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女王の拒絶──扉の向こうに捨てた初恋







十年前。


既成事実を作ろうと寝室にやってきたクラウスを、私は扉越しに追い返した。


国王である私の父とクラウスの父、

ランカスター爵は、王立学園以来の旧友で、

ほぼ同時期に生まれた私たちが引き合わされたのは七歳の頃だった。


一人娘の私に対し、公爵家次男の彼が

王配候補として、王家を支える盾に指名されたのは、ごく自然な流れだったと言える。



初めて会ったときのクラウスの印象は最悪だった。

 

私の手を引き、木の下まで行ったかと思うと、

枝を揺すりながら、虫や木の実を満面の笑みで降らせてきたのだ。


けれど、そんな木の下も、真冬の雪景色の時だけは別だった。



「リーゼ!そこに立って!」

「待って!クラウ!クラウも来て!」



枝に乗っている雪をクラウスが揺らし、

私たちは頭から真っ白になる。


私はそれが大好きで、彼に何度もせがんだ。

 

鼻の頭を真っ赤にするまで遊び、

従者にこっぴどく叱られるまでがセットの、

温かな日常。


 

誰もがこのまま、彼が私の隣で国を支えていくのだと信じていた。



事態が急転したのは、私が十四になる頃だった。

 


三代続いた眠るような平和は、

新興国ガレリアの野心によって切り裂かれた。



お人好しな父王は、ガレリアが差し出してきた

「友好の証としての縁談」を信じようとしたが、

ランカスター公爵だけは、その下心を見抜いていた。

 


ガレリアは、その急速に拡大している兵力をちらつかせながら、

父王の退位、そして第一王女である私とガレリア国第二王子との婚姻を要求してきたのだ。

 


我が国は小さいながらも、建国以来独立を守ってきた伝統国で、

その寝耳に水の要求など、到底受け入れられるものではなかった。

 


ランカスター公爵は、その長けた交渉力を使い、

要求を飲むふりをして一年もの間、粘り強く時間を稼いだが、焦れたガレリアは各地で小競り合いを始めた。

 


国境沿いの村が焼かれた。


平穏な生活に慣れきっていた中央貴族や民までもが、敵愾心に燃え始めていた。


国の矜持として、これ以上屈するわけにはいかなかった。



私は、求心力に翳りが見え始めた父王を支えるため、第一王女として、次期女王として表舞台に立つことを決意した。




ガレリアが、国境近くの辺境領を侵攻予定だという一報がもたらされたとき、

全面戦争に舵を切る、議会の決定が下された。

 


辺境へ向かう第一軍を前に、次期女王としての決起演説を明日に控えた夜。



突然、寝室を訪ねてきたクラウスが、震える声で扉の向こうから私を呼んだ。



「入れてくれないか、リーゼ。……何もしない。

ただ、朝まで君の部屋にいさせてくれるだけでいいんだ。

もう誰にも文句なんか言わせない。

……頼む、リーゼ。俺はお前の隣に立ちたい」

 


それは、少年の幼い暴走だった。無鉄砲な優しさが私の心をぴしゃりと冷やした。

 


この扉を開ければ、いつ沈むかもわからない船に、彼を引きずり込むことになる。


負けることのできない戦いだと承知している。


しかし、万が一。ここで彼の望む「事実」を作ってしまえば、敗戦の折、私諸共処刑台の上だろう。



私は、扉を開けなかった。



「クラウ…いえ、ランカスター。できないわ。

……私はもう、あなたの手を取らない。

女王としてこの国を守る」

 


言葉に出すとその重みに体が沈みそうになる。


扉にしっかりと背中をつけて、彼への淡い恋心に蓋をする。


この国を、彼を、大切なものを守りたかった。




「……もう、クラウとは呼んでくれないのか?」



彼の問いに答えることはしなかった。

 

 

 

──これが、私たちが幼馴染兼婚約者候補という関係でいられた、最後の夜だった。











最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。



もし少しでも続きが気になる、と思っていただけましたら、下部の【評価★】やブックマークをいただけますと幸いです。


皆様の応援が、物語を最後まで描き切るための何よりの原動力です。



次回もよろしくお願いいたします。

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