしに日常を平穏に生きていけると考えられるほど、自分の体力に自信は持てないのだ。正に死活問題である。


とはいえ、実は聞いたところで答えが返ってくるとは思っていない。というのも、彼が私の世界に来た時も「偶然依頼で調査していた遺跡にあった魔方陣が、誤作動を起こして巻き込まれた挙句、知らない土地に倒れていた」のを偶々保護したのだ。彼が帰った時だって、何の前触れも無くいきなりだった。となれば、偶発性の高い現象である可能性が高い。何らかの鍵になる要素があるにせよ、それこそ頻繁にあるような事では無いだろう。私が保護した当初、彼は自分の身に何が起こっているのか受け止められず、混乱していたのだから。普段は冷静な彼の事だ、「良くある話」だったなら、あそこまで見事なまでに混乱するような事は無かったはずだ。


案の定というか、彼は少し目線を伏せて、苦い顔をして首を横に振った。その表情に、若干申し訳なさそうな色が見えて、思わず今度は私が苦笑する。


彼がそんな顔をする必要は無いし、罪悪感を感じる謂れは無いはずだ。むしろ、保護してくれているのが彼であることは、かなりラッキーだと言える。見知った人が居るのと、そうでないのではやはり精神面でもかなり違うし、もっと言えば、彼のようにいきなり知らない街で道端に倒れていたら、誰かが保護してくれているとは限らないのだ。むしろ、怪しい行き倒れを保護するような奇特な人は少ないだろう。この世界には、若い女性を浚って娼館に売り飛ばして日銭を稼いでいる人も居るらしい。最悪、そういった人に知らない間に売り飛ばされていても、何ら不思議ではなかったのだから。


「そっか。まぁ、予想はしてたけど。しょうがないね、何とかなるさ」


兎にも角にも、今の段階では情報が圧倒的に不足していて、動くに動けない。半ば開き直って肩を竦めたが、彼は納得しなかったようで、何でも無いように軽く言う私に怪訝な表情を返してきた。




考えを一から説明するのも面倒で、私は口の端を持ち上げて、ニッと笑みを返しておいた。







まだヒロインの名前すら出てこない……

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