2.30.5cmの距離
佐伯真、19歳。好きな食べ物はコーヒーゼリー。嫌いな食べ物は魚。
ただいま絶賛フリーズ中です。
「おーい、シーン」
世の中には色んな人がいるんですね。いい社会勉強になりました
「駄目だ。しばらく戻ってこないな。あ、一之瀬。シンの隣座れよ。昼はもう食べた?」
「いえ。午後から仕事なので」
「夏ちゃん相変わらず忙しいんだね。今月の“MEN's Style”の表紙もすごく格好良かったよ。思わず買っちゃった!」
「ありがとうございます、桐原さん」
そういや女子にしては声がちょっと低いかなとは思いましたよ。ええ
でも胸をガン見するわけにもいきませんし、何より美少女としか思えなかったんです
なのに、なのに……
「そうだ。お前らまだ連絡先とか知らないだろ?この機会に交換しとけば?」
「そうそう。真ちゃん、固まってないで夏ちゃんに教えないと」
っていうか横に座って改めて思うけど、本当に奇麗な顔してんな。睫毛長いし、肌白いし
「駄目だ。まだ戻ってこない。仕方ないなぁ。私が代わりに教えてしんぜよう」
鞄からメモ帳を取り出した未亜は自分の携帯を開き、交互に見て書き終えたメモを半分に折って一之瀬に渡した。
「はい。メアドは書いておいたから、電話番号は本人に直接聞いてね」
「……受け取ってもいいんでしょうか?」
「良いに決まってるよ。真ちゃんフレンドリーだから、すぐ返信してくれるよ」
「……ありがとうございます」
おい待て。私の意思決定無しに話を進めるな
「そろそろ迎えが来る時間なので行かないといけません。とても名残惜しいのですが……」
ちらりと視線を寄越された気配を感じ、解凍されたあたしは何の気なしに一之瀬の方に顔を向けた。
バチッと目が合ってたじろぐが、返ってきた反応に驚かされる。
真っ赤。ナチュラルメークを施された美顔が。こんなちんけなあたしと目が合ったくらいでですよ。てか化粧してるんかい。こっちは年中無休スッピンだぞ、ふん
けれど不貞腐れるよりも強く抱いた感情に絆されてしまったのだろう。
超可愛い。絶滅危惧種レベルの可愛さだ
思わず抱きつきそうになった衝動を堪えて己を律する。
可愛いものは正義、常に紳士たるもの博愛精神でもって接する、がセオリーのあたしに絶滅危惧種を冷たくあしらうのは酷な話だ。
「えっと。取りあえず、よろしく?」
いつものノリで手を差し出して、軽く後悔した。一之瀬が目を丸くして硬直してしまったのだ。
さすがに馴れ馴れしかったな
「ごめん。気にしな──」
苦笑して引っ込めようとした手が、滑らかで温かいものに包まれて言葉を切る。
「……よろしく、お願いします。佐伯さん」
今にも泣きそうな表情の一之瀬に面食らい、何だか気恥ずかしくなった。
未亜は歓声を上げて拍手しているし、神城はにやにやしているし。
「あ……」
一之瀬の携帯が鳴り、個別に設定された音に神城が促す。
「マネージャーさんからだろ?早く行かないと怒られるぞ」
「はい、そうですね……。では、僕はこれで」
ゆっくりと手を解き、一之瀬は立ち上がった。ずっと椅子に座ったままでは失礼だと思い、立って見送ることにする。
それが間違いだと気づくのは数秒後。
「………一之瀬君。身長、いくつ?」
「身長ですか?百八十六です」
「ひゃくはちじゅう、ろく……?」
背後で盛大に噴き出した二名、後で覚えてろ。
しつこいですが繰り返します。
佐伯真、十九歳。
身長155.5cm。
好きなもの、可愛いもの。
怖いもの、背が高すぎる奴。
つまりは身長差30.5cm。首が痛い。有り得ない。巨人族か
「佐伯さん?どうかしましたか?」
心配する声が上から落とされた。だいぶ上から。
「……ろすな」
「え?」
「あたしを、見下ろすなぁあああああ!でか過ぎて怖いんだよぉおおおお!!」
半泣き状態で叫んだ真に、慌てて一之瀬が腰を屈めて謝ったのは言うまでもない。