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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第2章・継承編

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第65話・秘密の食卓

 ノリコは僕の目の前で、マグナさんの肩ににフォークを突き刺していた。


「オッサン!! ネオっちがね、明日王子来るから機械いじり禁止だってさ!!」


「おう、じゃあ今日は寝ないで作業しねぇとな」


 この人はストームの回収から10時間以上は作業し続けている。いったいいつ寝てるんだろうか。


 メインルームで明日王子が来ると言う連絡を受けた後解散し、ネオさんはブリアンをつれて風呂に向かい、僕はノリコさんとネオさんの伝言を伝えていた。


 そして僕がノリコの乱暴な報告を横で呆然として見ていると、マグナさんが僕に声をかけてきた。



「おっ、そうだ、これ直ったぞ」



 そう言って机の脇の小さな引き出しから、ゴールドの細い鎖を取り出した。その太い指につままれていたのは、ピンクゴールドのチェーンにウサギのシンボルのネックレス。ヒメガミさんの遺品だった。


「あ、それ……」


 朝食の時に、デフィーナの反応を見るために机の上に出したんだ。ネオさんが来て追い出されて回収出来てなかった事を思い出す。



「すみませんわざわざ、ありがとうございます」



 そう言って受け取ると、ノリコさんがそれを覗き込んできた。



「朝、忘れて行ったでしょ!! オッサンに修理頼んどいたのよっ!!」

「そうだったんですね、助かります……」

「ラブたんって、本当に可愛い趣味してるよねっ!!」



 明るく振舞ってくれるノリコに対して、僕の心はざわめいていた。コレはヒメガミさんの大切な遺品であると同時に、理不尽で残酷な出来事だった廃病院での絶望の記憶でもあるからだ。



「はい、どうもっす……」


 気のない返事とともに、もう片手に握り続けていたドグマに力を込める。天使さん、アルハ、蜘蛛の怪物、突然の理不尽。様々な出来事の謎が鎖の様に心の中で絡まっていた。


 ノリコは突然ネックレスを手に取ると、留め金を外し、僕の首に回してきた。ノリコさんのハツラツとした健康的な肌が眼前に迫る。



「ほらっ!! 付けといたら忘れないでしょ!! あっはは、似合う似合う!!」


 そう言ってネックレスを付けてくれた。



「そうっすよね、忘れないように……します」


「壊れたら遠慮なく言いな!! 何度でも直してやるからね、オッサンが!!」


 そう言ってノリコがフォークの刺傷から血のにじむマグナさんの肩をペシンッと叩いた。


 マグナさんは既に反応なく、無言で基盤いじりを再開していた。




 マグナさんとノリコとも離れ、僕は入浴がすんだ後、真っすぐと与えられた自室へと戻って行った。


 詰まるようなコンクリート壁、窓ひとつない施設。僕は今、一人で自室のベッドに座っていた。



 見つめる手のひらの中には、子供の頭蓋骨程の白い球体『イマジンドグマ』が張り付いている。


 サザナさんから譲ってもらった、ナラクさんの遺品だというそれを見つめながら、思考を巡らせていた。


 僕のドグマは始まりの天使さんが来る前に、この手に掴んで学校に投げ捨てた。アルハの話ではドグマは物語を始めるものであり、戦う為のもの。


 ドグマは空間に固定されていて、他者からは物理的な干渉を受けない。


 音速で突っ込んで来たストームの剣をモロに受けて、砕けたのはストームの剣。ドグマには全く傷がついていなかった。おそらく止まってる分には無敵。


 そしてドグマを移動できるのは、僕だけ。その操作方法は『そういうものだと思い込む事』だ。今わかっていることはそれだけだった。



「ナラクさんは繋げる為に使ってたって言ってたな……繋げるってなんすか?」




 コン、コンッ


 その時、部屋の扉をノックする音がした。僕がそれに気付いて返事を返そうと思う間もなく扉が開き、ノリコが顔をだした。


「おつかれ!! ラーブたん!!」


「あ……お疲れ様っす、ノリコちゃん」


 僕はその突然の訪問に呆気に取られながらも、もはやノリコの緩急激しいノリに若干慣れてきていた。ノリコは扉から頭だけを出し続けて、ドグマに視線を落とす。


「おやおや? ドグマの研究中かー? えらいぞ!!」


「はい。まだ姫様の結婚式まで何が起きるか……何も起きなきゃいいんですけど」


「くぅ、健気だ! そんなラブたんのために、ノリコちゃんは、夜食を作ってきました!」



 そう言うと、扉を蹴り飛ばし、部屋の中に入ってくる。その手にお盆を掴んでおり、料理が乗っているのが見えた。


「あ……気にかけてくれて、ありがとうございます!」


「ちゃぶ台出してね、棚の所にあるでしょ!!」


 ノリコは笑顔で片足を伸ばすと、部屋の隅の棚をつま先で指し示した。そこには折りたたみ式の白い円盤が立てかかっている。僕はドグマを後頭部に付け直して立ち上がり、それを掴んだ。



