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無限英雄  作者: okami
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第5話『脱獄』

 体育館に威勢のいい気合が木霊する。

 放課後の部活の剣道部が竹刀を振り下ろしながら吐く気合だ。


「持ち方はこう」


 剣道部主将の剣魂壱的けんこんいってきは京介の竹刀の持ち方を正した。

 京介がクラスメイトの壱的に頼んで指導してもらっているのである。

 前の敗北があるので、少し剣の事について知っておこうと思い立ったのだ。


「なあ、たとえばよ、相手が真剣で自分が竹刀でさ、そんな場合は、どうやって戦う?」


 素振りをしながら京介は腕を組みながら見ている壱的に尋ねた。


「相手の剣が受け止められない状態か」


「そう。どうにかなる?」


 壱的は少し考える素振りを見せる。


「そうだな。白刃取りか…相手に攻め手を与えないかのどちらかかな」


「相手に攻め手をねぇ…」


「実際、戦場なんかじゃ、刀で斬り合うなんて序盤だけ。あとは肉弾戦になるからな。

 刀を持ったあいてに素手で向き合う格闘技なんかもあるはずだ」


 それを聞いた京介は竹刀を投げ捨てた。


「よし、それを教えてくれ」


 と壱的迫った。


「知らん。試合の剣道にそんな技術は必要ないからな」


 もっともだ。




 刑務所。

 インフィニティにやられた囚人達は大概ここに留置される。

 実際の所は超人用の特別なところではなく、ただの刑務所である。

 だから超人達の力を持ってすれば脱獄するのは容易いのだ。

 そしてそれ以上に危険な事がある。

 それは面識のなかった超人同士が顔を合わせてしまうということ。

 元々欲求の増幅された超人達は我が強く、そう手を組んだりするのは難しい。

 だが…彼らは総じてインフィニティに恨みがあるのだ。

 そうなれば、手を組んででも倒してしまおうと思い立つ超人もいる。

 目の上のたんこぶのインフィニティさえいなければ、彼らは好き勝手に欲求のままに暴れられるのだから。

 牢屋の鉄格子が赤くなり、ドロリと溶けた。

 向かいの牢屋からは巨大な腕が鉄格子を軽くひしゃげる。

 パイルマニアとバディビルが同時に出てくると、顔をあわせて合図をした。


「うほっほー!旦那方! こっちも開けてくださいましー」


 すぐ横の牢屋の金目野モノリスが鉄格子から顔を出した。

 バディビルが出してやろうと向かうと、警察が角から走ってきた。

 パイルマニアは腕から炎を出すと、それらを焼き払った。





 インフィニティが駆けつけた頃には辺りは騒然としていた。


『ちっ、入れてるそばから出てこられたら…』


 悪態つきつつバイクから降りると、いきなり炎がこちらに向かって来たので、転がってそれをかわした。


「久し振りだねぇインフィニティ!」


『パイルマニア!』


 炎を弄びながら、パイルマニアが姿を現した。


『お前の仕業か!?』


「意気投合しちまってなぁ」


 パイルマニアがニッと笑うと、インフィニティの後ろの壁が爆発すると、バディビルの大きな手が、インフィニティを捕まえた。


『ぐあっ!? バディビル!?』


「ぐへへへへ、このまま捻り潰してやる」


 バディビルが腕に力を少し込めると、全身に激痛が走った。


『ぐああっ!?』


「ひひひひ、いい気味でんなぁ、インフィニティ」


 パイルマニアの後ろからモノラルがひょこっと顔を出した。


(誰だったかな)


