1.知ってます
「それは無理っていうか、えっと……」
確かにあたしの髪形はショートで、今着ている服もお兄ちゃんたちのお下がり。つまり男物の服。よく男に間違われることがあるが、ここまで間違われたのは初めてだ。
「あなたとお付き合いはできません。ごめんなさい」
「どうしてですか?」
どうしてって聞いちゃいますか。
いまだ握られていた手を解かせ、あたしはため息をついた。
「友達としてなら構わないけど、そういうのは、お断りします」
「ぶっふぉ!」
盛大に噴き出す音が未亜の方から聞こえた。顔を向けると、俯いていたはずの未亜が大きな口を開けて笑っていた。
「ちょ未亜、笑うなって。この子に失礼だろ」
「だ、だって、真ちゃんったらそんな真剣な顔して……ぶふっ……!」
「未亜……」
上戸に入ったらしい友人を白い目で見ていたあたしは再び美少女に体を向け、座ったままで申し訳ないがこれ以上目立ちたくないので頭を下げた。
「本当にごめん。こんな見た目してるから誤解させて。あたし女だから、あなたの気持ちには応えられない」
「知ってます」
美少女は儚げに微笑んでそう言った。
「え、知ってるの?じゃあ……」
これはあれか?禁断のアレか?文月お姉ちゃんから昔借りた小説で読んだことあるけど。
「真ちゃん、違うってば」
復帰した未亜が可笑しそうに間に入ってきた。
「その子はね、おと……」
「シーン、お前今日、放課後バイト入れてたっけー?」
呑気な声に一同の視線が集まる。その先にいたのは黒髪の学生。バイト仲間で同じ学部の神城圭だ。
手に持っているお盆には塩ラーメンに温泉卵をつけたものがある。
「今日?入れてないけど。何、またピンチヒッターで来いってか?」
隣の席についた神城は温泉卵を箸で割り、混ぜながら言う。
「明石先輩が風邪引いたみたいでさ。他に入れるやついないからシンしかいなくて。時間大丈夫?」
「まあ今日は特に何もないけど」
「じゃ頼むな。シンがいて助かったよ」
「その代わり明日の昼、焼きそば大盛り奢れよ」
「分かった分かった。……って一之瀬?お前こんなところで突っ立って何してんの?」
ようやく気づいたのか、神城が美少女の顔を見て目を丸くする。
「圭の知り合いか?一之瀬さんっていうんだ」
「ああ、こいつは……」
言葉を切った神城は引きつった顔をして一之瀬を見上げていた。
「うわ、お前マジでやったのか……」
「おい、女の子にお前とか失礼だろ。一之瀬さんに謝れ」
「ぶふぅっ!」
飲んでいたラーメンの汁を噴き出した神城に顔をしかめる。
「ばっ、汚ねぇな!何してんだよ!」
肩を震わせて今にも床を笑い転げる勢いの神城は息も絶え絶えにこう言った。
「シン。そいつは女じゃなくて、男だよ」
「はぁ?何言ってんだお前。歯食いしばれ」
こんな美少女が男に見えるとかお前の目は腐りきってしまったのか?そうなのか?
まだ笑っている圭の胸倉を掴んで拳を握ったあたしの肩を、後ろからポンポンと叩いた美少女。振り返ったあたしに、彼女は赤く染まった頬でこう言った。
「一之瀬夏。園芸学部1年、……性別は、男です」
「え」
誰か嘘だと言ってくれ。
こんな長いさらさらの髪で、モデルみたいにちっちゃい顔と抜群のスタイルで、レースのワンピースも似合うこんな美少女が
男だなんて。