第5話
お正月が終わってしまった!
と言っても、あたしたち、民間保安官としての仕事はお正月でも遠慮なく、結構来てたけどね。
結局、今年のお正月は二回初詣に行ったことくらいしか、特に変わったことはなかった。
あとは、おうちでだらだらしてたか、仕事で犯人を追いかけてたか、のどっちかしかしてなかった。
そして今日も新年から仕事だ。
あたしとみやびちゃんはお屋敷に来ていた。すごーいお金持ちそうなお屋敷だ。
今日のお仕事は、明日行われるパーティの警護とそのパーティを主催するお嬢様の護衛だった。
「あたしは、民間保安官の宮野つむじです。宜しくお願いします!」
目の前のお嬢様に、あたしはぺこっとお辞儀する。礼儀作法なんて学んだことないから、粗相とかあったら、心配……。せめて一生懸命、出来るだけ礼儀正しくしていよう、と思った。
一方、みやびちゃんは相変わらずあんまり深いこと考えてないのか、退屈そうにあくびしている。ちょ、ちょっとみやびちゃんってば!? さすがにお嬢様を前に、その態度は失礼だよね……。あたしは慌ててみやびちゃんを肘で突く。
「うん? なんだ、つむじ?」
みやびちゃんが不思議そうな顔であたしの方を見る。
「って、前、前! ほら、ちゃんと礼儀正しくして!」
「礼儀正しく……? 何で?」
「それはだって、その……仕事だし……」
「あたし、仕事でも、いつもこんな感じだぞー?」
ううう……何て説明したらいいんだろ……。
そんなやりとりをすると、こほん、と可愛らしい咳払いと共に、凜とした声があたしたちに掛けられる。
「とりあえず、お話は分かりました。あたしは今回のパーティを主催させていただく月ヶ森千草です。宮野さんともう一人の方、パーティ警護の件、どうかよろしくお願いします」
お嬢さま……ううん、千草さん……うーん、さん付けじゃない方がいいか、千草さまはそう言って、あたしたちへ優雅に一礼した。さすが生粋のお嬢様、その礼は優雅で気品に満ちていた。年齢はあたしやみやびちゃんと同い年の15歳だと聞いた。外見は年齢通りの幼さと可愛らしさも残しているけど、態度や仕草は大人の上流貴族のように堂々としていた。
言葉の内容から判断して、特にみやびちゃんの態度に腹を立ててはいないみたい。あたしはホッとして顔を上げる。でも、千草さまは何だか、冷たい表情をしていた。その表情のままの冷たい声で言ってくる。
「でも、あたしの護衛は特に必要ないです。パーティの警護をしてくださるなら、当然あたしのことも守ってくださるのでしょ? でしたら、特別あたしだけ守ってもらわなくても、みなさまと一緒にあたしのことも守ってもらえれば十分ですから」
何だか、このまま千草さまの傍から追い出されてしまいそうな雰囲気だ。まずい、それだと、お仕事にならなくなってしまう。
「も、勿論、パーティ当日には他にも民間保安官が来て、パーティ会場を警護します! でも、パーティの主催者の千草さまは特に狙われる可能性が高いので、それだけ警戒を厳重にしておきたいのです。なので、あたしたちが派遣されました!」
あたしは慌てて言った。大丈夫かな、ちゃんと納得してくれたかな……と恐る恐る千草さまの反応を窺う。千草さまは、はあ、と盛大に溜め息を吐いた。
「わかりましたわ、そういうことでしたら、宜しくお願いしますわね。お二人には部屋を用意しましょう。今夜はそこでのんびりお過ごしください」
よ、良かったあ……。追い出されずには済んだ! でも、警護なんだから、なるべく離れない方がいいよね……?
