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無限英雄  作者: okami
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第9話『模倣能力者』

『そうか殺したか』


 ブレインは特に感慨もなさげに言った。

 瞳を助ける為に相手の能力者を殺した。

 あれから少し時間が経ったが、京介自身も大してショックがない。


『いい判断だ。聞いた限りでは真っ向から戦っていたら、かなり苦戦した相手だろう』


 京介が殺した能力者チューインの能力は自分の体をスライムに変えていた。

 打撃や、もしかしたら銃でも効かない相手かもしれない。

 それをナイフの一突きで倒せたのだから、いい戦果だ。


「殺さないつもりでいたのに・・・なんていうか、やる時はあっさり・・・」


『恐らくだが認識の問題だろう。君は相手を自分と同じ人間と思わなかったんだ。

 ゲルの化け物だ、無理もない。まあ蚊を殺したような認識だろう。

 もう少し人に近ければ、君も躊躇しただろうが』


 チューインこと、津印無我ついん むがはセコいコソドロだった。

 あの蒼い雪の晩に、盗みに入る為に忍び込み、そこで狭い通路に阻まれて立ち往生することになった。

 自分の体が柔かければ、液体のようになれればどこにでも気づかれず苦労せずに忍び込めるのに。

 そんな思いに雪が反応し、チューインとしての能力を得たのだった。


「そうか・・・こんなに簡単なら・・・」


 殺して数を減らすのも悪くはない。京介はそう思いかけて首を振った。


『円奈瞳の方は体に異常はない。精神は多少衰弱してるようだが』


「そうか」


 いきなりあんな目にあえば仕方もない。


『それで、彼女の能力のことなんだが・・・』


「分かったのか!?」


 ブレインは少し間を置く。


『おそらくだが彼女の能力は触れた相手、いや能力者の能力をコピーする能力らしい。

 報告にあったスライム化の能力は確認されなかった』


「いや、しかし・・・」


『君は多分、彼女をここにつれて来る際に体が触れたんじゃないかな?』


 京介は瞳に手を貸したのを思い出した。


『その時点で彼女の能力はスライムから増幅能力に入れ替わった。

 確証がなかったのでハイスピードに接触させたら、スピード能力に入れ替わっていたよ』


「・・・円奈も能力者だったなんてな・・・まったく気がつかなかった」


 モニターの中に彩子のグラフィックが映し出された。


『君だって私に言われるまで気がつかなかったろ?

 まだ何もコピーしていない彼女は君に触れて増幅能力を得た。

 幸か不幸か、自分では認識し辛い能力で気がつかなかったワケだ。

 私としては、君と彼女がどんな接触をしたか気になるな?』


 彩子の顔で人の悪い笑みを浮かべた。


「それ、やめろって言ったろ」


 グラフィックとはいえ彩子の顔でそういう事を言われるのは精神的に辛い。

 ブレインとしては当然それが分かっていて使っているのだが。


『彼女の能力は常時発動するタイプで、本人の意思とは関係なくコピーしてしまうらしい

 発見されたのもそのせいだろうな』


 本人が認識すればあるいは制御も可能かもしれないと続けた。

 京介自体認識するまでは無作為に触れるものを強化していた。


『あの能力は使える』


 敵の能力をそのまま使えるのだから、その利用価値は果てしない。


「円奈を巻き込む気か!?」


『敵が能力波を探知するようになったんだ、保護してやらなければまた襲われる』

「敵に向かっていくなら同じことだろ!」


 意見が対立しているところに、ハイスピードの格好でマスクを外した早馬が入ってきた。


「おうおう、盛り上がってるな」


 早馬はソファに腰掛ける。


「彼女は協力したいってよ」


「へ?」


「任意くんの助けになるならってよ、ニクいなお前」


 早馬は肘で京介を小突いた。


『本人の希望では仕方もないな?』


「・・・説得してくる!」


 京介はそう言って部屋を出て行った。

 彩子と早馬は顔を見合わせて2人で肩をすくめた。




 スパークリングとパイルマニアはチューインの反応が消えた場所に来ていた。


「・・・血液」

 スパークリングはしゃがんで、地面に付着している水分に触れた。

 残された血液に紛れたネクスト反応が、チューインのものだと示していた。


「ここで死んだのは、間違いはないようだな」


 スパークリングはつぶやくと、立ち上がった。


「返り討ちとはなさけないな」


「パイルマニア、チューインの能力は恐ろしいよ。私は性質的に天敵だったが・・・」


 チューインの能力はスライム化の他に硬質化、透過。

 人の体内に入ることも可能で、物理攻撃で倒す事はまず無理だ。


「・・・血液が出ているという事は、人に戻ったところをやられたというところか」


「ですね、戦った相手がそういった能力なのか、ただ不意打ちだったか」


「ふん」


 パイルマニアは炎で地面に広く付着した血液を蒸発させ焦がして隠滅した。




 瞳は身体検査を終わらせて一息ついていた。

 自分の体が溶け出した時は驚いたが、彩子の顔をしたブレインの言葉ではもう溶ける事はないと言っていて一安心だった。


「円奈!」


 京介が部屋に入ってきた。


「任意くん・・・」


「お前! 協力するとか言ったらしいな!?

