題二目
題二目『タオル』『クレープ』『ウォークマン』
彼女は突然やってきた。彼女の名前は大島絵梨花。そのかわいい女子代表のような名前とは裏腹に、彼女は背筋が凍るほど美しかった。栗色の長い髪に吸い込まれそうな瞳。鼻筋が通っていて、口元が少し薄い。スタイルは抜群で、田舎臭いセーラー服が不釣り合いさを際立たせていた。
「大島です。」
彼女の自己紹介はそれで終わった。皆が拍手するタイミングを逃し茫然とするのをしり目に、彼女は教室を横断し一番うしろの空いている席に座った。
「大島さんって東京から来たんでしょ?ハラジュクってどんなところ?」
「きれいな髪だね!これって染めてるの?」
「109ってよく行ってた?わたし行ってみたいんだよねー」
転校生の宿命か、都会からきた美少女のイベント性かはしらないが、案の定質問責めに合う大島さん。しかし当の本人は無口と無表情を決め込んでいる。
そのとき事件は起きた。
「緊張してるの?大島さんって人見知り?ってゆーか絵梨花って名前チョーカワイイよね。今度からエリカちゃんってよんでいい?」
発端はそれだった。緊張をほぐそうと気を遣ったクラス女子のリーダー各がそう切り出したとたん、
「わたし自分の名前死ぬほど嫌いなんだ。今度下の名前で呼んだら殺すから。」
ここで「大島さん」のクラスでの、いやこの学校での立ち位置が決定した。
あれから大島さんに話しかける人はいなくなった。話かけても不機嫌そうに無視するだけ。その美人すぎる風貌も手伝って、彼女は高根の花を通り越し絶対零度のエベレスト山頂に佇むアイアンメイデンに位置付けられた。中でも初日にクラスの中心女子をばっさり切り捨てたものだから、同性からの視線は冷たかった。
大島さんはいつも音楽を聴いていた。CMでやってるノイズキャンセリング機能つきのウォークマンで。何を聴いているかは知らないが、この前かすかにもれてきたのはやっぱり知らない英語の歌だった。ただ、すごくきれいな歌だったことは覚えている。
鮮烈な大島さんとは対照的に、私はいたって普通の女子高生だった。普通すぎて逆に珍しいくらいの普通。名前は高橋麻子。わたしの住む地域では高橋という苗字が一番多い。どこにでもいるような普通の女の子。それがわたしを表す最もふさわしい形容だった。
ある日の学校の帰り道。近所のスーパーで移動式のクレープ屋が来ていた。