第10話前編『虹色インフィニティ』
この街に能力者はほとんど残っていない。
ブレインが作った能力者の波動を探知する装置には10人前後の反応しか映らない。
そのうちの4人はブレインで4人は統治の側の能力者だ。
隠れているのか、元々数がそれ程多くなかったのか。能力を使わなければ反応を出さない能力者も多い。
そしてインフィニティ側も統治側も探知機を持っているために、ハチあわなくなった。
そして。
「げっと」
千両範子は相変わらず、能力で落ちている小銭を集めていた。
さすがに連日拾っているために最近は身入りが少ない。
「・・・この街から出るのも考えないとなぁ」
ちゃりんと勝手にビンに入ってきた一円玉をみてため息をついた。
「ほう、まだこんな、反応を出しっ放しのネクスターがいたとは・・・反応が微弱でわからなかったよ」
スパークリングとリキュールが現われた。
「・・・本当、そっとしておいて欲しいんだけどな」
範子は小銭の入ったビンをベンチにおいて立ち上がった。
「小銭を使う能力者・・・サチューカンから聞いている。覚悟して貰おう」
範子はスパークリングを睨むと、ビンの中の小銭を浮遊させて、自分の周りに漂わせた。
『千両さん、まって』
今度は範子の後ろから声がすると、二人乗りでバイクに乗ったインフィニティと円奈瞳が立っていた。
『そいつらの相手は俺がする』
インフィニティは範子の前に出た。
「インフィニティ・・・生きていた?」
スパークリングは構えて少し後退する。
「へぇ、例のヒーロー?」
ホスト風のいでたちのリキュールがスパークリングに並んだ。
「対電強化でもしてきたかい?ヒーロー?」
『もっといいものを見せてやるよ』
インフィニティは瞳に合図をした。
瞳は頷くと、インフィニティの背中に触れた。
インフィニティの全身に光が走った。
7色の光、それが装甲の形を変え、力を与えた。
『ふぅ』
光が弾けて、進化したインフィニティが姿を現した。
「何・・・?」
『虹色インフィニティだ、よろしくな』
次の瞬間、スパークリングの横にいたリキュールの腹に、虹色インフィニティの腕が刺さっていた。
「な・・・」
スパークリングには動きが見えなかった。
リキュールはその場に崩れ落ちる。
『円奈。こいつを病院に連れて行ってやってくれ。
手加減はしたが、臓器のいくつかは破裂してるかもしれないからな』
虹色インフィニティはそう言って、すぐ横にいるスパークリングを見た。
『この通り、なりたてでまだ加減が微妙なんだ』
「うっう、くっ!」
スパークリングは激しい威圧感に、反射的に右手で虹色インフィニティの頭をつかんだ。
「くたばれ!」
最高電圧を流し込んだ。しかし。
『効かないよな』
虹色インフィニティはスパークリングの腕を軽く払いのけた。
「・・・・うう、あっ・・・」
『圧倒的というのかな、こういうの?』
畏怖するスパークリングに虹色インフィニティは笑いかけた。ように見えた。
「ぎっ!」
スパークリングは雷電化すると電線の中に入り込んで逃げた。
『逃がさん』
虹色インフィニティはバイクにまたがると、スパークリングの反応を追った。
「・・・インフィニティ?」
範子はその後姿を見ながら呟く。
「あの形態になると、気分が高まるんだって言ってました」
瞳は救急車と警察に電話を終えると、携帯電話をしまった。
「・・・怖いわ」
「大丈夫ですよ、任意くんだし」
瞳はそういったが、範子の不安は消えなかった。
スパークリングはガイオナースの隠れ蓑になっているビルの前で実体化した。
『ここが根城か?』
虹色インフィニティの声にスパークリングは驚いて振り返った。
すぐ後をついてきた。振り切ったつもりであった。
「なんて速度…!」
スパークリングが後ずさると、パイルマニアとメイクアップがビルから出てきた。
「・・・インフィニティか?」
『久し振りだなパイルマニア』
パイルマニアの背筋に寒気が走った。
前のインフィニティには感じなかった、悪意のようなものが感じ取れたからだ。
「・・・勝てない」
能力者としての格の違いを、パイルマニアは本能で感じた。
虹色インフィニティはエレベータで最上階の統治の部屋に入った。