「あの……出来たら、千草さまの直ぐ傍の部屋で警戒させて頂けたら嬉しいのですけど……」
「うちのセキュリティは厳重ですから、別に今夜までは警備していただなくても大丈夫です。と言いますか、パーティの警備も、民間保安官の手を煩わせなくても本当なら十分なくらいですのに、そちらがどうしてもというから、警備の一部を引き受けて頂いただけですから。ですので、あたしの警備もパーティ当日だけで結構です。部屋は客室を2つ、用意させて頂きますね」
傍の部屋がいい、というのはあっさり却下されてしまった。あたしは困ってしまって、どうしよう、とみやびちゃんを見る。みやびちゃんはあたしの視線に気づいて、退屈そうに言う。
「本人がそう言ってるんだし、それでいいじゃないの? 同じ屋敷内にいれば、何かあっても、対処しやすいだろ?」
「う、うん……」
「大丈夫ですわ、何もありませんから」
千草さまはみやびちゃんを少し睨む。屋敷の警備を完全には信用してない様子のみやびちゃんの言葉が、面白くなかったらしい。あたしはこれ以上、千草さまの機嫌を損ねたくなかったので、急いで頭を下げた。
「ごめんなさい! でしたら、それで構いませんので、どうか宜しくお願いします!」
話はそれで終わりだった。あたしとみやびちゃんはメイドに案内されて、客室へと向かった。
広い客室だった。あたしとみやびちゃん、それぞれに一部屋ずつ客室が割り当てられた。その客室は、あたしとみやびちゃんが二人で暮らしているアパートの部屋よりずーっと広かった。うちのアパートの部屋十個分くらいありそうだ。
あたしはクローゼットを開けて、そこに入っていたネグリジェに着替える。そしてベッドにゴロンと横になる。こんな一人ベッドに一人で寝てるのが不思議な気分だった。いつもは同じ部屋に、ずーっとみやびちゃんと一緒にいたから、一人で部屋いるのに慣れなかった。あたしは天井を見上げ、しばらくボーッととしてた。
でも、ハッと気合を入れなおす。駄目、駄目だよね! ここには仕事しに来たんだから、あたしに出来ることは全部しよう!
あたしの得意分野といったら、やっぱりネットを使った活動だ。ネットを使ったサポートとハッキング能力は、プロになれるくらいの実力があって、プロになるなら中の上のランクくらい、と民間保安官の組織でも評価されてる。そのあたしの能力で、ネット上からここの警備システムに問題がないかを調べてみよう。
あたしは目を閉じ、意識を集中する。ネットの空間へ意識をフルドライブした。フルドライブとは全ての意識をネット空間に繋ぐことである。普段あたしは、視界内にウィンドーとタッチパネルを開いて、ネットをしている。それだけでも普段なら十分仕事の情報は集められる。むしろ激しい戦闘のときにフルドライブなど、身体が無防備になってしまうので、危険すぎる。でも、今回しようとしてるのは、この屋敷の警備状況の調査なので、あたしのハッキングの技術を全快にする必要があったのだ。
その状態のまま、まず屋敷の警備システムのコンピューターのセキュリティを調べてみる。千草さまが仰った通り、ここの警備はかなり厳重だ。あたしレベルの腕前の子が全力を出してコンピューターのセキュリティを調べてみても、少しだけセキュリティの状態を盗み見るのがやっとで、とてもシステムに介入するなど不可能だ。
……と思うんだけど、セキュリティのところどころにあたしはひっかかるものを感じた。まるでこっそり空き巣が侵入して侵入してないように見せかけるために部屋を元の状態に戻していった部屋に入ったみたいな、微妙な違和感を感じたのだ。でも、あたしはこのセキュリティの元の状態を知らないから、多分気のせいなんだろう。あたし程度の腕前でもここのセキュリティの頑強さは分かる。凄腕のハッカーがちゃんとした設備を整えて集団でもセキュリティを強引に突破するだけでも難しいのに、こっそりと侵入してその形跡を消し去るなんて神業めいたハッキングなんて出来るはずがない。
あたしは一応念のため、もう少し痕跡を探ってみて、やっぱり何もなかったので、気のせいだったと判断して、フルダイブを終え、ネットから意識を遮断した。
一仕事終えて、凄い疲れた……。しばらくそのままベッドでまたぼーっとした。でも、段々、一人で部屋にいるのが急にすごく心細くなってきた。やっぱりみやびちゃんの傍にいたかった。
