捨てられた聖獣は、白銀騎士に拾われ溺愛される
⚠️本作には、動物虐待や遺棄などのつらい描写が含まれます。苦手な方は閲覧をお控えいただくか、ご注意のうえお読みください。
エウロリア国の王都では、年に数回だけ行われる「聖獣の祝祭」がある。
祝祭の日に、応募の中から神殿が選んだ家へ、勇者や聖騎士、宮廷魔導師など、国を代表する英雄が祝福に訪れ、聖獣と飼い主の絆を讃える。
その様子は魔法水晶を通して国中へ映し出され、人々は憧れの眼差しで見守る。
「白銀騎士アルディオ様がもし私の家に来たら…。」
「見初められたりして!」
そんな夢を年頃の娘はみんな抱いていたが、町娘のリリアは本気だった。彼女は英雄アルディオに、恋をしていたのだ。リリアの家は牧場で、聖獣が飼えるだけの広い土地がある。
「聖獣を飼えば、祝祭に選ばれるかも!」
それだけの理由で、リリアは親に頼み込み、神殿が行っている譲渡制度を利用して一匹の幼い聖獣を譲り受けた。雪のように白い毛並みを持つ、小型種のフェンリル犬の子。
「ルナ。これがあなたの名前よ!」
そう名付けられた子犬は、小さく鳴いてリリアの指を舐めた。最初の頃は幸せだった。毎日ブラシをかけ、ご飯を与え、抱きしめる。
その一方で、祝祭への応募書を何度も送り続けた。
『私とルナは誰より仲良しです。』
しかしーーー
一年。
二年。
三年。
何度応募しても選ばれない。
「また落選……。」
いつしかリリアから笑顔が消えた。
「役立たず。」
散歩も、牧場に放して遊ぶ事もしなくなった。真っ白だった毛は汚れ、食事は残飯だけで身体は痩せ細っていた。両親は朝から晩まで多忙で、ルナの世話に関わっておらず異変に気づかない。ルナはそれでも健気に尻尾を振る。
『ご主人さま!』
そう言いたげに寄ってくる。
それがリリアには腹立たしかった。
「こっちに来るな!」
バシンッ
暴力は日常になっていった。
ある日、空腹に耐えられず台所の食べ物を漁っていたルナを見つけたリリアは激怒した。ルナの体を蹴り飛ばす。小さな体は壁へ叩きつけられた。ルナは苦しそうに呻いた。それでも震えながら近寄る。
『ご主人……さま。』
その姿を無視してリリアは台所を出て行った。
数ヶ月後、神殿から黄金の封筒が届いた。
〔今回の祝祭に選定されました。〕
「うそ……!」
リリアは飛び上がった。
「アルディオ様が来る!」
慌ててルナを洗い、毛並みを整え、首輪を新調する。
突然優しくなった主人に、ルナも嬉しそうだった。
また愛してもらえる。また撫でてもらえる。
しかし、その夜ルナは静かに倒れた。
あの日受けた衝撃で、内臓も魔力回路も壊れていた。単純な回復魔法では、もう間に合わない。
『ご主人…さま…。』
最後までリリアを信じたまま、ルナは目を閉じた。
「なんでっ…何で今なのよ!」
リリアは泣いた。悲しかったからではない。
数日後に迫った祝祭が台無しになったからだ。
それから人目を避け、夜の魔の森へルナを捨てにいく。
「もう全部終わった。アンタのせいよ。」
そう言い残して立ち去った。
だがーー
ルナは生きていた。フェンリルに流れる神獣の血が、その命をつないでいた。
翌朝、白銀騎士アルディオは、神殿から「聖獣保護」の依頼を受ける。
「魔の森で傷ついた聖獣がいるそうです。保護してください。」
アルディオは急いで馬を走らせる。王都郊外にある魔の森で見つけたのは、血を吐いてぐったりしているルナだった。
「なんて事だ…だがまだ助かる!」
神殿へ運び込み、最高位の治癒術師たちが命をつなぐ。
「長期間、まともな世話を受けていませんね。虐待の可能性が高いです。」
「故意に捨てらた形跡があります。」
神官たちが静かに告げた。
更に、後ろ足についている金環から、神殿から譲渡された個体と判明、名前は首輪についたプレートにルナとあった。
その報告を聞きながら、アルディオは治療台の上で眠るルナの頭を優しく撫でる。
「もう安心しろ。これからは俺がお前の家族だ。」
ルナは久しぶりに、温かい夢を見た。
その後、ルナには神殿内の聖獣保護舎にある専用個室が与えられ、アルディオはそこに通い詰めた。
ルナが目を覚ました時、ぼんやりと人影が見えて、最初はリリアだと思い尻尾を振った。
「起きたのか!」
男の声…。ご主人さまじゃない。
ルナがはっきりと目を覚ますと、人間の中でもかなり美しい部類と思われる顔立ちの男が、自分を覗き込んでいた。
「待ってろ、すぐに治療係を呼んできてやるからな。」
アルディオが部屋を出て行こうとその場を離れた時、ルナの脳裏に、リリアに捨てられたあの夜が蘇るーー
『また、置いていかれるんだ……』
しかし数分もしないうちにアルディオは帰ってきた。
「目が覚めたんですね。さすが小型種とはいえフェンリル。すごい回復スピードです。」
神官のお墨付きをもらい、アルディオはルナに笑いかける。
「良かったな!よく頑張ったな!」
ルナはアルディオを信じていいのか迷ったが、尻尾は自然に揺れ、彼の瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
一方、祝祭の前日。
打ち合わせのために神殿から使者がリリアの家を訪ねた時、聖獣の姿はなかった。リリアもその両親も、居なくなった理由が分からないと憔悴した様子だったが、違和感があった。
