表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/64

第56話・狂気の暴風雨3

『ソニックブーム』


 それは物質が音速を超える時に起きる衝撃波の現象。


 音は空気の波であり、波が折り重なり過ぎると強固な空気の壁になる。音速の壁というものだ。その壁を叩き割ったとき、空気が裂けて衝撃波が生まれる。それはまさに空間そのものを叩き壊す爆裂となる。



 剣と一体化されたストームの体が音速で打ち出され、空気が割れた。



 バッコォオオオオン!!



 爆音の衝撃波が周囲を抉り、音より先にストームの攻撃が届く。それが生身で音速を超える狂気の直進突撃


 急転直下神風爆雷スサノオ テンペストだった。


 そして地上への激突までの刹那、0.1秒にも満たない、人間の反射すら追いつけない、その一瞬の中でストームの超視力は認識していた。



「ネオが消えた!?」



 屋上戦だ。見晴らしはいい。もしネオが飛び降りたなら、それを見逃すほどストームの目は甘くない。だが屋上にネオがいない。



 ズォオオオオオン!!



 無論、音速の発射にブレーキなど存在しない。ストームの剣はそのままビルのコンクリート屋根を撃ち抜き、爆音と同時に大穴が空いて建物が揺れ、窓ガラスが一斉に砕け飛んだ。そしてストームの体は屋根を貫通して、真下にあった隣の建物の壁に叩きつけられ、弾けるように血が噴き出した。



「がふっ!!」



 それは生身で音速に挑んだ代償だった。そして巻き込む予定だった、ネオという肉壁を失った状態での石壁への激突。石壁に血を塗りたくったようなアートを描きながら、ストームは地面へずるりと崩れ落ちた。


 その後、突撃した建物の一階の壁が丸く切り取られ、中からネオが飛び出して着地した。



「ガジェットGEAR、シャークスライサー」


 それはホテル戦でスゴミとブリアンの救出のとき使っていた、壁切断用のノコギリ。それがネオの靴の踵から飛び出すように仕込まれていた。


 ストームが血まみれの体で這いつくばって視線を合わせ、にじむ声を出す。


「建物ん中に逃げたのかよ、逃げすぎなんだよテメェ……」


「自滅技の切り方が雑すぎんだよ。予定よりだいぶ早く済んだな」



 ネオの不遜な態度は一切揺れていなかった。

 しかし瀕死のストームの殺意も一切揺れていなかった。



「……済んでねぇよ」


 ストームは言い捨てて、全身から血を垂らし、よろめきながらも立ち上がる。


「俺はテメェを暗殺する。まだてめぇ、生きてんだろうが」




 ストームは目の周りの血だけを袖で拭って、剣を引き上げた。ネオが数歩ステップの様に下がって構える。


「おいおい、さっきのソニックブーム出てたよな。もうそれはタフってか、ゾンビだな」


「だったら噛み付いてやんよっ!!」


 ストームが剣を持ち上げて、スタートレバーを引こうとした、その時。


 二人が向き合う狭い路地に、別のバイクのエンジン音が鳴り響いた。ノリコのバイクだった。


 バイクで通るにはギリギリの幅の通路を、迷いも無く全速力で、ネオの背中から突っ込む。その速度は完全にネオを轢き殺すつもりのそれだった。



「ネオっちー!!」



 ノリコの奇声が狭い路地に響き渡ると、ネオは弓形態だったジャンバーを頭上に掲げた。


「スティックインセクト」


 弓は棒へと変形。両サイドの壁へと突き立てる形となって固定される。その棒を鉄棒のように使い、ネオは逆上がりのようにして身体を回転させながら棒の上に着地。


 その下をノリコがバイクで滑り抜ける。直後、狭いT字路をほぼ垂直になるレベルのウィリーで90度ターンをした。前輪のタイヤが着地した瞬間、ネオがバイクの後部に乗り……



「ディスエイブル」


 ネオがつぶやくと、棒だったジャンバーは硬度を失い、普通のジャンバーに戻る。そのままノリコは、バイクを加速させて路地を駆け抜けて出ていった。


 ストームは一瞬呆気にとられるが、すぐに感情のギアを上げて行く。


「何度も何度も逃げやがってよお!! 俺からは逃げられねぇって……言ってんだろうが!!」


 ピシャ...ピシャピシャ…


 地面に血を撒き散らしながら、ストームの狂気が裏路地に吠える。


 ブロロ…ブオオオン!!


 ストームは再びエンジンを吹かして空に飛びあがった。空中でノリコのバイクを視認して捕捉する。




「地面走るバイクごときがよお、俺から逃げられるか!?」


 ストームの剣がミサイルのようにノリコのバイクを追いかけて、地下都市の空を駆けて行く。地下都市の道は細く入り組んでおり、真っすぐにスピードを出せる場所は多くは無かった。空中から追うストームはすぐにノリコのバイクの頭上を取る。



「狩りの開始だなあ!!」


 一方ネオを後部座席に乗せたノリコは、しっかりとハンドルを握って騒いでいた。



「アイツ空中から来てますけど!?」


 ネオは冷静だった。


「ノリコは避けるのに集中しろ、あいつは直進突撃しかしてこない」



 ストームが空中で角度を合わせ、突撃体勢に入った瞬間……


 カコーン!!


 突然剣が激しい金属音をあげて、空中のストームの体勢を大きく崩した。


「なんだぁ!?」



 ストームはその不意のバランス制御喪失に耐え切れず、そのまま下へと落下していく。


「クソがっ!! 空中に罠は無ぇんじゃねぇのかよっ!!」




それを流し見していたネオは腕を組んで宣言した。


「オッケー入った、狩りの開始だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