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うちの夫は!顔が!いいっ!


絢爛豪華な夜会に、オリビアは夫の瞳の色である濃いブルーの美しいドレスで出席した。

もちろん夫の贈り物である。第二王女にデザインしてもらった新作。大盤振る舞いだ。


ドレスと合わせた正装で、オリビアの瞳と同じグリーンの石をあしらったカフスを着けた夫は、それはもう美貌が冴え渡っていた。

小一時間ほどは語れそうだ。うちの夫は顔がいい。


夫婦揃いの服装で、しかも互い以外のダンスを受けない様子を、周囲は生暖かい目で眺めていた。

どうやら王女の完全な片想い、という認識が強まったよう。何よりだ。


「シュヴァル様、わたくしと踊ってくださらない?」


来たな、ヒロイン。

笑みを浮かべたまま視線を向けると、びっくりするほど可愛らしい妖精のような王女がいた。


確かに、とても可愛らしい。愛情をたっぷり受けて育ったのが見て取れる。

こてんと折れそうに細い首を傾げる姿は、感嘆の息が漏れるほどだ。


「申し訳ありません、第三王女殿下。今宵の私は妻のパートナーですので。それと、モメント公爵とお呼びください。あなた様の品位に関わることです」


あらまあ。旦那様ったら、いつの間にそんな完璧な振る舞いを。

なよっとしていた頃を知っている身としては、成長した姿に涙が出そうだ。


丁寧に断られた王女が、子供っぽく頬を膨らませる。

大変可愛らしいが、十六歳の淑女としてはいかがなものだろう。


「別に、奥様としか踊っちゃいけないわけではないでしょう? オリビア、いいわよね?」


否定されることなど欠片も想定していない、是という答えしか求めない笑顔が、オリビアに圧をかける。

一見、子供っぽく幼げな仕草。悪意があるようには見えない。


しかし、しかしだ。

社交界中に想い人を発信しまくる手腕といい、妻のオリビアに許可を求めるやり方といい、とても無邪気とは言えない。


オリビアは答えず、口元を隠してわずかに夫に身を寄せた。

彼女のきゅっと締まった腰に手を回し、シュヴァルが妻に微笑む。


「オリィ、今宵の私はあなただけのものだ。あなたもそうあってくれるだろうか」


「まあ……もちろんですわ、あなた。わたくしは、旦那様の妻ですもの」


新婚ほやほやの熱愛夫婦、というふうに二人で微笑み合い、さらに身体を寄せ合う。

周囲はからかうように笑うが、王女はといえば、ちょっと見ていられないほど頬が膨らんでいた。


「なんでよ! シュヴァル様、わたくしと踊って! 話したいことがあるのよ!」


「ダンス中でないと話せないことは、私にはございません。妻に心配をかけたくないのです。私なら、妻が他の男と踊っていたら、とても平常心ではいられませんので」


密着して話したいこととは。周囲の視線が、だんだん冷えていく。


王女はいつだって想い人がいて、言い寄ればそれなりに接待される。

そりゃそう、王女だもの。だから、あまり邪険にされた経験がないのだろう。

信じられないとばかりに口を開けていて、なんだか可哀想にもなる。


この幼げな王女には、愛を持って諌めてくれる大人がいないのだ。

叱ったり、正したり、忠告したりしてくれるような人が。

悪を悪と教えられないまま成長するのは、ひどく哀れなことだと思う。


まあ、だからといってオリビアは、手心を加える気はない。

教育は親と教師の役目。彼女をそんなふうに育てた責任は、取るべき人間が取ればいいのだ。


「あなた」


射殺しそうな冷たい目をしている夫を呼べば、瞬時に表情を和らげた元氷華の君(笑)がオリビアの頬を撫でた。


「疲れたか? 飲み物を取りに行こうか。ご家族に挨拶をしたい? きみの友人にも礼を伝えなければ」


ああ、ごめんね、優しい旦那様。

こんなにもわかりやすく気持ちを伝えてくれているのに、ほんのわずかでも疑ってしまった。


自分の悩みがちっぽけすぎて、オリビアは眉を下げて笑う。

何を不安がる必要がある? この人は、人目も憚らず全身でオリビアに意思表示をしている。

ならば、オリビアは彼の愛する妻として、やっぱり毅然としていなければ。


「ふふ。王女殿下、申し訳ありません。夫婦で参加する初めての夜会なのです。夫と共にあるのを許してはいただけませんか?」


なんてお可哀想な王女様。

衆目の前でオリビアから夫を引き離そうとしたのだろうが、このまま無理やり誘っては悪役は王女の方だ。


「…………わかったわよ」


ふん、とやはり子供っぽい仕草でそっぽを向いた王女のふわふわとした背中を見送り、オリビアは口端を上げた。



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