使者は神殿に戻った後、リリアの身辺調査を行った。結果、先日の魔の森で保護された小型フェンリルの元飼い主であると判明。
リリアと両親は神殿に呼び出され、裁かれることとなった。牧場を経営している土地は全て没収され、両親は隣国に住む親戚のところへ身を寄せるほかなかった。リリアは、執行猶予がついたが、国外に出ることは許されず一人王都の端にある安アパートで暮らすことになった。
数か月後。
ルナはすっかり元気になった。
白い毛並みは再び輝き、身体は以前より少しだけ大きくなった。アルディオの後ろを嬉しそうについて歩く姿に、王都でもファンが続出した。
アルディオは常にルナを優先してくれた。体調が治った今は、アルディオの住む騎士宿舎で共に過ごしている。多くの他の騎士たちにも可愛がられ、再び愛されることを知ったルナは、もう恐れない。もう一度ご主人様を、今の新しいご主人アルディオを信じることにしたのだ。今日も彼の優しい手が白い毛並みを撫でる。ルナは元気よく吠えて応える。
『ご主人様、だいすき!』
そしてそんな2人の噂をリリアも聞くことになる。
「…ルナが?アルディオ様と?」
そして事実か確かめるため、騎士団の宿舎のある場所まで出向いた。
宿舎前には芝生広場があり、大通りから見える位置だが、高い柵に囲まれていて関係者以外は入れない。
リリアは柵とそれに絡まる植物の隙間から芝生を覗いた。すると憧れてやまない、アルディオがそこにいた。今まで郊外の田舎に住んでいたので機会は無かったが、王都にいる今はこんなに簡単に会えるのだと知り、喜んだ。だが、彼のそばにはかつて飼っていたあの犬が寄り添っていた。
思わず柵を握る手に力が入る。そして気づけば声を張り上げていた。
「それは私の聖獣です!アルディオ様!」
ビクッとルナが身体を小さくして柵の方を見た。アルディオも何事かと声がした方に視線をやる。
「あ、アルディオ様!突然の無礼、申し訳ありません!ですが聞いてください!その子は、私の聖獣で、突然いなくなって探していたんです!」
そうだ、神殿で裁かれたことなど、騎士がいちいち把握しているはずがない、そう思っていた。彼がまさに、森でルナを保護した本人だとも知らずに。
「私ずっと心配してて…。まさかアルディオ様が見つけてくださってたなんて!あの、お礼をさせてください!」
ルナがまさかこんな形で自分の夢を叶えるとは。こんなにいい子なら、次こそは本当に愛してあげよう、そう思っていた。
だがーーー
「貴様が元飼い主か」
「え……はい、だからその子を私に…」
「元飼い主はルナを虐待し森へ捨てたと神殿から報告を受けている。」
「…っ」
知っていたのか、とリリアは舌打ちをした。
「反省するどころか、嘘をついてまでルナをもう一度引き取ろうとする目的はなんだ?!この子はもう十分苦しんだ、俺がこの子を手放すことはない、帰れ!!」
ルナは元飼い主から自分を守るアルディオを、大きな黒い瞳で見つめていた。今度のご主人様は前とは違う。自分を本気で愛し、守ってくれる存在。そう確信したルナは、鼻先をアルディオの手に擦り付け甘えた。それに気づいたアルディオもまた、穏やかな表情をルナに向け、鼻筋を通って頭を撫でてやった。
その様子を見てリリアは激しい怒りを感じた。
もう心に思っていることがそのまま口から出てしまうほどに。
「何してんのよこのクソ犬がぁ!!私のアルディオ様に触るんじゃねぇよ!離れろ!くたばれ!こっちにこい!もう一度しつけ直してやる!」
もはや女性とは思えない乱暴な口調に狂気を宿した表情。アルディオはルナを背後に隠し、騒ぎを聞きつけやってきた他の騎士達に、リリアを確保するよう指示を出した。
その後、リリアは執行猶予中の態度が咎められ、離島に送られ生涯過酷な労働をかせられることになった。聖獣への虐待は重罪。まだ若く初犯ということで一度は見送られた実刑だったが、もう言い逃れはできなかった。
そしてルナはというとーーー
王城の庭園で、アルディオが剣の稽古を終えると、太陽の光をキラキラ反射させた白い毛並みのフェンリルが元気よく駆け寄ってくる。
「待たせたな、ルナ。」
ルナは尻尾を振り、アルディオの手に頭を擦り寄せた。
「わかったわかった。甘えん坊だな全く。もう何もお前を脅かす者はいないんだ。これからずっと、楽しくやっていこうぜ!」
その言葉に応えるように、ルナは幸せそうに目を細めて、嬉しそうに吠えた。
英雄に憧れた少女は、英雄に会う資格を永遠に失った。
けれど、一匹の小さな聖獣は苦難を乗り越え、ようやく、本当の主人に出会い、幸せな日々を掴んだ。
一年後。
アルディオとルナの絆が多くの人に認められ、祝祭に選ばれた。アルディオ自身が英雄のため、祝福はなんと国王陛下が行うことになり、今までで一番華やかで煌びやかな祝祭の日となった。
そして魔法水晶に映るアルディオとルナの姿を、人々は温かな拍手で祝福した。
それは誰もが認める、本物の家族の姿だった。
今回は序盤がかなりつらい展開でしたが、最後は「ルナ、よかったね」と思っていただけたら嬉しいです。
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また次の作品でお会いできたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