あたしは我慢できなくなり、自分の部屋を出て、隣のみやびちゃんの部屋の扉を開けて、中に入る。
「みやびちゃん……いる?」
みやびちゃんは寝ていたのかベッドの上に横になっていた。あたしが入ってきたのを薄目を開けて確認する。
「つむじか……どうした……?」
「あの……みやびちゃん、一緒に寝てもいい?」
「別にいいけど、一人じゃ、寂しかったのか……」
「べ、別にそんなわけじゃ……うん。何か一人じゃ落ち着かなくて……」
照れくさくて反射的に否定しようとしたけど、結局素直な気持ちをみやびちゃんに告げた。
「いいよ、一緒でも」
「わーい、やったー!」
「じゃあ、おやすみ……」
むにゃむにゃとみやびちゃんは眠ってしまったみたいだ。
あたしはベッドのみやびちゃんの隣に潜り込む。広いベッドなので、二人一緒に横になっても、全然余裕があった。でも、あたしはあえてみやびちゃんの傍に近づき、ぎゅっと抱き着く。こうしてるだけで幸せな気持ちでいっぱいになった。
「ありがとう、みやびちゃん……おやすみなさい……」
あたしはそのまま自然に、いつの間にか眠ってしまっていた。その日はみやびちゃんの傍にいれて安心したためか、慣れない場所だったけど、ぐっすりと眠れた。
朝、起きた後、あたしたちは屋敷の中をブラブラ見て回ったり、部屋で二人でのんびりしたりして過ごした。本当は千草さまと一緒にいたかったけど、千草さまは本当に忙しそうにあちこち動き回っていたので、とても近くで護衛させて欲しいと言い出せる雰囲気でなかったのだ。屋敷の人たちもみんな、パーティの準備で忙しそうだった。
日が暮れた頃、みやびちゃんとあたしは、千草さまに呼び出された。
部屋に入ったあたしたちに、千草さまは告げてくる。
「ドレスを用意させました。あなたたちはそれに着替えて頂きます」
あたしは驚いて、みやびちゃんと顔を見合わせてから、直ぐに聞き返した。
「でも、あたしたち、別にパーティの招待客とかでないんですけど……。ドレス着る必要、全くないんじゃないですか?」
「パーティ会場にそのいかにも庶民という恰好でいたら、悪目立ちしすぎます。あたしの傍にいたいのでしたら、ドレスに着替えてもらい招待客を装ってもらうのが、周りから怪しまれないで済むでしょ?」
招待客を装うって、そ、そ、そ、そんな!? そんなのあたしには……あたしとみやびちゃんには無理だよ!? 礼儀作法なんて全く分からないもん!
「みやびちゃん、どうしよう……」
困った顔であたしはみやびちゃんを見上げた。みやびちゃんは不思議そうにあたしを見返す。
「つむじなら大丈夫だよ、社会的常識、あたしよりあるし。それにあたしも、つむじのドレス姿、見たい!」
社会的常識と社交能力は全然別だよ、みやびちゃん……。
でも、みやびちゃんがそう望んでるし、依頼人もそれを望んでるなら、仕方ない……。
「わかりました……ドレス、着ます」
千草さまは満足そうに頷く。
「では、着替えて頂きます。どのようなドレスがいいかしら? 好みとかありまして?」
「好み……」
あたしは考える。どんなドレスがいいかなあ……。あんまり派手なドレスとか、色のあるドレスとかは嫌だな……。清楚な感じの露出の少ないドレスがいいな。
と言おうとしたら、みやびちゃんが先に言う。
「あんまり派手なドレスでなくて、清楚な感じで。つむじにはその方が似合うと思うから」
うんうん。みやびちゃん、あたしの好み、わかってる。と思ったら続きがあった。
「ただし、スカートはミニ丈で、お願いしますっ!」
「え、え、何でミニ??」
「なるべく丈は短くて、パンツがギリギリ見えないくらいの! ウラトラミニ丈のスカートがいいです!」
「もうっ、みやびちゃんってば! そんなドレス着て、人前になんて出れるわけないじゃないのっ! ばかっ!」
あたしはポカポカとみやびちゃんを叩いた。でも、あたしくらいの力のない女の子が叩いても、あんまり痛くないらしい。みやびちゃんは涼しい顔をしている。
「それに、みやびちゃんもそれ、着るんだよ」
「あたしはドレスは着ないよ」
「えっ?」
あたしは驚いて、手を止めて、みやびちゃんを見た。違うタイプのドレスを着る、という答えならまだ驚かなかったけど、ドレス自体を着ないということはどういうことだろう……?