 ダメだぞ、あんな冷血コンピューターの言うことに騙されたら!

 血の通ってないキカイなんだからな!」


 京介の剣幕に瞳は戸惑い気味だ。


『だれが冷血かね』


 モニターに彩子のグラフィックが現われた。


「てめぇ! どうせ口先三寸で円奈を説得したんだろうが!させないからな!」


『話をしたのはハイスピードで私ではない』


「どうせ早馬さんになんか吹き込んだんだろうが!」


『心外だ』


「大体前からお前は・・・」


 突然入ってきてケンカをはじめた2人に、瞳はどうしたらいいのか分からない。


「まって任意くん!私自分で志願したんだよ」


「だからそれはこいつの誘導尋問かなんかで・・・」


『聞き捨てがならない、君は一体私をどういう目で・・・』


「違うんだってば!」


 その瞳の声で喧嘩をしていた2人の動きが止まった。


「任意くん私ね、ずっと任意くんの役に立ちたいと思ってたの」


「それは知ってるけどよ! 危険な事は円奈にさせられない!」


「狙われてるんだよ私? 守ってくれるんでしょ?」


「守るよ!だから・・・」


 瞳はふっと笑った。


「じゃあさ、一緒に行動した方が守りやすいでしょ?」


「そうだけどよ・・・」


 モニターのブレインが笑った気がして少し癇に障った。


「それに私だって任意くんを守れるなら、命かける価値、あるよね?」


 ねえよ。と返したかった京介だが、瞳の真面目な表情に言えなくなった。


「・・・なんでお前そこまで」


「だって私は、任意くんのことを・・・」


『おほん、私だって彼女を前線に出そうなんて思ってはいないさ』


 いいところでブレインが割り込んできた。


『そして一つ思いついた。インフィニティのパワーアップについての事だ』


 モニターの彩子の顔がまた、笑ったように見えた。



 

 深夜の刑務所に炎が走った。

 その炎は牢屋まで飛んで行くと、人の形になった。

 パイルマニアだ。

 パイルマニアは向かって三番目の牢の前で立ち止まると、すり抜けて中に入った。

 完全元素化能力は、スパークリングと一緒にいて会得した能力だ。


「久し振りだな」


 牢の中の男は後ろ向きで座禅を組みながら口を開いた。


「助けに来た。ここを出ようぜ、それでよ・・・」


「お前が今、何をしているのかは知っている」


 男は目をゆっくりと開いた。


「群れて、従わぬ能力者を殺すなどと」


 立ち上がり、パイルマニアに向き直った。


「正直見損なったな」


 男の名はがたい 辰葉たっぱ

 堅は立ち上がると、180以上ある長身でパイルマニアを見下ろす形になる。

 その威圧感に少し飲まれる。


「何言ってんだ、俺は元々こんな性格だろうが」


「自分の欲求の為に超人の力を振るっていた人間が、今や飼い犬だ。

 見損ないもしよう、ええ?」


 パイルマニアは言葉に詰まった。


「いや、でも、よ・・・俺1人だし・・・逆らったら殺されちまう。相手は何人もいる。勝てやしない。

 あんたもよ一緒に行こうぜ。俺から話せば・・・」


「ふん」


 堅は鼻で笑った。


「俺は別に未練などない。なんならお前がここで殺すがいい。抵抗はするがな。

 だが俺の能力ではお前には勝てないだろう。だが俺は行かない」


「わからずやめ・・・じゃあなんであの時に一緒に脱獄しようなんて言ったんだよ!」


 パイルマニアが牢に入っている時に、脱獄の話を持ち出したのは堅であった。


「お前が逃げたそうだったからだ」


「何・・・?」


 想像しない答えが返って来た。


「お前やモノラルのように、この世でやり足りない事があるって人間を手助けしただけだ。

 俺はここの生活が気にいている。自分を戒めるにはいい空間だからな」


 パイルマニアは言葉を失った。


「・・・もう行け」


「・・・さ、最期のチャンスだったんだぞ? もう助けてやれないからな!」


 パイルマニアの言葉を無視すると、堅はまた座禅を組んで目を閉じた。


「・・・ばかやろう」


 そう言い残し、パイルマニアは牢から出て行った。

 堅 辰葉、超人名バディビル。

 格闘家であり、蒼い雪の夜はジョギングをしていた。

 はじめてバディビルになったのは練習の時。暴走してトレーナー、ジムにいた人間を皆殺しにしてしまった。

 望みは強くなりたい。肉体的に強く。

 アドレナリンが高まると超人化してしまい、自分の意思とは関係なく暴れてしまう。 

 彼はあまんじて牢にいるのであった。



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