第41話・防壕国家ブリディエット
ネオさんのバイクはかなり改造されていた。
ゴテゴテと使い道の分からないパーツが付いていて
ハンドルにはモニターが付いている。
道を塞いだ装甲車を交わしたが、ネオの表情が険しくなっていった。
「ちっ、規模がデケェな」
バイクの画面に装甲車の向こう側の映像が映されている。
装甲車の中から次々と兵士たちが降りてくる。
ベージュ色の軍服に身を包んでおり、正規軍人といった姿の部隊だ。
その部隊を見て、ブリアンの顔が青くなる。
「ベージュの軍服、ブリディエットの......
この国の兵士じゃないの…」
「国内に密偵ありって報告あっただろ
つまり、そういう事だよ。」
ネオは冷静に言い放つが、姫を狙うのは暗殺者どころか
自国を守る為の軍隊が総出で姫の命を狙っている。
ブリアンの持っていた恐怖の形が肌を通して伝わってくる。
同時に装甲車の向こうで兵士達が叫び始めた。
「ターゲットをロスト!」
「裏だ! 裏にいるぞ!」「なんで裏に!?」
「知るか!」「何してる!まわりこめ!」
僕はそれを聞いて動揺を強めた。
ノリコのバイクがいつ発進してもいいように構えた。
「こっち来ますよ!逃げないと!」
「だーいじょーぶ! 歩兵じゃ
ネオっちの相手にならんから!」
ノリコは余裕の顔でバイクを動かそうとはしなかった。
するとネオが呪文を唱えるように、トラップ起動の号令を唱える。
「トラップコンボ、5H7Cライノアセンド
ジラフハンガー、5H5Bジラフハンガー」
唱え終わると同時に、通路両側の壁がせり出し、鉄骨がせり出した。
ズドォン!
ノリコのジャンプの足場にもなったそれと同じ構造。
その柱が槍のように飛び出し、敵兵たちを両脇から吹き飛ばしていく。
「ぐわぁー!!」
「なんだ! なん…うわっ!!」
さらに…
パッコォォォォン!!!
装甲車の下にあったマンホールの蓋が爆発。
蓋が垂直に飛び上がり、装甲車を下から貫通。
重厚な車体が中央からへし折れ、山型に潰れた。
「す、すげえっすね……」
あまりの光景に僕は呆然とつぶやくしかなった。
ノリコはそんな僕の胸を裏拳でトンと叩き、どや顔を決めている。
「朝メシ前よっ! ちなみに『 ライノアセンド 』が
マンホール爆発のやつな!」
「いや...僕ら、見てただけっすよね…」
ノリコのよく分からない自信とテンションはどこから来るんだろう。
そんな事を考えてると、ネオさんがバイクを切り返し、走り出した。
「ノリコ、この規模じゃキリがない。
C4からC9ラインを通って、大門橋へ向かう」
「おっけー!!」
ノリコは軽く返事しながら、追ってバイクを走らせた。
後ろでは車両の隙間を抜けてきた兵士達が機関銃を発砲していた。
僕は偶然当たるんじゃないかと気が気じゃなかったが
ネオとノリコは全く気にしていない。
すぐに細い通路を曲がり、射線を切っていた。
しかしさっきの軍隊をみて、僕はどうしても納得いかなかった。
「その……国家の軍事レベルの暗殺なんて
本当に起きるもんなんですか
しかも自国の王族を狙うなんて」
ネオさんは平然と答える。
「長い歴史の中じゃ、戦争なんて
他の国と戦うより、自国内の覇権争いの方が多いし
軍部が力を持った国じゃ、よくある事だろ?」
僕は言ってみたものの、歴史なんて分からなかった。
ネオさんは賢い、言ってることはあってるんだろう。
「だとしても……」
ブリアンはバスローブを抑えながらうつむいて語った。
「きっと戦争推進派のやつらよ。
ドラキール帝国と和平が成立すれば戦争が無くなる。
それは、自分たちに流れてる軍事予算が削られるってこと。
だから、金欲しさにこんなことをするのよ……
絶対に許さないから」
その声には怒りが、そして震えが籠もっていた。
「国の軍と戦うとか、 大丈夫なんすか……?」
ノリコは両手放しのまま、両手の親指を立てて笑顔を見せる。
「任せときなっ!
この防壕国家ブリディエットは
ネオっちのホームグランド!
勝てるやつなんて居ないから!」
「防壕国家ブリディエットって
この地下ドームのことっすか?
僕、外から来たばっかで、全然知らなくて……」
気にも止めずノリコが腕を組んで続ける。
「そうとも、防壕国家ってのは
大空襲時代に作った防空壕を更に掘りまくって
そしたら国に鳴ってたってロマン溢れる話なのさ!」
「大空襲時代……空襲もあるんすね。」
ネオは静かに口を挟む
「まあ、敗戦国の内乱の末路だけどな。」
難しそうなので聞くのを躊躇っていると
ネオさんが続けてつぶやいた。
「ノリコ悪い、一台抜けたから頼む。
後方40、16時、機関銃装備車両」
「おいおい火器付きとは良いの寄越すねえ
スゴミっち! ここからちょっと怖くなるから
頑張ってねぇ!」
「えっ、怖くなるって、これ以上っすか……?」
キャルキャルキャルキャル……
タイヤが軋む金属音が狭い路地に鳴り響き
砂煙と共に、右後方の建物の影から軍用車両が飛び出してきた。
車載の機関銃がこちらを捉え、兵士の一人が叫んだ。
「やっと抜けたぞ! ここは通れる!!
ターゲット補足ーっ!!」
上官らしき兵士が続く。
「道があるうちに仕留めろ!
最後のチャンスかもしれん!
蜂の巣にしてやれ!!」
ガガガガガガ……ッ!!
僕たちのバイクに向かって機関銃の乱射が始まった。
キン! キン!
真横で道路に火花が散っている。
火線がうねって機関銃の弾丸が今まさに背中をなぞってくる。
僕は悲鳴を上げた。
「うわああああ!!当たる…死ぬ……!!」
ノリコは叫びながら、立ち上がった。かなり興奮気味に叫んでいる、
「楽しくなってきましたねー!! スゴミっち!」
「全然楽しくないですってば……!」
「バイクと私に身を任せるんだよー!
さあ、一体化するよ! ウチと一緒に楽しめないなら……
死ぬぜぇー!?」
一体化、その一言を聞いて僕は、ノリコの腰に当てていた手を
大きく彼女の正面に回して、抱きつきた。