「あたしはここの屋敷のボディガードの制服借りるから。それなら自然にパーティ会場に入れるでしょ?」
「ずるーいっ! じゃあ、あたしもそうする!」
「つむじは背がちっちゃ過ぎて、つむじの着れるボディガードの制服のサイズがなさそうな気がする」
無理かな、とあたしは千草さまの方に縋るような目を向けた。千草さまはちょっと首を傾げ考えるが、しばらくして首を横に振る。
「そうね……みやびさんならギリギリサイズありそうですけど、つむじさんにはちょっと一番小さいサイズでも無理がありそう……」
みやびちゃんも、うんうん、と頷く。
「それにつむじだと、そもそも似合わないよ。つむじがボディガードの制服着て会場にいたら、何でこんな小娘が警備陣に交じってるのか、と他の正体を逆に怪しまれるよ」
それならみやびちゃんも小娘で怪しまれるじゃない! ……と言おうとして、辞めた。みやびちゃんからは割と只者でない物騒な雰囲気を出してるから、ボディガードに交じってても怪しまれなさそうだ。
結局あたしは渋々承知する。
「うーっ……わかったけど……」
「やった! つむじの絶対領域はあたしが守る!」
「もう、守らない気満々でしょ! 何はともかく、そこまで短いスカート丈のドレスは着ないからね!」
「えーっ、じゃあ、千草さまが着てるドレスなら……?」
千草さまが着てるドレス……? あたしは千草さまの今着てる服を見た。確かに清楚な感じで、露出はそこそこあるけど色気過剰というほど露出してなくて、スカート丈も太ももの中間くらいだった。そこまで短くないし、うーん……これならいいかな。
千草さまも自分の着てるドレスを、と言われて、一瞬驚いた顔をするけど、直ぐ頷く。
「確かこのドレスの色違いが幾つかあるわ。サイズもわたしとつむじさんじゃ、そんな違わなさそうだし。じゃあ、つむじさんが着るドレスはそれにしましょうか。みやびさんはボディガードの制服、ということで」
「わかりました! 有難うございます!」
こちらの我儘も聞いてくださった千草さまには感謝しないと! というか、昨日あれだけ護衛の必要ない、と言っていたのに、なんだかんだでこうして世話を焼いてくれるんだから、千草さまは本当にいい人だ! よっし、千草さまのためにも、お仕事、頑張るぞー!
あたしが大喜びしてるのが傍からも分かったのか、千草さまは顔をしかめる。
「警備は心配しないで、パーティ会場では大人しくしててくださいね? くれぐれも来客に失礼なことをしないようにしてくださいませ」
「はっ、はいっ!」
「本当に宜しくお願いしますね……?」
「はい!」
厳しく言われてるのに、あたしの顔は嬉しくて緩みっぱなしだった。千草さまは諦めたように、はあ、とため息を吐いた。みやびちゃんが面白がってる顔で、千草さまにいう。
「感情にストレートで、素直なところが、つむじのいいところだから」
「そのようですわね……」
それ、あたし、ちっても褒められてる気、しなーい! でも、いいもーん、あたし、千草さまを護ると決めたから! ドレスも頑張ってお淑やかに着るんだもん!
あたしはそのときだけは不安を忘れ、ドレスだろうと何であろうと恐れないぞー、という気分だった。
あたしは、千草さまとお揃いのドレスを着て、パーティ会場にいた。ドレスの色は、あたしはピンク、千草さまはブルーを基調としていた。パーティ前までは、千草さまを護るぞー、と、あたしは意気込んでいたけど、いざドレスを着て人前に出たら、急に不安の方が大きくなってきてしまった。
ドレスなんて着たことないから、人に見られてると思うと、すごく恥ずかしい。
「みやびちゃん、大丈夫かな? あたし、おかしくないかな?」
もじもじしながら、みやびちゃんの方を窺う。みやびちゃんは満面の笑みで言った。
「大丈夫。大丈夫、つむじは可愛いよ」
「そ、そっかなあ……」
「そんなに不安だったら、あたしがつむじがしっかり可愛いかチェックしてあげるよ」
そう言って、みやびちゃんはあたしのスカートに手を掛ける。
って、え、え、待って!? どこをチェックするつもりなのよ!?
