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第44話・スリー・トゥー・ワン・ゴー!ファルコン・ストライク!

 一本の橋。


  片側二車線と歩道のついた地下王国の入口の端の橋。


 車線を無視して道を埋めるように、戦車と軍用車両が並び

 その隙間を埋めるように兵士が大きな盾を立てて

 その上に機関銃を乗せている。


 その光景が橋の前と後ろに並んでいて、僕達は橋の中央。


 パチンッ!!


「トラップGO!ドラゴンバイト!!」


 ネオさんが空中で唱えたトラップ起動の号令とともに


 地鳴りが響いた。

 橋全体が、唸るような音を立てて震え出すと

 中央の、巨大な鉄骨のジョイントが道路の下へと消えていった。


 そして、橋の付け根、両岸の橋が持ち上がり始めた。

 装甲車、戦車、兵士。

 すべてが気づいたときには、すでに遅かった。

 兵士達に困惑が走り始める。


「地面がせり上がってくるぞ!」

「橋が閉じる!? 離脱――!!」


 しかし、そこからは早かった。

 ガキィィィンッ!!


 橋全体が真ん中で綺麗に折れ曲がり

 巨大な金属の顎となって閉じていく。

 橋梁と橋梁が牙のように重なりあって閉じていく

 それは、まさしく、巨竜ドラゴン一噛バイト


 中からの光景はまさに地獄絵図だった。


 橋の中央を重力の中心として、坂道を転げ落ちる軍用車両達

 左右からは大壁となった道路が迫る。

 密室の罠のように迫る壁が、すべてを圧迫した。


 そして、橋の内部にいた車両と兵士を、容赦なく押し潰した。


 逃げようとする車両が、上から落ちてくる車両に押しつぶされ

 龍の喉の奥、橋の中心へと運ばれて行く。

 人が叫び、装甲が軋む。すべての嘆きも呻きも

 無慈悲に閉じる鋼鉄の咆哮の中に、飲まれていった。


 このトラップ起動一発で、ネオ達をとりかこんで

 橋の上に居た軍は全て壊滅。

 巨龍の喉を通って下の黒い川へと吐き捨てられていく。



 で、顎が閉じきる前

 まだその中央に僕と姫を乗せたノリコのバイクが居た。


「ダメだ、これ……潰されるっすよ!!」


 ブリアンも絶望して見上げる。。

「人が……戦車が、滑ってくるよ!」


 ノリコは片手を胸に、片手で天を仰いだ。


「ウチら三人、運命を共にする者…!!

 病める時も、噛まれる時も心ひとつである事を誓いますかー!!」


「遊んでる場合じゃないっすよ!!」


「ウチに命賭けて一体化! 死ぬ気で抱き合え!!」


 僕はノリコの一体化に強く反応した。

 ブリアンの手を引き、自分の体に回させた。


「えぇ!?何して……!」


 一瞬ブリアンがたじろぐも、僕は本気の叫びをブリアンにぶつけた。


「マジで!死ぬ気で掴んでて下さい姫様!!」


 そういうとブリアンの腕に力が籠り、密着度が限界に達した。

 それでも気を削がれることなく、ノリコの身体に腕を回す。


 ノリコがゴーグルをおろし、目を覆った。

 両手でハンドルを握り、背を低く構える。

 機関銃に追われてる時でさえ尻を降ってたノリコが

 初めてバイクをまともに構えた。


「さぁー!盛り上がってまいりましたねえ!!笑えーーっ!」


「……は?」


 僕も姫も、ノリコについていけていなかった。

 しかし、3人はギッチリと密着している。

 ノリコは高らかに宣言する。


「ノリコ選手!! いっきまーす!!

 スリー! トゥー! ワン……!

 ファルコンストライク!!バースト!!」


 ノリコのバイクが、爆発的な火力で、壁と化した橋を駆けあがる。

 まるでロケットの発射台。

 落下してくる車両と兵士を最低限の動きでギリギリ交わし、上る、昇る……


 橋が完全に閉じ、中身を平らに叩き潰すまで残り僅か。


 ブリアンは目を閉じ、必死に僕にしがみつく。

「いやあっ、スゴミ!? どこ!? スゴミ、いるの!?」


 僕は片腕を、自分を抱きしめるブリアンの腕へと回した。

 その震える手首を温めるように……


「居ますよ! 絶対離さないで下さいよ!!」


 それを合図に、ブリアンの抱きしめがより一層強くなる。


 同時にノリコのテンションはマックスへ……


「あーっはは! あははほはは!!

