15.託された役目
明けましておめでとうございます。
木でできた机の上には炊き立ての釜飯と天ぷらが並んでいる。天ぷらの盛り合わせは海老、山菜、イカ、白身魚がサクサクの衣に包まれていて添えられている塩を振りかけてかぶりつけば美味しいこと間違いないだろう。釜飯はあさりとしめじ、名古屋コーチンの半熟卵のせ、店主のおすすめの釜飯の3種類を選んだ。こちらも美味しそうだ。釜飯は量が多いので3人ならこれを分け合って食べれば十分だ。
そう、3人なら。
「うわぁ本格的な和食は久し振りだな。ほら2人とも、呆けていないで温かいうちに食べよう。僕がよそってあげるよ。真は名古屋コーチンでいいよね?」
上機嫌にしゃもじを手に取り、お椀に炊き込みご飯をよそう真也。向かいに座る真に手渡すと今度は視線を横に流し、
「一之瀬クンは何食べたい?あさりとしめじでいいのかな?」
「あっ。はい、お願いします。──すみません、ありがとうございます」
盛り付けられたお椀を両手で受け取り、一之瀬は頭を下げた。「どういたしまして」と真也は自分の分もよそい、手を合わせる。
「じゃ、イタダキマス」
「オイコラちょっと待て!なんで真也お兄ちゃんがここにいるわけ!?なんで当然みたいな顔して一緒に飯食ってるわけ!?おかしいだろ!」
今まで沈黙を通していた真が頭を抱えて叫びだした。その横に座る一之瀬は苦笑している。
「行儀が悪いよ、真。食事中は静かにしないと。あんまり騒ぐと店の人にも迷惑だよ。あ、海老の天ぷら美味しい。真も食べてごらんよ。話は食事をしながらでもできるだろう?」
「そうですね。せっかくですから食べましょう、真さん。お話はそれからでも」
「ぐっ……」
二人の冷静な応えに詰まった真はとうとう開き直り、目の前のご馳走に手を伸ばした。イカの天ぷらをつゆに浸し、口に運ぶとサクッという音の後にイカの歯ごたえのある食感が続き、思わず頬が緩む。
「お味の方はどうですか?」
わくわく、といった表現が似合う顔で尋ねてきた一之瀬に大きく頷く。
「すっごく美味い!箸が進むね、これは」
「本当ですか?喜んで下さって良かったです」
「炊き込みご飯も普通のと味が違うわ。美味い美味い」
ノンストップで食べ続ける姿を眺めていた一之瀬だったが、不意に箸を置いた手を真の方に伸ばした。
ん?なんだなんだ?
首を傾げる真の頬についていたご飯粒を取り、
「ついていましたよ」
と何でもないように食べた。
「な……!」
再び食事を再開させた一之瀬は真が赤面して固まっているのを見て、不思議そうに名前を呼ぶ。
「食べないんですか?」
「た、食べるよ!食べる!」
恥ずかしさを埋めようとお椀で顔を隠し、箸を動かす。考えるな、食べろ。それしかない。ヌンチャク持って戦ってた彼の有名人の台詞とかぶっている気もするが、今はそれどころではない。
「なんか微笑ましいなぁ。腹立つけど」
その光景を一部始終見ていた真也が呟いた言葉は、二人には聞こえていなかった。
フレンチシェフである真也はフランスの一流レストランで修行をしてコンクールなどに出場したことで名を上げ、修行先の師匠が都内に新しくオープンするという高級フレンチレストランで働くために帰国してきたのだという。既に部屋は借りて家具も運び終え、レストランの開店まで休みが取れたので真に会いに華里にやって来たらしい。休みといっても師匠と打ち合わせや準備があるため、今日のうちに都内に戻らないといけないと淋しそうに話した。
食事の間、真也は真だけでなく一之瀬にもいくつか質問し、モデル業や大学生活のことについて興味深そうに聞いていた。
締めに出された梅昆布茶を飲み、会計は「年上だから僕が払うよ」と真也が申し出たのをそれは流石に悪いと一之瀬が食い下がって二人で割り勘にすることを提案した。すると真也は穏やかに微笑んで、
「ここは僕に払わせて。せっかく二人きりのところを邪魔したんだし、せめてものお詫びとして、ね。それにいいもの見せてもらったし」
「はぁ……ありがとうございます」
疑問符を浮かべながら礼を言った一之瀬の横で、真は「やった、真也お兄ちゃんの奢りだ」とガッツポーズをしていた。実を言うと、一之瀬は最初から真にお金を出させるつもりは無かった。真はそうとは知らないが。
店から出ると、真也は「僕はもう行くよ」と言った。
「なんかごめんね。忙しい中せっかく会いに来てくれたのにさ」
「いやいや。真が元気にやっているのを見れて十分だよ。週に一度送ってくれてる近況報告でも楽しそうだなぁって思っていたけど、実際に会って、やっぱり楽しいんだなって分かった。寮暮らしに皐月兄さんは最後まで反対していたけど、ここに来て正解だったね」
「うん、ありがと。真也お兄ちゃんも元気でね」
「ああ」と頷き、真の頭を撫でていた真也は、一之瀬に顔を向ける。
「真のこと、よろしく頼むよ。僕達の可愛い妹を他の、それも男に任せる日が来るなんて思ってもいなかったけど、君なら真を大事にしてくれそうだ」
「……はい、大切にします」
固い握手を交わす二人に、真は「え?何の話してんだよ」とひとり、置いてけぼりにされていた。
本当はぺティナイフでバトルさせようかと思ったんですけど、我に返ってやめました。危ないし。