「もーっ、みやびちゃんの、ばかっ!」
あたしは片手で慌ててスカートを抑えて、片手でみやびちゃんを突き飛ばした。みやびちゃんはよろけたけど、さすがにあたし程度に力で突き飛ばされても倒れない。
「ちぇー!」
残念そうにみやびちゃんは舌打ちした。
そんな表情されても、見せないわよっ! こんな人前で恥ずかしいし!
「それより、みやびちゃん! 何か食べに行こうよ!」
「つむじは色気より食い気か……」
「だって、折角のパーティだし! きっとご飯美味しいよ!」
あたしはみやびちゃんの手を引っ張って、立食コーナーへ行く。そこには美味しそうな料理が沢山並んでいた。
「うわー……どれから食べるか、悩むなあ……」
あたしが悩んでる間に、みやびちゃんは手近にあったものから、はぐはぐ食べ始めた。
「うーん、これ、おいしいかも」
「そう? じゃあ、あたしもみやびちゃんと同じの食べる!」
それは、あたしには名前まではよくわからないけど、野菜のテリーヌっぽい料理だった。一口食べて……うん、美味しい! こんな美味しい料理、食べたこと、滅多にないよ!
「おいしいよ、おいしい、これっ!」
「でしょ? ただ、しいていうなら、もう少し食べごたえのある方があたし好みかな……」
「そうかな? あたしはこれくらいが美味しくていいなー」
あたしはニコニコ微笑む。パーティに参加出来て、こんな美味しい料理まで食べれて、幸せだ!
あたしとみやびちゃんの横手から、声を掛けられた。
「あなたたち、何やってますの……」
声の方角には、千草さまが呆れた顔をして立っていた。
「あ、千草さま! はい、食事させてもらってました!」
「あなたたち、目立ってますわよ。ボディガードと招待客の恰好した女の子が仲良く一緒に食事してるんですもの。それは目立ちますわよ」
「す、すみませんっ!」
あたしは慌ててペコンと頭を下げる。確かにあたしたち、こんなことしてたら目立つよね……。つい、普段通りに振舞っちゃった! 仕事中なのに……。
千草さまは手を後ろに組んで、じーっと下から疑わしそうな顔をして、あたしの顔を覗き込む。
「本当にあなたたち、ボディガードなんですの……? 特に宮野さんは……普通の女の子、という感じしかしないんですけど……?」
「あ、あたしはただのサポートなんです! でも、みやびちゃんは本当に凄腕の能力者なんですよ! みやびちゃんは本当に頼りになるし、強いんですっ!」
「それって、宮野さんは警護のためにここにいる意味ないんじゃないですの……?」
「あたしがここにいる理由はその……みやびちゃんの能力に関係していて、その……」
みやびちゃんは5分間だけ無敵になれる能力者だ。でも、そのためには、女の子のパンツをみなければいけない。でも、事件現場にそう都合よく女の子がいる可能性は少ないから、だから、あたしが常にみやびちゃんと一緒に行動しているのだ。
そう素直に説明すればいいんだろうけど……何か恥ずかしくて素直に言えない。あたしはもごもごしつつ、千草さまの視線から逃れるように俯いてしまう。
と、そのとき……あたしは周囲の空間の僅かな異変に気付いた。慌てて意識を異変の感じる方へ集中させる。この会場のセキュリティ、ハッキングを受けてる!
