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無限英雄  作者: okami
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第2話『パイルマニア(放火犯)』

 サイコ・ブレインにより自分の能力を告げられた京介は、その能力に対して興味を持ち始めた。

 実験という程ではないが、ある程度ためしてみた。少しずつ特性も理解してきた。

 たとえば個体を増やす事は出来ない。

 反対に言えば、電気などは少しでも残量があれば満タンにまで出来る。

 個体のものは特性にもよるが、基本は頑丈になる方向に働く。


(使い方が分かってないと戦えないしな)


 学校の屋上で、かれこれ20分は勢いを消さずに火柱を上げているジッポライターを眺めつつ、京介は脳内でひとりごちた。


(終わり)


 頭の中でそう念じると、途端にジッポの火が弱くなった。

 京介はフッと息を吹きかけると、ジッポの火は抵抗なく消えた。

 長時間火を放っていた為に、ジッポの本体は過熱されて手で触れる状態ではない。


(…意志が働いてる間は、俺の手から離れても効果が持続するのか)


 ブレインが試しに渡した風船は、京介の手を離れた瞬間にその強度を失ったが、京介が撫でた老犬は今だに元気な状態が続いている。

 どうでもいい風船と、元気で長生きして欲しいという気持ちを込めた老犬との京介の無意識な気持ちの現われであろう。

 そう考えると、とても恐ろしい能力である事が京介にもわかってきた。


「任意くん、さぼりー?」


 後ろから声がかけられた。

 振り向くと、屋上のドアの前にクラスメイトの女子生徒の姿があった。

 円奈つぶらな ひとみである。

 髪をツーテールに結び、風貌も口調も幼さが残るかわいげのあるタイプだ。


「気分じゃなくってな。今、休み時間か?」


 集中していたせいか休み時間のチャイムも耳に入っていなかったようだ。


「うん。任意くん、どうせここにいるだろうと思って」


 たまたまだが瞳もよく屋上に来るタイプであり、任意との遭遇が多かったのである。


「チクんなよ」


「しないよ。でもタバコはダメだよ、体に悪いもの」


 瞳の言葉に覚えがない京介は、瞳の視線が地面に置いてあるジッポライターに行っているのを気がついた。


「違う違う。煙草なんてやるかよ」


 と、手をひらひらとさせた。


「ならいいけど」


「でー、お前はなんか俺に用?」


「私はないんだけど、天舞さんからメールがあって、任意くんが電話に出ないからーって」


 瞳は彩子と仲がいいのだ。

 その言葉に、京介は慌てて携帯を取り出して、画面を見た。

 着信履歴がメールも電話も5つずつ程度たまっていた。


「…やばい、音消してて気がつかなかった…」


 彩子の怒り顔が頭に浮かんだ。正しくはブレインのだが。

 メールを見ると『スグニコイ』というメッセージが、段階的に怒りを伴っている文体で5通。


「あー…たたた。円奈、サンキュ、いかねぇと。今度なんか礼するわ」


 上着とカバンを慌しく抱える。


「それは別にいいんだけどー…」


 瞳がニヤリと笑った。


「天舞さんとつきあってんの?」


 尻にひかれてるのは事実だが。


「難しいが、その問いに一番近い答えは…」


「ふむふむ」


「パシリかな」


 ちょっと情けなくなった。




『…お早い到着だね』


 地下基地に急いで駆け込んだ京介をブレインの冷めた声が向かえた。

 心なしか、いや確実にこのコンピューターは立腹されている。

 走ってきた息の乱れも忘れてしまうほどに気が引けた。


「わ、悪かったって…で、何の用だよ?」


 弁明より話を変えよう。


『…君が超人達と渡り合うためのスーツが完成したんだ』


 文句が言い足りないという口調で、ブレインは言った。

 そして黒いインナースーツとプロテクター、マスクを渡した。

 京介はマスクを手にとって、向かい合う感じでソレを見た。


「…本気でこんなの着ないといけないワケ?」


 デザインもさる事ながら滑稽すぎる。


『別に私の趣味を押し付けているワケではない』


 マスクは声紋や髪の毛などの証拠を残さないため。

 通信機に視覚や聴覚をサポートする機械も内蔵されている。

 スーツやプロテクターも体を守る意味あいと、指紋などの残さないための処置。

 とブレインは説明した。


「…けど、こんなもんで戦えるのかぁ…?」


 不安げに呟いた京介の脳裏にある答えが浮かんだ。


「…ああ、そうか」


『その通り』


 心なしかうれしそうな声色でブレインが京介の答えを察知した。


「このスーツ自体を俺が強化すればいいって事なんだな?」


 京介の肉体はいたって健康ではあるが、普通の人間の肉体だ。

 しかしスーツやプロテクターを纏い、それを能力で強化すれば超人の域の身体能力を発揮する事が出来るのだ。

 そして。


『いいタイミングだ』


 ブレインがそう言うと、ディスプレイに地図を映し出した。


『南地区で放火魔が暴れまわっているらしい』


「なんだって?」


 《放火魔》が《暴れている》あまり聞きなれない組み合わせの言葉だ。

 放火はおおっぴらにやる行為ではない。


『つまり、正面切って放火して、捕まる心配がないのでしょう』




 南区の民家が数件、煙を上げて燃えていた。


「ふはははは、放火は気持ちEー!

