第45話・フクロウさんは見ている。
巨大な橋が丸ごと、ネオさんのトラップと化していた。
橋の鉄板と鉄板で戦車を挟むサンドイッチ……
それがトラップ・ドラゴンバイト。
ネオさんは靴についたブースターを
たくみに操って着地すると、小さく呟いた。
「ディスエイブル・ミーアキャット」
『ディスエイブル』それはネオさんが発動した罠を
解除する時の号令だった。
「そういえば、途中でミーアキャット
使いまくってたっすね」
僕が疲れ気味にそう尋ねると
ネオさんは一息置いて、丘のように広がる街を眺めた。
「ああ、この街は、チェス盤みたいなもんだ。
ミーアキャットは通行止めを作る道路制御の柵。
起動と解除を繰り返せば、車両の動きは支配できる」
「見えない場所のやつも、動かしてたっすよね?」
ネオは頭に乗せた赤い羽根つきのヘッドギアに手を当てる。
「こいつが、ガジェットGEAR・アウルウォッチャー
町中の監視カメラの映像を、私が確認出来る。
この街のどこで何があっても、すべての様子がわかる」
「もしかして……外から来た将軍のことも?」
「いやアイツは見えてない、完全なアドリブだ。
そのせいで私のバイクが犠牲になった
捨てるつもりは無かったのにな」
ノリコがそれに補足する。
「ネオっちのバイクが開けた隙間が無かったら
ウチもあの戦車の間は抜けれてないからねえ
ネオっちのバイクに黙祷ー!!」
ネオはぺしゃんこにつぶれて火をあげる
バドルドの戦車の引っ付いたバイクの残骸を
見つめている。
「でもそれ以外は、最初からこの橋に
全員同じタイミングで集めるつもりで
ルートを組んでいた。
ドラゴンバイトで一網打尽にする為にな。」
橋の入口に居た時兵士達が、撤退し始めていた。
ネオさんは本当に一人で軍隊を押し返す実力を見せつけていた。
それを見て僕はつぶやく。
「兵士達、諦めてくれたんすかね……?」
ネオは目を細めて言った。
「軍ってのは基本、命令以外で動くものじゃない
この作戦を指揮してたのがバドルド将軍で
そいつが死んだから作戦終了ってやつだろ」
ネオさんの発言には哀愁と深いものが込められていた
それを受けてブリアンが震えた声で口を開く。
「私の存在が、あんな風に使われて
それに、兵士たちが従ってたなんて
知らなかったわ……」
その声に、力はなかった。
僕は口を開けず、うつむいていた。
そこに代わりにノリコがふっと声を上げる。
「でも、スゴミっちは言い返してくれたじゃん?
『あんた達が絶対悪い奴』ってさ
少し迷ってる人もいたし」
「あれはさすがに、ひどいと思ったんすよ」
ノリコの声に僕も顔を上げた。
それに対し、ブリアンから素直な礼が出てくる。
「うん、ありがとう、スゴミ。
でも、そんな風に軍を動かしてしまう奴が
居たっていうのも事実よ……
だから、私は国の腐敗を取り除き
新しい国を作っていくわ、ドラキールと共に」
「おっ、姫様もかっけーな!
推しちゃおうかなあ!!」
ノリコがブリアンを指さして、茶化しを入れるが
ブリアンは動じていなかった。
そのまま胸に手を当てて、目を落とす。
「今日のことは悲劇よ。
起きてしまった以上、悲劇として受け止め
それでも国を強くしていかなくちゃいけないの」
ネオさんが冷ややかな目でヘッドギアを操作しながら言った。
「一市民としては、しっかりして欲しいけどもね」
それを聞いて、ブリアンに少し余裕が戻ってきた。
「ふふふ……あなたが一般市民は冗談でしょ?
まあ、あなたが仕掛けた非合法施設は
今回は見なかったことにしてあげるわよ?」
「そもそも非合法施設だからな。
見られても止められても仕掛けるけどな」
ブリアンのちょっとした挑発だったが
ネオさんは不遜な態度を崩す気配すら見せない。
ブリアンは口を開けて唖然としていた。
その間を縫って、僕は聞き出してみる。
「暗殺の件って、もう片付いたんすか?」
最初に答えたのは、背中に張り付いてるブリアンだった。
「軍はバドルド将軍の一存で動いていたはずよ。
彼が亡くなった以上、軍としての襲撃は
もうないと思うわ……」
しかし、ネオは目を鋭くして、被せるように答える。
「ブリディエット軍が終わっても、まだ終わってねえよ」
「えっ」
「コレはサザナの直接の依頼だ
あいつの直依頼にしちゃ、軽すぎる」
僕はネオさんのその発言が信じられなかった。
いや、むしろネオさんの事は疑っていないが
信じたくなかった。
「軽かったっすか!?
めっちゃヤバかったと思いますけど!!」
「私は国絡みの依頼は受けないって
サザナには再三言ってあった。
それでも、私にこれを持ってきた
あいつが私に直で持ってきた依頼は
簡単だった事がない」
完全に真面目なトーンで、本気で言ってるのが分かった。
これ以上の事態が襲って来るってのは
どういう事なんだろう……
「サザナって誰っすか?」
先に答えたのはブリアンだった。
「じいや……いえ、私の執事が
私を隠す方法を探っていたとき、
最も早く接触してきた女よ」
ノリコは僕の手を拾うように握って見つめた。
「サザナっちはね、どこまでがジョークで
どこからが本気かわかんない、超セクハラ女なの。
気をつけてね、スゴミっち!」
「それをノリコさんが言うんじゃ……相当っすね……」
すると、ネオがしっかりと答えてくれた。
「サザナは情報屋だよ、依頼主と作業者を繋げる役目だ。
私の事は特に贔屓にしてて、普段は仲介入れて連絡寄越す」
ネオさんはグローブのツマミをいじりながら続ける。
「ホテルの部屋、爆破しちまっただろ?
ああゆうのを有耶無耶にして、修理工事を私に
持ってきてくれるんだよ」
「何それ、自分で壊して……修理受けるの、ズルくない?」
ブリアンがもっともらしいツッコミを入れるも
ネオさんはやはり、少しも揺るがなかった。
「その時ついでにトラップ仕掛けるからな
ずるいかどうか決めてんのはお前の国の法律だろ
私は有罪になった事は無い」
「あらまぁ!」
ブリアンは目を丸くして眉をひそめていた。
ネオが街側の岸を指さす。
「さあ、マグナが迎えが来た。拠点に戻るぞ」
岸にはバイクがすっぽり収まりそうなトラックが
いつの間にか背面扉をあけて待機していた。