「千草さま、直ぐここから離れてくださいっ! 非常事態です!」
「えっ、何言ってますの……? 別に何も変なことは起きてませんけど……?」
千草さまは険しい顔をする。
その時、会場の傍から発砲音がした。悲鳴も聞こえてくる。
あたしはみやびちゃんの方を見た。
「みやびちゃんっ!」
「ああ……セキュリティが突破されたみたいだね……。この会場、何者かの襲撃を受けてる……」
みやびちゃんは銃を構えた。
千草さまもようやく事態を把握したらしく、周囲の人に大声で指示を飛ばした。
「皆さん、落ち着いて避難してください! 落ち着いて、警備の者の指示に従ってくださいっ!」
あたしとみやびちゃんは顔を見合わせ、頷いた。みやびちゃんは会場の外へ向かって走り出す。
「とりあえず、お嬢さまを連れて、早く逃げるよっ、つむじ!」
「うん、みやびちゃん!」
あたしも頑張って、千草さまのこと、守らないと! あたしは千草さまの手を掴んで、みやびちゃんの後に続いて走り出した。
警備システムが完全にハッキングされたみたいだ。ドローンがあちこちで暴れて、本来味方であるはずの警備の人に攻撃を与えている。その他に侵入した襲撃者が警備の人を襲っている。会場にいる少数の民間保安官の人たちが警備陣に加勢しているとは言え、状況は警備陣が劣勢みたいだ。
多分、昨晩感じた警備システムの異常は、あたしの気のせいではなかったのだ、と思う。あの時、ちゃんと手を打っておけばこんな事態にならなかったのに、まさか襲撃側にこれほどの腕前のハッカーがいたなんて想像もしていなかった!
でも、悔やむのは後だ! 今は早くここから千草さまを脱出させないと!
千草さまは、責任者は現場を離れられないと抗議したけど、そこはあたしが走りながら、ここに千草さまがいる方が周りの人が安心して戦えなくて迷惑だ、と言い含めた。それで千草さまは納得したのか、大人しくついてきてくれた。
みやびちゃんは正確無比な射撃で、立ち塞がる襲撃者を倒していき、会場を駆け抜けていく。あたしたちもその後に続いた。これなら無敵になる能力を使わなくても、ここからを無事突破できそうだ、と、あたしは少し安心した。
でも、その考えは、甘かった!
あたしたちの目の前に1つの人影が立ちふさがった。って、違う。これは人じゃない、戦闘用アンドロイドだ!
みやびちゃんは銃弾を連射する。しかし、戦闘用アンドロイドは銃弾を跳ね返し、全然ダメージを受けてる様子がない。
「みやびちゃんっ!?」
「くっ、ダメだ、つむじ! ここは能力を使うしかない! つむじ、いつもの、頼む!」
って、い、い、いつもの……? こんな沢山大勢いる前で、あたし、パンツを見せるの……? それって、かなり恥ずかしいよ……。あたしは恥ずかしさのため、少しだけ迷いを感じた。
千草さまが不安そうな顔で、あたしの顔を見る。
「いつものって、何ですの? あんなのに、あの人、勝てるんですの……?」
「か、勝てるけど、その……みやびちゃんの能力には発動条件があって……」
「発動条件……? それって、何ですの……?」
「その……お、女の子のパンツを見ると、みやびちゃん、5分間だけ無敵になれるの……」
ごにょごにょとあたしは言った。小さい声だったけど、千草さまには聞こえたみたいだ。まあ、とあたしと同じく、千草さまも顔を赤くする。
「それは大変ですわね……。でも、そうしないとあたしたち死んでしまいますわ」
「うん、だよね……だから……」
「……ですので、宮野さん、頑張ってください、ね」
って、千草さま、あたしにその役押し付ける気満々だ!? あたしは慌てて言った。
「千草さまのパンツでもいいんですよ、女の子のパンツなら! 千草さまが見せればいいじゃないですか!」
「あ、あたしが人前で下着を見せろ、というんですの!? そ、そんな、恥ずかしいこと、ぜ、絶対無理ですわっ!?」
「でも、みんなの命がかかってるんですっ! 恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんです!」
「だから、それなら、宮野さんの下着、見せればいいじゃないですか! そのためにあなたはここにいるんでしょ!」
千草さま、顔が真っ赤だ。あたしも顔が真っ赤だ。
でも、パンツを見せるのがあたしの役割だ、とは分かってる。これ以上、だだこねてる場合じゃないよね。急がないとみやびちゃんが危ないし、みんまも危ない。抵抗はあるけど、でも……我儘するしかない。
あたしが覚悟して見せようとしたとき、千草さまがきゅっとあたしの腕を掴んだ。
「わかりましたわ、確かに恥ずかしがっている場合ではないですよね……。でしたら、じゃあ、一緒になら……いいです……。二人で一緒に、あの方に下着、見せましょう……」
あたしの役割だと思ってたのに、千草さまが折れてくれた! 千草さまって、やっぱり、優しい! 千草さま、大好き!
