お父様似なのよ
「婚約者に喧嘩を売るなど……おまえは本当に淑女か……」
目の前でぐったりと頭を抱えるのは、陛下の右腕と囃される宰相閣下である。
対面のオリビアは、ころころと笑う。
「嫌ですわ、お父様。あの程度を喧嘩だなんて大袈裟な」
「程度の話はしていない! 常識の範囲内で努力しろと、あれだけ言ったというのに、おまえは!」
「まあ。常識の範囲内でしょう? お父様。甘ったれた根性を問い質しただけですわ」
「はあ……なぜ、おまえはそうも喧嘩っ早いのだ」
「性分ですわ」
そう、性分。穏やかな陛下の代わりに、父が辣腕を奮って冷徹な宰相だなんて呼ばれているのと同じ。
やらずにはいられない性分。まあ、そっくり。さすが親子。
オリビアは幼少の頃からの前世持ちなので、本来の乙女ゲームでのお淑やかで控えめで、ちょっぴり面食いで執着心の強いオリビアではない。
豪快で豪胆、なんて亡き母は笑っていたが、それは淑女への褒め言葉としていかがなものだろう。
頑張って矯正して、なんとか『完璧な淑女』という評判は獲得したけれど。
「まあまあ。お父様、あたたかい飲み物でもどうぞ?」
「はあ……」
使用人から報告を受けた父は頭を抱えているが、後継である兄はよくやったと褒めてくれたからよしとする。
ちなみに、兄はさっさと護衛騎士と執事を強制送還し、新しい人員を配置してくれた。素敵すぎる。
まあ、そんなわけで攻略対象者は二人ほど片付いた。
万一ゼノンが南方の国王になる可能性がないとは言わないが、罪人が王位簒奪できる国なら、長続きはしないはずなのであまり問題はないだろう。
残る攻略対象者は、お仕事の早い長兄と騎士団長。
長兄に関しては、お馬鹿さんへの忌避感を植え付けまくっているし、万一籠絡されたら指をさして笑ってやればいいと思っている。
騎士団長も同様で、お馬鹿さんに惚れるような人間ならば、騎士団にいる次兄と末兄がどうにかするだろう。
お兄様たち、頑張って団長になってくださいな。
攻略対象者をすべて潰しては、どんなエラーが起きるかわかったものではない。
なので、あとは断罪回避に徹するのみ。
王女とはそんなに顔を合わせないし、取り巻きも被らないので、まあ程々にやればいいだろう。
ぶっちゃけ、断罪されたとて、というやつである。
よくて社交界追放、悪くて処刑か国外追放。家族仲はいいので、処刑さえ回避すれば、平民になっても生きていける。
豊かな財はあって困らないので、回避できるなら一番いい。
適度にゆるっと生きたい。今世のオリビアの夢だ。
程々に忙しく仕事をして、程々に休んで楽しんで生きたい。
相変わらず婚約者との仲は縮まらないが、最初よりはぎこちなさも減ってきた。
そこそこ仲違いせずいられれば、それ以上は望まない。別に好きじゃないのはお互い様だし。
「うふふ。ドレス、楽しみですわね?」
三年前に亡くなったお母様のウェディングドレスを直して着るのだ。とっても楽しみである。
愛妻家の父は、仕方なさそうに、でも嬉しそうに頷いた。




