第42話・トゥー・トゥ・デッド・アヘッド・ランページ・ラン!
「うおおおおお!! 純情ぱわ―――!!」
僕がノリコの腰に腕を回してしがみついた途端
ノリコはバイクで立ち上がり、気合いを入れるように叫んだ。
『下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。』 そんな言葉がある。
下手な鉄砲って何発撃てば当たりますか? 5発目? 6発目?
当然、そんな事は知らない。
だが、今僕たちのバイク後ろを追いかけてくる車載の機関銃は
10秒間に100発、一撃必殺の弾丸をぶっ放してくる。
「ガジェットGEAR・ライトニングバグ!」
ノリコがそう叫ぶと、バイクのテールランプが7色にフラッシュし始めた。
それと同時にノリコはバイクを左右に激しくスライドさせた。
蛇行とフラッシュで敵車両の狙いをかく乱し、前方へ突き進む。
敵兵士の機関銃を撃つ手が一瞬止まる。
「くそ、まぶしい……! 狙いが!!」
「バカモノ! その光を狙って撃ちまくれ!!」
スガガガガガガ……!!
ビームと遜色ない程の機関銃の火線が右へ左へと掠めていく
僕は後ろに向けて背中丸出し、当たれば死ぬ緊張の中、声は出なかった。
しかし僕が抱きついていたノリコの尻が左右に揺れはじめた。
「へいへい! 鬼さんこちら! おしりぺんぺーん!」
その尻にしがみついたまま、僕は絶叫していた。
「何ふざけてるんすか―――っ! 」
弾丸が地面を削り、火花をまき散らす。
それでもノリコは依然としてふざけた態度を崩さない。
「スゴミっち! そんなに激しくお尻を抱きしめちゃって……!
ノリコちゃんのお尻に穴が空かないよう、しっかり守れよー!!」
「それ、守る時は死ぬ時なんですけど!?」
蛇行とフラッシュで機関銃の乱射は何故か当たらないが
その分敵車両との距離は縮まる一方だった。
後ろで機関銃の音の切れ間に兵士の声が聞こえてくる。
「近づいて来たぞ! 良く狙って当てろ!!」
僕はノリコさんのスラロームに体の動きを合わせながらも
後ろを振り返った。車両はもう目の前でバイクのフラッシュで
車上の兵士が記者会見のフラッシュライトのようになっている。
それでいて、機関銃の銃口から火が噴き出してるのが見える。
「近いっ!追いつかれますよ!!」
僕は恐怖でそのまま後ろを見てることは出来なかった。
その時……ネオがトラップ発動を叫んだ。
「トラップGO! C8E4・ミーアキャット」
「ミーアキャット!?」
道路の30メートル程の前方、道路を横切るようについた排水溝。
金網付きの排水溝がピョコンと跳ね上がり、腰の高さの壁となった。
それだけだった。
柱が飛び出すジラフハンガー、マンホールが爆発するライノアセンド
それらと比べるとかなり地味ではあるが、確実に車は通れない。
ノリコは蛇行を解除、飛び出した排水溝に向けて直線軌道を取り直した。
「はぁー! あのいじらしさ!!
まさに巣穴から顔を覗かすミーアキャットちゃま!!
よちよちよちよち……」
「閉じ込められたっすよ!! ぶつかる!!」
「合わせろよ! スゴミっち―――っ!!」
ノリコはバイクを一瞬まっすぐに立て直すと、ウィリー。
そのまま弾みをつけ、壁に向かってジャンプした。
しかし、バイクでの弾み、腰までの高さに届かない。
「高さ足りないっすよ! 当たる――」
僕が衝撃に備えてノリコさんをきつく抱きしめた瞬間……
ズガァンッ!!
背後の軍用車両が迫って、バイクの後輪を跳ね飛ばすように接触。
衝撃でバイクはさらに飛び上がった。
その勢いのままミーアキャットの壁を飛び越えていく。
そして…
ガッシャァアアン!!