もう隠れてコソコソ火をつけなくてもいいんだ…はははは!

してやる! 主張してやるぞ! このパイルマニアさまが全て燃やしてやる!」


 炎にまみれた民家の屋根の上で、トリップした超人が声をあげていた。

 その全身は炎が多い、ファイアーマンという分かりやすい風貌だ。


『蛭子火男! 降りてきて大人しく縛につけ!』


 スピーカーを通して、パイルマニアの立っている民家を囲むように無数のパトカーと消防車が包囲していた。

 叫んでいるのは藤堂威風とうどういふう警部補だ。

 パイルマニアはそれらを見下すと、満足げににやにやと笑った。


「お前らなんぞ、まったく怖くない。ふはははははは!」


 パイルマニア、蛭子火男えびす ひょっとこは気の小さい男だった。

 工場勤めで、仕事が出来るわけでなく人当たりも悪く、陰気臭い性格だ。

 彼の鬱憤は月に一度、ボヤ程度の火災を起して、慌てる住民を見るのを楽しむ、ショボいとしか言いようがない方法であった。

 しかし回数を重ねていくうちに、警察も感づき始めた。

 一度休みの日に、刑事が尋ねてきた。

 確信があったわけではないのか、2、3事を聞かれただけであった。

 火男は恐れた。いつ警察が来るのか恐れて、仕事も休んで引き篭もった。

 しかしストレスがピークに達し、気の小ささを衝動が越え、火男は放火をしようと外に出た。

 そしてその時に蒼い雪に触れた。


「ひはははははっ! 言ってやるぞ! 堂々と火をつけてやる!」


 力を手にした小者は増長して暴走する。そして力を行使する。


『こちらの警告に従わないとあらば、発砲する! さっさと…』


「ヴアッ!」


 パイルマニアが奇声を発して腕を振り上げると、地面を炎が走り、藤堂目掛けてくる。


『うっくっ!?』


 藤堂と周りの警官たちが散らばると、その炎はパトカーに命中して大爆発を起した。

 爆風に藤堂は吹き飛ばされて、地面に突っ伏する。


「いはーはははー!」


 それを見た隠れていた狙撃隊はライフルをパイルマニアに剥けて発砲した。

 しかしその鉛ダマはパイルマニアに命中する寸前に溶けて消えてしまった。


「一点に集中すればこんな事も出来る」


 得意そうにパイルマニアは口の端を釣り上げた。


「お前らとは次元てものが違うんだよなぁぁぁ!」


 バスケットボールくらいの火の玉を手の平に作り出すと、藤堂に向かってそれを投げつけた。

 突如、包囲していたパトカーの上を一大のバイクがジャンプして飛び越えて、藤堂の前に着地すると、地面の土を激しくタイヤで撒き散らし、火の玉を消滅させた。


「…なっ!?」


 藤堂にパイルマニア、その場にいた人間の全ての目がそのバイクのライダーに向けられた。


「…何者、だ?」


 その場全員の意見を代弁して、藤堂がそれを口にした。

 ライダーはバイクから降りると。


『インフィニティ』


 プロテクターとマスクで身を固めたソレは、そう名乗った。


「インフィニティだとぉ?」


 パイルマニアが呟く。

 インフィニティは視線をパイルマニアに向けた。


「戦うつもりか? コミックスのヒーローさんよぉ!」


 パイルマニアの口から言葉と同時に炎が噴き出された。

 到達を待たずに、インフィニティは地を蹴った。

 凄まじい跳躍力。呆気に取られる藤堂達を尻目にパイロマニアのいる屋根

の上に着地した。


「……」


『……』


 パイルマニアとインフィニティが対峙してしばし沈黙が流れる。


「…なるほど、ご同類というわけか」


 パイルマニアが先に言葉を発した。


『とっちめるぜ、あんた』


 インフィニティが構えた。


「くくく、とっちめると来た…生意気だよ貴様は!」


 パイルマニアとインフィニティのけりがぶつかり合ってボンという音とともに、火花が飛び散った。


『…ちぃ』


 インフィニティは足に熱さを感じた。

 アーマー部分はともかくインナースーツは強化ゴムだ。

 能力で強化しているとはいえ、炎との相性がいいとはいえない。


「ヴオァ!」


『ゼイ!』


 気合とともに出されたパイルマニアの炎の拳を左手で防ぐと、けりを首元に打ち込んだ。

 まともに入ったが、インフィニティの防いだ腕と食らわせた足に激痛が走った。


『あっつっ!』


 急いでハイルマニアから離れると、足をフーフーした。


「ふははは、どうした? とっちめるんじゃなかったのか?」


 パイルマニアが勝ち誇った顔で言った。


(…初戦からなんて相手だよ、ちくしょう)


