彼女と、彼と、再会
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(……あれ?)
目を開けたと同時に、ガチャ、と音がして開いた扉に目を向けると、男の人が立っていた。
褐色の肌に堀の深い端正な顔立ち。私が起きていてビックリしたのか、その涼やかな切れ目は少し見開かれている。目は混じりっ気がなくて透明度が高い金色。少し赤が交じったダークブラウンの髪は短く切ってあって、襟足に届いていない。少しあっちこっちに跳ねてるから髪質は硬い方なのかもしれない。
そんなことをつらつらと考えながら、私は少々……いや、かなり衝撃を受けていた。
(この人、どっかで……?)
そう、何処かで会ったような気がするのだ。
古いナンパのようなセリフだが仕方が無い。どうしても初対面のような気がしないのだから。ただ、何処かで会っているにしても、何処で会ったのかが思い出せない。訊くにしても、この明らかに日本人離れした容姿の外国の方っぽい人に、日本語が通用するのかという問題もある。
とりあえず、さっきから突っ立って固まってる彼の事は後で考えよう。何か用があるなら、放って置いても声ぐらいはかけてくるだろうし。私からは用が無いから、自分から相手をする必要も無い……いや、ここが何処なのかぐらいは、聞いておいたほうが良いかもしれないが。
ゆっくりと身を起こしベッドに座り込む。ついでに伸びを一つ。「んうー」と間抜けな声がしたのは気のせいだと主張しておく。原因は私だが。
肩から力が抜け周りを見渡すと、木造の壁や床が見えた。クローゼットや箪笥、ナイトテーブルなどの家具が置かれているが、必要最低限と言う感じ。殺風景と言うか、何にもないと言うか。ガラス窓は閉まっていて、外には森としか表現できない景色が広がっている。
そして、もう一度周囲を見る。最後に天井を見て素直な感想を一つ。
(デカ)
デカい。
何が、というのでは無く、むしろ全部が最低でも日本人のサイズでは無い。天井は高いし部屋も広い。最低限置かれている家具も、自分では十中八九上の方には手が届かない。そして、やっと意識が帰ってきたのか、こちらに近づいてきた男の人に顔を向けて納得した。
部屋が全体的に大きすぎて違和感が無かったが、この人自体がデカいのだ。私自身もそれほど背は高くない。むしろ小さい方だが、それにしても彼と並ぶとまるで大人と子供だ。なるほど、彼のサイズに部屋や家具を合わせると確かにこのサイズになるのだろう。
ふむふむ、と一人で納得している私を少し不思議そうに見やった彼は、手近な椅子をベッドサイドに引き寄せてそこに座る。……椅子って言うか、私が使うと下手したらちょっとした机に出来そうなサイズなのに、彼が使うと普通に椅子だ。身長差もここまでくると、いっそ感心する。
「起きたのか」
見りゃ分かると思うけど、と思ったことはとりあえず口には出さず、彼の様子を観察する。
まず、最初にデカい。
そして、初対面な気がしない。むしろ、感覚の何処かに何かが引っかかるこの感じは、自分が彼を知っているからなのだろう。
表情の変化が少ない彼は他者を寄せ付けないような雰囲気を纏っており、ある種の威圧感すらある。
だが、目元は優しい。無駄に警戒心を抱かずに済んでいるのはそのせいだと言っていい。表情じゃ無くて目で感情を出すタイプか。それで無くても人の感情を読むのは苦手なのに何て面倒な……そこまで考えて。
ふと気付く。
私は彼を知っている。
正確には、彼の柔らかな視線に覚えがあるのだ。
無条件に安心感を抱くあの視線は……
「……ディアン?」
有り得ない、むしろ有り得て欲しくない。
思わず口角が変に強張って声が震えたのは、もうこの際混乱のせいにしておく。
彼のはずがない。
色々辻褄が合わない。
私の問いに、彼は再び目を少し見開いて。
そして優しかった目元を更に柔らかくして、口元には微かに笑みまで浮かべて
「覚えていてくれたのか」
と、心底嬉しそうに肯定した。
そういえば日本語通じてるな、とどこか遠くでぼんやりと考えながら、今度は彼では無く私がフリーズすることになったのはむしろ仕方が無かったと弁解しておく。