あたしは千草さまに思わず抱き着く。
「千草さま、有難う! 大好きだよっ!」
ぎゅっぎゅっと抱き着く。そんなあたしを千草さまは引きはがそうとする。
「離れてください、そんな場合ではないですわ。さっさと終わらせますわよ!」
そうだね、確かにこんなことしてる場合じゃなかった。早くしないと……。あたしは素直に千草さまから離れた。
千草さまは自分のドレスのスカートの裾に手をかける。
「いきますわよ」
恥ずかしい……でも、ここはみやびちゃんのためにも、千草さまのためにも、頑張らないと!
あたしも自分のドレスのスカートの裾に手を掛けた。
「うん!」
二人一緒に、スカートをめくりあげた。
「みやびちゃーん!」
あたしは大声で叫ぶ。みやびちゃんはしっかりあたしたちのパンツを見れたみたいだった。
「うおー! いつもの2倍力が沸いてきた! つむじのピンクのパンツと、お嬢さまのレースの白パン! うおー!」
みやびちゃんはパンチ一発で戦闘用アンドロイドを粉砕する。
その光景に、千草さまは驚いて、吐息を漏らす。
「凄いですわ……」
「う、うん、そうだね……」
あたしは頷きつつ、そそくさとスカートの裾を気にして直す。はあ、すごーい恥ずかしかった……。そんなあたしを見てて、千草さまも自分の行為を思い出して恥ずかしくなったのか、顔を赤くした。
そんな風に二人して気まずくて黙っているところに、みやびちゃんが戻ってきた。みやびちゃんは、よっ、と声をあげて、あたしを右脇に、千草さまを左脇に、抱える。
「このまま脱出するぞ」
「うん、わかった!」
あたしは頷く。みやびちゃんは走り出した。今は無敵状態なので、凄いスピードだ。
あっという間に襲撃者のいないところまできた。あたしたちは、無事、襲撃者の手から逃げられたみたいだった。
警備隊と民間保安官たちの協力で、襲撃者たちをちゃんと撃退し逮捕できた。千草さまも来場のお客様方も無事で、軽症者が少し出たくらいだった。千草さまからも沢山お礼の言葉を貰ったし、本当に今回もお仕事をちゃんと終わらせることができて良かった!
あれから千草さまとは時々連絡を取り合っている。何か、友達と言うほどは親しくないけど、やっぱり友達に近いくらいは親しくなれたのかな……?
今日は特に飛び込みの仕事もなく、あたしはみやびちゃんと一緒に部屋のコタツに入りながらのんびりしていた。
「みやびちゃん、平和だね……。しばらく、こうしてのんびりしてたいよね」
「のんびり出来るのは嬉しいけど、仕事が少ないのも残念だな……」
「そ、そうだね、仕事しないとお金はいらないしね……」
「そうでなくて……仕事じゃないと、なかなかつむじ、パンツ、見せてくれなくて……早くつむじのパンツ、みたいな」
「って、何言ってるのよ!? みやびちゃんのばかっ!」
あたしはこたつから身を乗り出して、隣にいるみやびちゃんをぽかぽか叩いた。でも、あたし程度のぽかぽかじゃ、みやびちゃんは全然痛さを感じないらしく、少しだけ顔を顰めた程度だった。
こうしたみやびちゃんとの平凡な日常が凄く楽しい。仕事を待ち望んでるみやびちゃんには悪いけど、もう少しのんびりみやびちゃんとのんびり暮らしたいな。違う、みやびちゃんが待ち望んでるのは、仕事ではなく、パンツか! でも、それもみやびちゃんらしくて、そんなみやびちゃんがすごく可愛らしく感じられて、すごく愛おしかった。