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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第2章・継承編

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第43話・怒りの咆哮

 ネオとノリコのバイクは、ブリアン姫と僕を乗せて

 地下都市の出口の橋を渡ろうとしていた。


 しかしその出口から軍隊が出現、前方も後方も戦車と兵士と機関銃。

 それは逃げ場の無い完全な包囲だった。


 ネオは冷静にノリコに次の指示を出してくる。


「ノリコ、姫をそっちに乗せてくれ。

 私のバイクはファルコンストライクで切り捨てる」


 そういうとネオはバイクを思い切り傾けた。

 ブリアンの足が地に付くのを見ると

 キュッとバイクをふかして切り抜け、ブリアンを降ろした。


 ブリアンは呆気に取られながらも、バスローブをしっかりとおさえている。

「ちょっと…!なんで私が降ろされるの!?」


 ノリコはすぐにブリアンの目の前にバイクを付けて迎えに行く。

「オッケ〜! はい姫様ねー、残念だけどこっちねー!

 スゴミっちは詰めてね! 詰めて詰めて! もっと近ぉ寄らんか!!」


「さ……三人乗りっすか!?」


 ネオは前後50は超える銃口に狙われてると言うのに

 敵を見ながら冷静に説明をした。

「運転はノリコの方が上手い。全員助かるならそっちだ」


 僕は向けられた銃口と戦車の大砲のせいで気が気では無かった。

「なんでそんな落ち着いてるんですか……」


「十字砲火ならもうちょっと焦るけどな

 挟み撃ちは味方に当たるから簡単には撃てねえんだよ」


 理屈ではそうかもしれないが、実際狙われていて平気な意味が

 僕には理解できなかった。そこにノリコが腰に当てた僕の手をさする。


「ビビっても笑ってても、死ぬときゃ死ぬよ

 それなら笑って冷静な方が生存率上がるからさ

 出来る事するしかないよ」


「はい……」


 理解しきれないが、どの道この二人に命を預けるしか道はない。

 僕はノリコの腰を強くつかみ、身を引き寄せた。

 そしてブリアンが僕の後ろへとまたがってくる。

 大きなものと太ももがギチギチに押し付けられてきた。

「ちょっ、狭すぎるわ! スゴミ、もっと前行きなさい!」


 ノリコは振り向き、僕の代わりに答えた。

「無理でぇす! 姫様もスゴミっちにデカいの押し付けて誘惑しないでぇ!」


「こ、こんな時に何言ってるの!? 本気で!!」


 この状況に僕の体温は極限まで上がっていた。

「ダメっす……思考がっ」




 そのとき、前方十数メートルまで迫った出口側の戦車のハッチが開いた。

 ヘッドライトに照らされて立ち上がったのは、軍服に勲章を身に着けた男。


 がっしりとした体格。ねじれた口元。

 鋭い目付きと、やけに丁寧に整えられた髭。

 男は野太い声でしゃべり出す。


「散々暴れてくれましたな、テロリスト、ネオ・ジョババ。

 そしてブリアン姫までお揃いとは。これは手厚く歓迎せねばなるまい」


 その姿を見てブリアンがすぐに反応した。

「バドルド将軍……!」


 バドルドと呼ばれた軍人がアゴ髭をいじりながら、ワザとらしく言葉を漏らす。

「…まさか。ブリディエットを帝国に差し出すために

 テロリストまで雇うとは思いませんでしたぞ、姫様?」


 ブリアンはバイクの上から身を乗り出して訴える。


「何を……! これはドラキール帝国との和平を前提とした――」



「黙れ、売国奴の小娘がッ!!」


 その必死の呼びかけを、バドルドの大声がかき消した。

 その怒号が橋全体に響き渡る。


「国民に媚び、帝国に媚び、次はテロ組織か。

 ケツを振って渡り歩いたその末路が、国を売るとはな。恥を知れ!!」


 ブリアンの目に怒りが浮かび、僕の背中に爪を立ててシャツを掴んだ。


「……ッ、許さない!」


 それに対し、バドルドは片手をあげて語った。


「許すか否かは我々が決める。

 全軍、我々はドラキールの傀儡になどならない!

 反逆者共を皆殺しに!姫は生け捕りにせよ!!」


 凛々しい声で兵士たちに指示を送るバドルド将軍。

 しかしその目は、ローブ姿のブリアンを見つめて、舌を出していた。


 ガチャガチ…チャチャチャ‥‥

 前後両軍の銃が構えられる。兵士たちがじりじりと迫ってくる。

 ブリアンの背中を掴む指にギリギリと力が入る。


「なによこれ! 私は必死に外交して、あと少しだったのに……!」


 その押し込まれる指、その震えが、ホテルでのブリアンの悲しい目を思い出させる。


「姫様……」


 戦車の上から将軍が手を振り下ろそうとした。

「総員、攻撃……」


「ま!!待ってくださいっすよ!!!!」


 僕は叫びあげていた、戦場の空気を割った。

 ポケットの中にはヒメガミさんのネックレス。

 今ここで終わるなんて、許せなかった。


「あんたら、勘違いしてるっすよ!!」


 顔を上げ、将軍を正面に、まっすぐ睨む。


「姫様は…!! 自分の身体も心も...!!

 全部かけて国を守ろうとしてるんすよ!

 そんな人を、媚びてるだの裏切りだのって扱うんですか!」


 外から見れば、あまりに突然の名も無き少年の怒声。

 一帯の兵士の動きが一時停止する。


「あなた達、自分の国の何を見てきたんすか!?

 こんなやり方で、人を殺して、人の夢を潰して

 あなた達、絶対悪い奴らじゃないっすか!!

 なんで平気でこんな事出来るんすか......!!」


 ブリアンが僕の背中をさしていた爪が軽くなった。


「スゴミ……」


 バドルド将軍は脇の将校に小声で何かを聞いている。


「おい、このガキ誰だ?」

「未確認対象です」

「なら、価値もない。殺せ」



 その一連の流れを黙って聞いていたネオが、大きく溜息をついた。

「はぁ……だから国がらみは、だりぃんだよなぁ……」



 ネオがバイクの座席の上に立ちあがって姿勢を低くした。

 敵兵士の銃口が一斉にネオに集まる。

 しかしネオはそのまま、ガジェットの名前を叫んだ。



「ガジェットGEAR・ファルコンストライク、バースト!!」


 言うと同時にネオのバイク後部、廃棄筒の脇の円筒が光り出す。


 ……直後、轟音。スパーク。


 バイクは爆発的な加速で、炎の矢となり、バドルドの戦車に向かって

 真っすぐにぶっ飛んでいった。もはやバイクでは無くてミサイルだった。


 兵士の一人が叫ぶ。 「自爆特攻!!」

 バドルドの声が短く響く。 「止めろ!!!」


 ……だが遅い。

 誰もがバイクに対しで銃を構えなおす時間すらなかった。

 バイクはバドルドの車両に当たって大爆発を起こす。

 戦車の正面はぐしゃぐしゃに砕け、周囲の敵も吹き飛ばした。


 そしてネオはバイクの上からバク転で、飛び降りている空中だった。

 市街地側の兵士達は、一斉にネオに向かって銃口を構える。

 着地した瞬間、ハチの巣にする気だ。


 その空中で、ネオは指を弾いた。


 ……パチンッ!


「トラップGO!! ドラゴンバイト!!」


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