 インフィニティはそう思ったが口には出さないでおいた。


「炎が本調子になるまで結構かかったぜ…散々俺の嫌いな水をぶっ掛けてくれやがってよぉぉ!」


 パイルマニアの全身の炎が激しく燃え上がった。

 傍らにいたモノラルがいきなり炎の勢いが強くなったのに驚いて近くの壁に頭を打った。


『ちっ!…大人しくしてりゃいいのによっ!』


 インフィニティは力を込めるとバディビルの腕を力ずくで跳ねのけた。


「うっ!?」


『ぜえっ!』


 インフィニティは気合とともに地面を蹴ると、バディビルのアゴに膝を叩き込んだ。

 バディビルは後ろに倒れる。

着地とともにインフィニティは地を蹴ると、パイルマニア蹴りをはなった。


「くっ!」


 パイルマニアはそれを避ける。


「…戦いなれしてやがる」


『当然だろ、あんたが檻の中にいる間に、俺はずっと戦ってたんだぜ。それに…』


 パイルマニアが放ったパンチを受け止めた。


「何!? 俺の炎の拳を…!?」


『一度苦戦した能力に対する対応もバッチリだ!』


 パイルマニア懐に入り、みぞおちにヒザを叩き込み、よろけたパイルマニアに蹴りを食らわして弾き飛ばした。


「ぐわっ!」


 後ろからバディビルがインフィニティに向かって振り下ろした。


『ぬっ!?』


 インフィニティは両腕をクロスしてそれを受け止めると、ヒザくらいまで足が地面にめり込んだ。

 二撃目の横からのパンチも受け止めると、めり込んだまま地面をえぐった。

 間髪いれずに来た三発目のパンチをジャンプして避けると、空中で蹴りを放ち、バディビルの横面に叩き込んだ。


「うおおう…」


 バディビルはふらりとよろめく。

 インフィニティは足払いをかけると、バディビルは倒れた。

 普段のバディビルならば足払いをかけてもビクともしないのであるが、脳に揺さぶりをかけてふらついたところを狙ったのである。

 普通に身体能力で戦った場合、まったく堪えないのである、バディビルという超人は。


『せっ!』


 倒れたバディビルの頭に気合ともに思い切り蹴りを入れた。

 首が変な方向に曲がったが、バディビルなら死なないだろう。


「ダンナ、ここは逃げる事を考えた方がいいんやないやろか?」


 モノラルの提案にパイルマニアは舌打ちすると、辺りに炎をばら撒いた。


『!?』


「ちっ、また逢おうぜ、ヒーロー!」


 パイルマニアはモノラルを抱えるとジャンプして逃げた。


『…消火が先だな』


 インフィニティはため息をつくと、気を失ったバディビルを引きずり、火の手から離してやった。




 秘密基地。


『それで二人は逃がしてしまったと』


「仕方ないだろ。1人でよくやった方だよ俺は」


 自分で言ってしまう辺り、まずかったとは思っているようだ。


『問題は色々と山積みだな。特に捕まえた超人を拘束出来る施設がないというのはな』


 何せ色々な能力を持っているために、ただ頑丈なだけでいいわけではない。


『一つだけ確実な方法があるな』


「なんだよ」


『そのたびに殺していけばいい』


 京介は返事をしなかった。

 考えたことがなかったわけではないからだ。


『力を持ってしまえば、使わずにはいられなくなる。

 何せ一番望んだ欲望が具現化したワケだ。しようもない』


 黙っている京介に返事を期待できないと分かったブレインが続けて言った。


「…お前、俺に言ったよな、正義の味方になれって」


『言ったね』


「じゃあ、殺すのは無理だな」


 京介はそう言って笑った。


『構わんさ、君が多大な苦労をして、私が些細な苦労をすればすむ事だ』


 ブレインも笑ったような気がした。


『それに私くらいに知識を持つと、つまらんのさ、世の中がね。

 不利なゲームでも楽しまなければ、退屈でこの世を乱してしまいそうだ』


 ブレインにしてみても他の能力者と変わらないと言う事だ。




 学校の屋上。

 瞳には言う事は言ったので、ザボる拠点を屋上に戻した。

 図書室から借りてきて『戦場の格闘技』という本を見て、ちょっとした型を取っていた。


「なに、ダンス?」


 瞳の声が後ろから聞こえた。


「…円奈、俺に関わるなって言っといたろ?」


「承知してないもん」


 悪びれる様子もなく近づいてくると、地面に腰をおろした。