「コレっすね、よっと」


 掴んだ円盤には、厚みがあり、その中に足が折り畳まれている。縁と足にはつる草のようなアンティークが施され、ちょっと洋風の雰囲気があった。



「ちゃぶ台にしては、面白い趣味っすね」


「でしょお!! それはノリコちゃんが、ナラクっちに買ってあげたんだよ!!」


「そうだったんすね……」



 ノリコの反応は常にテンションが高いが、僕はちゃぶ台を展開しながら、自分が借りてる部屋がナラクさんの部屋だった事を察していた。ノリコは覗き込んでくる。


「あー! ヤキモチ妬いてる? 妬いてる?」


「いやっ!? そういう訳じゃ!!」



 突然の接近に動揺し、僕はちゃぶ台を盾のようにして身を隠した。そして落ち着いて頭を落とす。


「ただ、ナラクさんって、このドグマの持ち主で、亡くなられたって聞いたので……」


「ああ、それねー、ウチはナラクっちとは短かったし、アイツはネオっちにゾッコンだったからね! 気にしなくて良いよ!!」


「そうだったんすね……」


 僕はちゃぶ台を床に置いて、その白い平面を眺めていた。着ている服、この部屋、ドグマ、ちゃぶ台……


 今ここにある僕の場所は、全てナラクさんからの借り物だ。それを突きつけられているような、そんな気持ちが広がっていた。


 そして、眺めていた白い机の表面をノリコのお盆が遮った。お盆の上には、おにぎり、竜田揚げ、卵焼き、ふかし芋。素朴な色合いだが、温かみのある立体感と香りが、僕を現実に引き上げた。



「ささっ!! 食べよ食べよ!!」



 顔を上げると、ノリコはレザーのミニスカートのままあぐらをかき、笑顔で箸を差し出してくれていた。



「はいっ、いただきます……!!」



 その後はノリコと談笑しながら、料理を食べ進めた。その味はどこか懐かしく、旨味があってしつこくない、やさしい味がした。


 話題はノリコから始まった。内容は僕が見ていなかった、ストーム戦の序盤、空からストームが降ってきて、ネオがトラップで対応した英雄譚からだった。その内容を聞くほどに感じた。ネオさんは強い。



「そういえば……ネオさんのチームって、結構クセ強くないですか?」


「たはーっ! そこに気づくとは、さすがラブたん!!」


「割と最初から思ってたっすけど、言う事じゃ無いかなと……」




「スレっちはね、狙撃は上手いけど、病気なんだよ! 10分以上は続けて寝れないの!! だからいつでも寝不足で、どこでも寝ちゃうのよ!」


「あれ病気だったんすね、最初ビックリしましたよ」



 ノリコの説明と、今まで見てきたものの答えがピッタリ一致する。僕はそれに楽しさを感じていた。


 ノリコは説明する度に大きくジェスチャーを取るため、夜食は二人分なのだが、全然食べてる瞬間が無い。食べるより話すのに夢中と言った感じだ。



「マグナのオッサンなんてさ、フォーク刺さんと現実に戻ってこないし!! 会社員やってたけど、遅刻するし出てきたら帰らないしで、どこもクビだったらしいよ!!」


「ああ……納得です……」


「ネオっちは、作りたい時に作りたいもん作れって言って、ネオっちが欲しい物の設計図だけ渡してるから、無言でずっとそれしてるね」


「あれ、ものすごい集中力っすよね、」


「それな! それがな、オッサンの楽しい、イコール最強なんだよ!!」


 ノリコはそう言って自分で作った竜田揚げを一つ取って口に放り込むと、両手を掲げた。


「んんっ!! 美味い!! さすがノリコちゃんのお料理だ!!」




 ノリコはそう言って自画自賛をする。そんな明るさに飲まれて、僕も小さく笑っていた。


「はは、本当に美味いですし、その理論は最強っすよね、ノリコちゃんはずっと楽しそうで、すごいと思ってるっすよ」


「いやあ、それもラブたんが来てくれたおかげよ? ネオっちは用が無いと会話しないし、スレっちはゆっくりだし、オッサンは反応しないしねぇ……?」


 そういいながら、僕の顔を覗き込んで、ふかし芋を口に運んでいる。垂れ下がる艶のある黒髪に、白いシャツのU字の襟首がゆるみ、ささやかに存在する胸の膨らみが折り重なって、段を作ってるのが見え、視線が引っ張られる。


 自分がそう意識してるのに気づくと、突然体温が上がっていた。僕は焦ったように返していた。


「い、意外ですよねっ!? ノリコさんみたいな明るくて楽しい人が、このチームに居るって……!?」



 そう返すと、ノリコは少し目を細めた。


「ああ、ウチはネオっちと……」



 そう言いかけて、ノリコが言い淀む。そして突然ケロッとテンションが変わり、茶化しに入ってきた。


「お!? ノリコちゃんがこのチームに合わないって、 もしかして今のは口説いてる? 口説いてるのか!? ノリコちゃんを引き抜いて、駆け落ちしたいってか!?」



 その強烈な押しに、飲み込むところだった蒸かし芋でむせ返りながら、必死に言葉を返した。



「い、いや……!? 褒めてるだけっすよ!! その、積極的に面倒見てくれるし、助けられてますので……」



 ノリコはニヤつきながら、ヤカンから麦茶を入れて差し出してくれた。


「おおお! ノリコちゃんの気持ちは、届いてるような、届いてないような!?」



 僕はそれを一気に飲んで、芋を流し込んだ。そして一息はいて、聞き返す。


「えっと、どういう事っすか!?」


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