プロローグ
『プロローグ』
他に思いつかなかった。
彼はそう答えた。
丸太のようなバディビルの足から繰り出される強烈な蹴りを、インフィニティは両腕で受け止めた。
その勢いは殺せず、耐えた足元のアスファルトをしばしケズり倒し、ようやくとまった。
「うへぇ」
マスクを被ったヒーロー・・・インフィニティと呼ばれる彼は、めり込んだアスファルトから足を抜いた。
「無茶しやがる」
バディビルの蹴りで痺れた両手をプラプラと振りながら呟いた。
「インフィニティ! いつも俺の邪魔をする・・・今日こそ許さん!」
バディビルは拳を打ち合わせると、筋肉がパンプアップした。
「オッサン!そんな力なあ! いつまでも使ってたら、今に取り返しがつかなくなるぞ!」
インフィニティもファイティングポーズを取った。
しばしにらみ合う両者。
だがその体格差は圧倒的で、3メートルはある巨人のバディビルに比べると、インフィニティはかなり小さく見える。
バディビルの右腕が轟音を上げて空を切った。
空を舞ったインフィニティは自分の数倍はあるバディビルの肩に降りた。
「ぜあっ!」
足元にあるバディビルの顔面をはたくように蹴りを数発入れた後、アゴに強くケリを入れ、バディビルの顔が空を向くと体重をかけてその顔面に膝を入れた。
バディビルの巨体が後ろに倒れた。
インフィニティは地上に降りたつ。
たいして間を置かず、バディビルが起き上がった。
こきこきと肩を鳴らして、自分よりふた回りは小さいインフィニティを睨んだ。
「小癪」
「相変わらずタフなやろう・・・」
ウンザリ感のある表情を見せたインフィニティの体にバディビルの巨大な握りこぶしが突き刺さった。
インフィニティは軽く吹き飛ばされると、建物の壁を突き破り、そのまま三軒分ほど家屋の壁を壊してようやく止まった。
「いって、くそっ・・・馬鹿力め・・・」
ガレキの中から立ち上がろうとした瞬間、上からまた拳が降ってきて、インフィニティの体は地面にめり込んだ。
続けてパンチ。
さらにパンチ。
合計10回ほどパンチ。
バディビルのパンチによって出来た地面のクレーターの中心から、ぐったりしたインフィニティを掘り出し、片腕を握り持ち上げた。
「ぜあっ!」
突然動き出したインフィニティがバディビルの胸板にケリを入れた。
うめいてよろけたバディビルの胸板にもう一発力の入った飛び蹴りをかますと、バディビルは5メートルほど飛ばされて倒れた。
ギギギ。
インフィニティの両腕の筋肉が力が入り軋み、音が鳴る。
「うおおおおっ!ミンチにしてやるぅ!」
立ち上がり、頭に血が上ったバディビルがインフィニティに向かい走り出した。
インフィニティの両手にオーラが灯ると、両腕のスーツのクボミをオーラの光が走り、手の平のクリスタルに収束した。
ぶぅん・ぶぅん。
エネルギーの波の音が低音で響く。
「ぐるおおおおっ!」
バディビルの拳がインフィニティに目掛けて振り下ろされた。
インフィニティはそれをオーラの纏った手の平で押しのけるようにそらすと・・・
一歩踏み出し、もう片方の掌打をバディビルのミゾオチに持ち上げるように打ち込んだ。
手の平に溜められたエネルギーがバディビルの中を駆け抜け、バグンという衝撃音が響き渡った。
「・・・う、があぅ・・・」
バディビルは小さくうめき声をあげると、ふらふらと後ろに進み、インフィニティの二周りはあった巨体が空気が抜けるように小さくなり、普通の人間の姿となり、後ろに倒れて気を失った。
「・・・しゅう」
インフィニティは打ち出した手を戻すと、ひとつ大きく息を吐いた。
その瞬間にサイレンの音が鳴り響いた。警察がやっと来たようだ。
見られるとマズいと、インフィニティはバディビルだった青年の手に特製の手錠をはめ込むと、停めてあったバイクにまたがり、そこを後にした。
インフィニティがしばしバイクで走っていると、自動販売機が開き通路が現われ、バイクでそのまま入っていった。
しばし行ってバイクを止めて降りる。
『ご苦労さま、インフィニティ』
インフィニティの秘密基地に入ると、サイコ・ブレインの一声が出迎えてくれた。
「ふう・・・バディビルのヤツは無茶しやがるから大変だぜ」
インフィニティはマスクを取ると汗で張り付いた前髪を手でのけた。
『現代の刑務所ではバディビルを閉じ込めるなんて無理なのだがな。どうせすぐに脱走してくるぞ?』
「まっ、出てきたらまた、こてんぱんにしてやるさ」
ちなみにバディビルの相手は今回で3度目だ。
サイコ・ブレインとインフィニティはこの街を守るヒーローなのである。