「お前とばっかり会話してると、友達少ないヤツみたいに思われるな」


 本に目を通しながら京介が呟いた。

 人並みに友人も多いのだが。


「いいじゃん」


「よくねえよ」


 京介のツッコミに瞳はニコニコとしている。


「なんか、さ、手伝えないのかな私」


「あ?」


 瞳の言葉に、本から目を離す京介。


「ヒーローのお手伝い。なんか出来ない?」


 京介は頭を掻いた。


「何もしてくれない事が一番助かる」


 京介はそう言うと、瞳から視線をそらして、また本に目をやった。

 瞳は頬を膨らましてぶーたれた。





 逃げ延びたパイルマニアは、モノラルのアジトに来ていた。


「いやあ、おかげで助かりましたわ、火男はん。お礼の方は後で用意しますさかい、くつろいでんか」


 高そうなチェアに腰をかけ、ハマキを吹かしている。

 パイルマニアは正体である蛭子火男に戻っていた。パイルマニアのままだと部屋に火がついてしまうからだ。


「こ、これから、ど、どうするんだい?」


 蛭子火男に戻ると、途端に弱気になる。


「ほうですなぁ。あの通り、2人がかりでも手におえへんみたいやしな・・・」


 モノラルはハマキの煙を吹かした。


「も、もっと集めよう…大勢で集中してあいつを…」


 火男がそう言った瞬間に、急に部屋の照明が切れた。


『その話、おもしろいな』


 声が響いた。

 火男とモノラルは辺りを見回した。

 すると、近くのコンセントから電気が放電し、人の形をとった。


『…私の名はスパークリング、ある方の密命であのインフィニティを監視していたのだ』


 スパークリングはそう説明すると、コンセントから完全に人型になり、地面に足をついた。

 消えていた照明が復活した。


「…お、同じタイプの超人…」


 パイルマニアも炎と同化することが出来る。


『そうだな、私と君は近しい…我々は君や私のような人間をネクスターと呼んでいる』


「我々?」


『そう、私は組織に属している。あるお方が組織され、今はネクスターを私含めて6人属している』


 モノラルの疑問の言葉にスパークリングは答えた。


「6人もあんな特殊能力者がいるのか…」


 モノラルはそういったものの、すでに4人の超人ネクスターと出会っている事に気がついた。


『ネクスターは三週間ほど前に蒼い雪を浴びた人間が覚醒したものだ。

 その時に望んだ一番強い願望を強化された、それが能力として反映される』


 火男は思い出した。放火の為に外に出た時に見た、不自然なあの蒼い雪を。


『例えば私などは、貧乏で電気が止められてしまってね。知ってればもっといいものを望みたかったが、ふふ』


 スパークリングは自虐的にクスリと笑う。


「で、あんたはワシらに手を貸してくれるとでもいうんか?」


 話が逸れかかったので、モノラルが戻した。


『ああすまないね、我々も少し、あのヒーローは目障りでネ。

まったく、欲望の力を正義に生かすなど無粋でならん』


 と、自分でまた話が脱線しそうだと気がつくと、ひとつ小さく咳払いをした。


『あの方、は私ともう1人ネクスターを派遣してもいいとおっしゃっている。

 どうかな。協力してくれると助かるな、パイルマニアくん』


 火男は自分だけ正体が見られている事に軽く不快感を感じた。

 同質のネクスターという事で少し対抗意識があるのかもしれない。

 手に入れた当時は、自分だけが強くなり、力を行使できると考えていた。

 しかしインフィニティをはじめとして、どんどんと能力者が現われた。


「…ああ、いいよ」


 だが少なくとも、自分の邪魔をして屈辱を与えたインフィニティだけは倒さなければならないと感じていた。

 スパークリングはその返事に満足した表情を見せると、コンセントのある位置まで向かった。


『では、後ほどまた連絡しますので』


「今度は、玄関から来て欲しいもんですな」


 モノラルの皮肉に苦笑すると、雷電化してコンセントの中に入っていった。


「…胡散臭いヤツや」


 モノラルは自分の外見を差し置いて、そう呟いた。

 が、どこでスパークリングが聞いているか分からないと思い立ち、口に手を抑えた。




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