  やっばあ! 気持ちいいなぁー!!

 ドラゴンブレス!!ファイヤー!!」


 バイクは、閉じかけた鋼鉄の顎、ドラゴンの口先から

 ブースターの火炎と煙を撒き散らし、飛び出した。

 後ろでは橋が全てを強引に潰す金属音。


 ノリコの飛び出たタイミングは完璧だった。

 早く出過ぎて橋の角度が浅ければ、外の壁に直撃特攻。

 遅ければ橋の壁の餌食。その中間である垂直射出で


 そのまま上空へ……

 高く、高く、飛び上がる。

 空中に投げ出されたバイクと三人。


 風の音だけが耳を撫でる、静寂。


 遥か下に、淀んだコンクリートの街並み。

 真っ赤に燃え盛るドラゴンの顎。

 それらすべてが、終末の日の絵画のように広がっていた。

 ノリコは、天を向いた90度のバイクの上で立ち上がった。

 両手を広げ、目を閉じ、祝福を受けるように。


「ここから! ここからですよ!! 愛の試練は!

 いついかなる時も、その手、離すべからずってね!」


「立たないでくださいっすよ! 落ち……おちる!!」

 僕は立ち上がるノリコに必死にしがみつく。


「スゴミ! 浮いてるわよ!! どこ? ここ……どこなの!?」


 ブリアンは目を開けられないが、僕に抱きつく力は

 一切緩めなかった。


 そして自由落下が開始した。


 風を切る音が、この浮遊感から再び現実を引き戻す。

 バイクと三人は、重力に従い、地獄の顎へと落ちていく。

 言葉を失い、ただ抱きしめる事だけを考えていた。

 自分の命をノリコと言う奇跡に託す、もはや祈り…


 地上では、すべてを噛み潰したドラゴンの顎が

 ゆっくりと開いていた。

 車両の残骸、飛び散った血。


 橋の下の黒い川にボトボトと落ちる人やら鉄が

 遠く飛沫音をあげている。


 ノリコはハンドルを握る。


「ファルコン・ちょとバースト!」


 バヒュン! ボフッ!ボフッ!

 ファルコンストライク小刻みに噴射し始める。


 シュッ、シュッ、シュッ―ッ!


 機体が空中で減速し、重力と逆らうように滑る。

 閉じかけた橋の梁にタイヤが噛みつき……


 ダンッ!


 車体は衝撃で跳ねながら、橋梁から橋梁へと跳び移る。

 そして、開ききった橋の中央へ、重い音を立てて着地した。

 あたりは、潰された車両の残骸で埋まり、炎が上がっている。


 そこは全てが龍の餌食となった、荒廃の地。


 両岸に待機していた兵士たちも、

 この光景を前にして、誰一人として橋に足を踏み込もうとしなかった。


 ノリコはバイクの上で、両手を広げ高らかに宣言する。


「荒廃の大地に降り立った……われら天使ッ!!」


 僕はノリコの背中に顔を埋め、目はギチギチに強ばっていた。


「無茶し過ぎっすよ……」


 ブリアンはバスローブもくしゃくしゃになりながら震え、念仏のようにつぶやき続けている。


「スゴミ、どこ、スゴミ、ねぇ、どこ、なに……?」


 ノリコがゴーグルを外して頭にかけ、振り向いた。


「はいはーい!楽しかったぁ?

 愉快な空の旅はおしまいだよ!」


「愉快……愉快ね……ははっ」

 僕は脱力し、顎が笑っていた。


 そんな僕の頭をノリコがワシャワシャと撫でる。

「よーく二人とも落ちなかったね!

 すごいすごい! 愛のパワーだねっ!!」


 ブリアンが半目を開け、ボロボロと泣き出す。


「怖い……こわかった…もうやだ

 あなたのうしろには二度と乗らないわ……」


「あっちゃあ……フラれてしまったかあ!」


 そこにブーツが変形した小型ブースターをふかして

 ネオが空からゆっくりと降りてきた。


 そしてノリコに声をかける。


「……状況終了。お疲れ、ノリコ」


「へへっ! 楽勝ーっ!!」


 

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