忙しないったらないわ!
「王女殿下、あなた様は可愛いですわ。ちょっぴり幼いですが、きっとそこもあなた様のよさですもの。ね、みなさま。ほんのちょっぴり頭が弱くていらしても、そんなの可愛さの前では、ね、瑣末事ですわね。ね?」
取り巻きたちに笑顔でごり押しすると、似た者同士なのか曖昧ながら頷く。
あなたたち、今結構あれなことを肯定しちゃったわよ。
「大丈夫ですわ、王女殿下! あなた様の子供っぽさも、ちょっとあれかな? っていう横取りの趣味も、特殊な方ならすべてまるっと受け止めてくださいますわ! 懐の大きな男性って素敵ですわよね!」
「な、なんなの」
「うちの旦那様ったら、こんな幼稚な恋心を捕らえてしまうなんて、罪な方! ねえ、王女殿下。でもね、心配なさらないで。夫はわたくしにしか興味はありませんが、幼女がお好みの方もいらっしゃいますもの! あなた様なら大丈夫!」
「えっ? なに? なんの話?」
早口かつ微妙な聞き取りづらさの発音で捲し立てるオリビアに、王女と取り巻きたちは気圧されている。
肩越しに見えるご婦人方、顔を全部扇子で隠すんじゃありません。肩が震えていらしてよ。
紳士方、咳払いがちょっと多いのではなくて? 乾燥する季節でしたかしら。
「うふふ。いい出会いがあること、心より願っておりますわね。では、わたくしは夫が待っておりますので、失礼いたしますわ」
王女の向こう側、出入口から慌てた夫が飛び出して来るのを見て、オリビアは丁寧にカーテシーをしつつ話を切り上げる。
ああ、楽しかった。ストレス発散になったわ。
そう、だから。オリビアはほんの少し、油断したのだ。
ドンッ
「え」
ぐぐっと押しのけるような衝撃と、ぐらりと傾ぐ足元。自慢の体幹も衝撃に押し負ける。
ひどく悔しそうな王女の顔、取り巻きの焦った顔、夫の────
「オリィ!!」
おっと。待って待って。階段から落とすのは、オリビアの専売特許じゃなかった?
奇しくもオリビアは階段に差しかかるあたりに立っていて、引力はそちらから感じる。
「お嬢様!」
もうすっかり肌に馴染んだ夫の手が、強くオリビアの腕を掴む。引力に逆らって、身体が途中で落下を止めた。
見れば、右手でオリビアの腕を掴んだ夫は、反対の手でしっかりと手すりを掴まえて、肩で息をしている。
きゅん、と胸が高鳴った。ピンチに駆けつけるなんて素敵すぎる。
「あなた……」
「オリィ、無事か」
「お嬢様!」
「あの女!」
待って。本当に待ちなさい。夫との感動の場面を邪魔するとは、いったいどんな了見なの。
恨みがましく、階段の下から駆け上がってきた足音の方を見やると。
「あんたたち、何してんのよ……」
「お嬢様! ご無事ですか!」
「あの女がお嬢様のことを嗅ぎ回ってたのは、こういうことだったんですね!」
いきり立つのは、ゼノンとロビン。祖国に強制送還されたはずなのに、どこから湧いたのか。
夫の強い腕がオリビアを引き上げ、しっかりと立たせてドレスまで整えてくれる。
「誰か、騎士を呼べ。王女殿下を拘束しろ」
「はい!」
「ごめんなさい、こちらにも騎士様をお願い。この二人の招待状を改めて、持っていなければ相応の対応を」
「かしこまりました!」
はあ。なんなの、本当に!
階段落ちからの胸きゅんに、余所者はいらないのよ!
お嬢様を守りたいだの、あの女が嗅ぎ回っていた証拠を持っているだの、拘束されるゼノンとロビンが騒ぎ立てる。
どーーーでもいいのよ。二枚舌と暗殺者もどきは黙っていなさいな。
あなた、と呼びかけると、心配そうに全身を眺めていた夫が、目元だけで小さく微笑む。
ああ、なんてかっこいいの。なんて素敵な人。見て、この人がわたくしの夫なの。
「ありがとう、あなた。とても素敵でしたわ。惚れ直してしまいました」
「……そうか」
「うふふ。わたくしの旦那様なのよって、自慢して回りますわ」
「ん……」
照れていらっしゃるところも、とっても可愛くってとっても素敵。
上機嫌なオリビアに、遠ざかっていく王女が何か怒鳴っているけれど、目撃者も多い。放免とはならないだろう。
それに、夫がちっとも彼女の方に視線を向けないのも、オリビアは大変満足だった。
「あなたの身に何かあったら、この心臓が凍りついてしまう。オリィ、あなたがいないと私は生きていけないよ」
「まあ、あなたったら……」
「お嬢様!」
「お傍に置いてください!」
うるっさいわね! 今いいとこなのよ! とっとと南方に帰んな!