『お前が元締めか?』
椅子に座っている統治に聞いた。
「・・・部下は全員やられたようだな」
統治の言葉に、虹色インフィニティは下を見るふりをした。
ビルの前でパイルマニア、メイクアップ、スパークリングが人間に戻って倒れていた。
ビルに入ってここに来るまでにサチューカンとイージースカイを倒した。
サチューカンはエレベーターの中で血まみれで気を失っている。
『死んではいないさ。社会復帰は難しいだろうがな』
「楽しいだろう? より強い力を行使するという事は?」
統治の問いに、虹色インフィニティは少し間を置いて答えた。
『ああ、たまらないな』
「それでいい。私も同じ意見でね」
統治は立ち上がると、虹色インフィニティの前までゆっくりと歩いてきた。
「しかしまあ、真なる強者は一人でいい」
『同感だ』
統治はにっと笑うと、体に力を込めた。
体の筋肉が盛り上がり、二周りビルドアップした。
『肉体強化タイプか』
「いいや、これは薬品による肉体強化だ。
科学の力もバカにならんだろう?」
統治の拳が、虹色インフィニティの顔面に繰り出された。
虹色インフィニティは大きく飛ばされ、ビルの強化ガラスを割って外に飛ばされた。
高層ビルの最上階から、落下をはじめる。
『ちっ』
ビルの壁に指を立てるとブレーキにした。
「ぶおぉぉ!」
統治が上からビルの壁面を走ってくると、追い討ちで虹色インフィニティを殴りつけた。
今度は地面までまっさかさまに突き刺さると、クレーターを作った。
その衝撃がビルが傾く。
『・・・ぐおっ、バディビルなんて比じゃねぇ・・・』
虹色インフィニティはのそりと起き上がる。
「私はねぇ。元からこれだけの力を、持って、いるん、だよ」
統治は着地すると虹色インフィニティに言い放つ。
『なるほど、確かにすげぇ』
「科学の他に、オカルトも極めた、こんな風にな」
統治は口から火玉を吐き出した。
『ぐおっ!』
虹色インフィニティは 腕に力を込めてそれをなぎ払った。
それた火玉がガレキを吹き飛ばして辺りを炎上させた。
「そんな私が何を望んだと思う?」
『・・・さあなぁ、永遠の命とか?』
「違うね。長寿のバイオニズムなどいくらでも方法がある
君は知らないだろうが、地球の科学はそこまで来ている」
冗談ではないのだろう。
『じゃあ・・・』
「ご披露しようか。これが私の望んだ力だ」
そういうと、統治の体がぶれはじめて、やがて二体に分かれた。
『・・・分身?』
「私はね。
本来自分以外の人間の能力をアテにしたくないんだ。
私より優れていて、それでいて忠実な人間なんて、この世にはいない。
しかしいくら能力があろうと、1人では出来ないことがある、だから・・・」
統治の体がまたブレた。
そして10人になり、20人になった。
「私がたくさんいればいい、そう望んだんだよ」
20人の統治がいっせいに口を揃えて言った。
『そんな・・・』
「聞く分には簡単だが、相対すると怖かろう」
統治が40人に増えた。
『ぐっ!』
近くの一人に殴りかかったが、その拳は受け止められてしまった。
「私の脅威になる能力者がいるかもしれないと思ったのだが・・・そんな事もなかった、な」
気がつくと虹色インフィニティを囲むように無数の統治が、空からも虹色インフィニティを見ていた。
『つまらん願望を持った自分を呪うのだな』
統治の声が大合唱で響き渡り、同時に火玉を虹色インフィニティに向けて吐き出した。
『う、ああっ・・・!?』
避けられるわけもなく、四方八方から同時に打ち出された火玉は中央でぶ
つかり、超爆発を起し、炎の柱が天にまで届き、雲を切り裂いた。
突然の凄まじい轟音と火柱の出現に、街全体に凄まじい衝撃が走った。
小銭で瞳と自分をガードした範子はゆっくりと覆っている小銭のバリアの一部を解いた。
爆発がおこったのはかなり離れて場所ではあったが、辺りは一瞬で駆け抜けた熱風で死屍累々としていた。
この付近の生き残りは絶望的だろう。
「な、何・・・これ・・・」
瞳がその光景を見て呟いた。
その瞬間に雨が降った。一瞬で蒸発したしたからだろう。
ドロドロのアスファルトがじゅうじゅうと音を立てた。