私と先生
暇なときでも読んでください☆
ある晴れた朝――
いつも通り私は
「君澤治療院」
の看板をゆっくりとくぐった。
「先生おはようございます」
「あ、直子君久しぶり10年ぶりだね」
「……何を言っているんですか…?昨日会ったばかりじゃないですか!」
「あはは、まあ座ってよ。お茶でも飲んで休憩しよう」
「朝一からティータイムですか?!先生……」
――今日も暇な一日が始まる。
――私の名前は緒方直子。ちょっとしたきっかけで、この
「君澤治療院」
で働かせてもらっている。
目の前で飲み終わった湯のみ茶わんを頭に伸せ、バランスを取っている背の高い男性がこの治療院の院長、君澤公太先生だ。
治療院というのは、一般的な病院とは違う。もっと民間的なもの思っていただくと、分かりやすいんじゃないかな?
その辺にある、整体院やマッサージ院みたいものらしい。以前私が初めてここに来た日に、先生はこんなことを言っていたっけ。
……僕は医師ではない。
一人一人の、患者さんを大切にしながら
「のんびり」
とやっていきたい。
それができたら、本当に僕は幸せだよ。お金じゃないんだ……
――いや、お金もちょっと大事かな?うん。ちょっとだけ。とにかく楽しく。
そんなスタンスでやっている。
ただ、一つ問題がある――
この治療院は―――
患者が来ない……
のんびりすぎちゃったみたい(笑)あはは。
私はさすがに不安になる。なんせ、ただでさえめったに来ないうえに
最近は一週間も誰も来ていないのだ!!
いったいどうやって私の給料を払っているのだろう?聞くところによれば、先生は何かの副業をやっているらしいけど………九分九厘怪しい仕事だと思う。
「こらこら、助手の君が暗い顔になってちゃ患者さんが来ないよ」
「先生が適当すぎるんです!!」
一年前―――私の父が倒れたのはあまりにも突然だった。
重度の白血病で医師からも見放された父を救ったのが、この君澤先生だった。父の昔の友人で、修業(!!)の途中にどこかで話を聞いて、駆け付けてくれたらしい。
高校を卒業してすぐに私は父、そして私を含む
家族みんなの恩人である先生に恩返しがしたくて――頼み込んで助手をさせてもらえることになった。
その時先生は、かたくなに助手を拒んだっけ。
「僕は今のところ助手とか弟子はいらないつもりなんだ。それに僕と一緒に働くってことは、君が思っているより大変だと思うよ。」
今…わかりました。それは先生がそういう主義ってわけではなく、ただ、たんに治療院が暇だからだったんですね――?確かに今、私は
大変です。
「暇すぎて」
バランスを崩し、割れた湯呑みを必死に掻き集めている姿を見ると、本当に父の難病を治した先生なのか、信じられなくなる。もちろん感謝も尊敬もしている。でも、でも…お父さんゴメン。ちょっとだけ、ちょっとだけ……先生に不信感。
私はここで働くために、親元を離れ実家から新幹線で半日もかかる所にアパートを借り、暮らしている。
この二ヵ月の間に、来た患者は、しゃっくりが13日止まらなかった(ある意味すごい!!)おじさんと、
普通の肩こりのお婆ちゃんと、
拾い食いで腹を壊したネコの計三人(二人と一匹)
確かにそんなのも先生が治療すれば、治ってしまう。
でも!正直私は、そう言うんじゃなくて、絶対助からないと言われた父を治したときのような――奇跡――が見たい。
保険が聞かないため、一回五千円。という決して安くはない治療料金が、
ネックとなっているところも、あるのかもしれないのかなぁ。
そんなことを考えていると、湯呑みの片付けが終わった先生がいきなり
「う〜ん…そうかわかったぞ!!直子くん」
「え?なにがですか?」
「派手な水着をきて立ってればいいんだ。そうすれば、ちょっとは患者さんが増えるんじゃぁないかな?」
私は間一髪
「いやです」
「いや、僕が着るんだよ」
「もっといやです」
先生の、この余裕はどこから…??こんなノリだから、変な患者しか来ないん……
その時、不意に玄関のドアが開いた。
「こんにちは……」
先生!!患者さんです!!
「おっ。じゃあ、中に入ってもらって。」
「はいっ!!」
一週間ぶりの(人間は三週間ぶり)来客に、
私はちょっとドキドキしてきた―――