 じりじりと後ずさる。

 屋根の下も燃えている。火が来るのが早いか崩れるのが早いか。

 どちらにしてもここに留まる事はインフィニティにとって不利となる。


「ふん! ふんふん!」


 パイルマニアの炎の拳が次々と打ち出される。数発避けたところで一発防いで間合いを取った。


「くはははは、どうやら俺の能力の方が優れていたようだな、ええ?」


『…まだ不慣れなもんでね。あんたはかなり使いこなしているようじゃないか?』


 このままでは防いでいるだけでもダメージを受けてしまう。

 強化ゴムに穴でも開けば京介の体は簡単に灰にされてしまう。 


「相当燃やしたもんでな、くくく、その気になれば一晩でこんな街燃やしてやれるが…俺にもこだわりがある。

 ただ闇雲に灰にするなんざ、俺の中の芸術性が許さんのさ」


 優勢に気をよくしたの、尋ねてもいない事を語りだした。 


『そうか、よ!』


 軽く悦に入ったパイルマニアの隙に、インフィニティは地を蹴り、ドロップキックを食らわした。

 胸元にキレイに入り、パイルマニアが一瞬うめいて、よろめいた。


『ゼーッ!』


 そこに追いうちで蹴りを入れた。

 パイルマニアは大きく吹き飛ばされ、隣の燃えている民家に突っ込んでいった。

 インフィニティはそのスキに屋根から降りた。


「ぐううっ、あの野郎、灰にしてやる!」


 怒気で瓦礫を吹き飛ばすと、パイルマニアは再び屋根に上がった。

 辺りにはインフィニティの姿はない。

 そして下に姿を確認すると、飛び降りた。

 降りてきたパイルマニアに、インフィニティは消防車のホースを構えた。


「なんだと? そんなもので俺の火が消せるとでも思ってんじゃないだろうなぁ?」


『どうかな?』


 インフィニティが放水すると、凄まじい勢いの水が一直線にパイルマニアに向かい、突き刺さるように胸に命中した。

 凄まじい水の勢いにパイルマニアは押される感覚を感じたが、前に向かって前進した。

 パイルマニアの全身の炎が水を蒸発させ蒸気が煙のように沸く。


「無駄だァ!」


 京介の能力で強化した水の勢いにも動じず、パイルマニアは水を命中させつつ一歩一歩と前に出てくる。


『みなさん、お願いします!』


 インフィニティが周りに呼びかけると、ホースを構えた消防士達が、インフィニティを中心に扇形にパイルマニアを囲んだ。


「な、に…?」


『発射!』


 号令とともに、消防士たちのホースから放水が始まり、一点集中でパイルマニアに向けられた。


「ぎゃっ!?ゲッ、ぎゃああああっ!!??」


 さすがに凄まじい水の勢いに弾き飛ばされると、コンクリートの壁に押し付けられた。


「あばばばばばばばはばば!!??」


 放水はやまず、コンクリートの壁にめり込むほどパイルマニアを攻め立てつづける。


「ごんな、ごん、ごんなも…」


 なんとか腕を動かそうとした瞬間、ホースの一つがその手を狙い、また壁に叩きつけられた。

 凄まじい蒸発で、辺りが見えないくらになった。

 インフィニティは放水をやめさせた。


「うご、ううう…あああ、俺の、俺の炎がぁ…」


 体の方々にちろちろと火を這わした痩せ型の男が、うめきながらふらふらと立ち上がった。

 この男が蛭子火男だ。


「くくく、くそおぅ…」


 情けない声を出した瞬間、ピシャリと、水浸しの地面を踏む音が聞こえた。


「…………」


 火男が顔を上げると、見下すようにマスクの男、インフィニティが立っていた。


「ひっひひっ…!?」


 引きつった笑い声か奇声か、そんな声を出しつつ火男は立ち上がる。


『…今から、お前に俺の必殺技を叩き込む』


 インフィニティが拳を握るとグググと筋肉が凝縮する音が鳴る。


『お前は残る全てをかけて防御しろ…防げたら、見逃してやる』


 構えを取る。


「いひひ、ひひ、ひーっ、ひーっ!」


 火男は周りの小さな炎を全て両手の平に集めて、構えた。

 しばしの沈黙が辺りを支配する。


『…ゼェ!』


 インフィニティは気合とともに一歩踏み出すと、火男の防御の上に掌打を打ち込んだ。

 受け止めた瞬間、火男の炎が全て弾け飛び、凄まじい衝撃が一瞬で体を駆け、通り抜けていった。

 断末魔の声もあげられず、火男はその場に倒れた。

 『ゼノ・インパクト』

相手の体に気合を流し込み増幅爆発させるインフィニティの必殺技だ。



 秘密基地に返ってくると、京介はマスクをとり大きく息を吐いた。


「ふーっ、暑かったー」


 エアコン内臓とはいえ、あの敵相手ではあまり意味もなかった。汗だくだ。


『上出来だね。デビューの感想はどうだい?』


 サイコ・ブレインの問いに、京介は少し考えると。


「悪くないな」


 と言った。



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