背後では軍用車両が側溝の壁に激突し、鉄板ごとへしゃげて火を吹いた。
爆音。 火柱。 衝撃波で空気が震える。
ノリコのバイクは側溝の向こうへ綺麗に着地し、そのまま疾走を続けている。
「ヒャッハー! どんなもんだい!」
まったく生きた心地がしなかった。
全身の毛穴が開き、手足が痺れ感覚もしない、緊張で呼吸がうまくできない。
「フーッ!フーッ!!」
そんな異常事態の僕に、ノリコが優しく呼びかけてくる。
「スゴミっち? スゴミっちー?」
「は……はい……」
「こんなにしっかり掴んで、ウチの胸、そんなに落ち着く?」
気づけば背中から手を回し、両手でがっちり掴んでいた。
硬直して動けず、汗ばむ全身からノリコの存在を感じたが。
「ず、ずびばぜん…….」
恐怖で声が声にならなかった。
もはやノリコの挑発もセクハラもどうでも良くなっていた。
そこからはしばらく敵の追撃は無かった。
狭い道に生えた配管やら看板やらを器用に避けて二人は進んでいった。
その間、ネオさんはずっと呪文のようにボソボソとトラップを発動している。
「5F3Bミーアキャット、6F4Gミーアキャット、5G4GGミーアキャット……」
僕はその光景を見て小さくつぶやく。
「トラップ、動いてるように見えないですけど……」
「ネオっちには、ネオっちの戦いがあるのさ
集中してるから邪魔しちゃダメよー」
ノリコはその呪文の間は静かだった。
細い路地から大通りに出ると、すぐに広い空間と崖のある場所にでる。
それを見てネオさんが発言。
「着いたぞ。大門橋だ」
都市の外れだった、その崖に巨大な橋がかかっていた。
橋の下には黒く深い水が流れ、橋の向こうにはこの地下都市の外壁。
背後を振り返ると、この都市に来て初めて、都市全体が一望できた。
全体の形はドームの半分の地形。壁は岩盤をくりぬいたままの状態で
天井をハニカム構造のコンクリートが敷き詰めており
手前から奥に向かって段々に家屋が並んで、丘のような形を作っている。
最上部の壁には、都市の天辺には一際大きな要塞
恐らくこの国の拠点。ブリアンの城だ。
その城から正面に延びて、橋へと繋がる、一本の大きな直線道路。
今自分たちが立っているこの橋が、都市の正門だと言う事が一目でわかる。
橋の対岸には、分厚い鋼鉄の門。
人力で動かすことは出来なそうな巨大な構造物だ。
ブリアンが風になびく髪をかき集めながら聞いてきた。
「もしかして、都市の外に出るの?」
僕にもようやく終わりが見えてきた気がした。
「あそこが出口ってことっすか?」
ノリコは皮クローブで手を合わせてパンパン叩きながら答えた。
「街中が敵まみれだからねえ! 一回リセット、リセット!!」
ブリアンは下を向き、反抗はしなかった。
「……仕方ないわね」
「確かに、中に残ってても助かる気がしなかったっすね……」
橋を半ばまで進んだとき、対岸の扉が重たく軋んで開いた。
ゴゴゴゴゴ……
中は真っ暗なトンネルが伸びていた。
照明も無い、見えない深さの闇が口を開けている。
ネオのバイクが橋の中央でドリフトして、急停車する。
「止まれ」
キィィィィィ……
静かに停車したネオとブリアンのバイク。
ノリコとスゴミを乗せたバイクも、その隣に並ぶ。
その状況にブリアンがキョロキョロしだし、ネオの背中を揺らす。
「何してるの!? もう後ろから追手が――」
ブリアンの言うとおりだった。入って来た時に通った
街の建物の隙間の道から、ゾロゾロと軍用車が飛び出して来た。
僕のノリコを掴む手が硬くなっていく。
「あの敵の量、早く国を出ないと捕まりますって!!」
しかし正面、トンネルの奥からも、無数のヘッドライトが点いた。
そこに居たのは、戦車、装甲車、歩兵部隊。
それらが橋の向こうの先の出口を完全に埋め尽くしている。
背後からの追手の車列も、エンジン音とともに橋へ侵入してきた。
「この部隊、待ち伏せですか!?
僕らが外に逃げるしか無いって、バレてたんじゃ!!」
ブリアンも左右を忙しそうに見比べる。
「これって挟み撃ち……追い詰められたってことなの!?」
バイク二台を橋の中央に置いて、両サイドからの部隊。
前にも後ろにも戦車と盾を構えた兵士達。
完全包囲が完成していた。