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第40話・トゥー・トゥ・ジ・エッジ・ハイウェイ・アウェイ!

 ビルの4階から落下して鉄板の地面に激突。生き残る自信はありますか?


 僕はありません。


 丁度、時速60kmでそのまま壁に突っ込むと、それくらいの衝撃のようです。



 そして今、ノリコさんのバイクの目の前に巨大な鉄塊が飛び出して来て

 二人乗りの僕たちはそれに真っすぐに向かっています。



「抱きつけ!一体化だぁああああ!!」


 奇天烈テンションのノリコさんが、真面目に抱きつけと指示してきた。

 僕はそれを聞いて、ガチだと悟った。


 慌ててノリコの背中を包んで正面に腕を回す。

 胸に触れないよう、脇から回して腰へ。


「よっしゃ来た! 行くよー!!」


 ノリコはグリップを大きく捻る。

 バイクは大きな唸りを上げてエンジンが回転した。

 そのままバイクで立ち上がると、バイクの前輪をふわりと持ち上げる。



 ウィリー走行。


 尻にあったはずの重力が、背中方向に落ちていく。

 ノリコの尻が腹を押し付けるが、しがみつく力は増していく。

 抱きついてなければ、確実に振り落とされていた。


 ノリコはそのまま、ビルの外壁に沿って建設された

 コンクリート製の階段へと直進していく。



「こっちも! 階段、ぶつかりますよ!!」

「ぶつからん!! ノリコちゃんはバイクと一体化してるのさー!!」



 バイクは階段の手すりへと飛び乗った。

 手すりの幅は縦に置いたスマホの幅程度、そのコンクリートの急坂。

 更に斜角の上がったウィリー状態のまま、駆け上がっていく。

 重力は完全にバイクの後方、足が落ちそうなのをつま先で踏ん張る。



「ぬわあ……!落ち……落ちる!」


 息を呑む間もなく、バイクは建物の上へ

 そのまま減速もせず屋上の柵の上を突っ切る。


 ビルとビルの間に空いた隙間も……ジャンプ。

 まるでアクションゲームのようにピョンピョン跳び越え

 10センチにも満たない幅の柵の上を減速せず走っていく。


 着地の衝撃のたびに、体がふわりと浮いて

 股間にモゾっと浮遊感が迫り、またすぐに次のジャンプ。



「イーヤッホー!!  鳥!  私は鳥ー!!」


 ノリコは完全にハイになっている。怖すぎて、声も出なかった。

 ただノリコの背中にしがみつき、邪魔しない事にだけ集中する。



 ノリコがネオに呼びかけた。

「ネオっち~、おりる~」


 ネオがどこにいるか分からないが、通信だけが響いた。

「トラップGO!4B6E、ジラフハンガー!」


 ネオの声と同時に、交差点を塞ぐ装甲車の向こう。

 対岸の建物の外壁に変化が現れる。


 コンクリートの壁から、空中にせり出すように

 薄灰色の『工』の形の鉄骨が突き出た。

 まるで、建物の一部が飛び出したように見えた。


「こっから危ないからねぇ! しっかり一体化しとけよー!!」

 ノリコはそう言いながら、立ったまま身を屈め、尻を突き出した。


「これ以上危なくなるんすかーっ!」


 僕はもう見境なくなった。なんと罵られようが知るか。

 突き出されたノリコの尻に頬をこすりつけ、身を乗り出し

 スカートの脇から腕を伸ばして巻き付くように腰にしがみついた。


「うおっ! ワイルドだな! それでいい!!」



 飛び越え不可能な距離の交差点が目の前だ

 装甲車が止まった、その交差点のビルの角に差しかかると

 ノリコは急ブレーキをした。



「うわぁあう!!」


 頭が尻を押して飛び出そうになるのを

 下半身でバイクの座席をギッチリしめて、抑え込む。



「一体化……するっすよおー!」


 恐怖に押しつぶされそうで、思わず叫んでいた。



「はああ! 一緒にいこうぜー!!」


 減速の勢いで後輪が浮いた。


 バイクが前傾しながら柵の上を滑って前進していく。

 ノリコの尻にはかなり体重をかけていたが、彼女の体幹は一切崩れなかった。

 バイクのパーツの一部であるかのようにブレないノリコを、ただ離さない。


 後輪が浮き上がったその一瞬で、ノリコは車体を左に倒した。

 後輪が左へ大きく逸れて直線の柵の路線から外れて回転。


 バイクの前輪はビルの角、交差点に落下するギリギリで止まり回転軸に

 そして、後輪が平均台のようなコンクリート柵の上に……着地。


 直角に曲がった柵の、左側のレーンに後輪が乗っている。


 ノリコは手首程の細さの柵の上で90度方向転換を決めていたのだ。

 それを終えてノリコが軽くはしゃぐ。



「やった! ノリコちゃん出来ました! いったよスゴミっち!」


 もはやノリコのどこを触っているかなど、考える余裕も無かった。

 バイクは止まる間もなく、再びアクセルを全開に。


 再びウィリー状態になったバイクは、そのまま装甲車の背中に飛び乗った。

 装甲車の車体の上を伝い、反対側の路面へ。


 ネオの「ジラフハンガー」の鉄骨がせり出している柱に直行。

 柱を足場にして、後輪だけで跳ねるように、二段階を踏んで着地した。


 タイヤが地面を噛み、砂煙を巻いてドリフト、停車した。


「ハーイ! 10点満点ー!!

 その程度じゃあ、ノリコちゃんのハートは掴めないんだぜっ!」


 ノリコは尻を突き出したまま装甲車に投げキスをかましていた。


 僕は無我夢中で立ち上がり、ノリコの背中に張り付いていた。

 全身を覆うようにがっしりと抱きしめ、身体が震えていた。


「ゼェ……ゼェ……無茶し過ぎっすよ……」

「いやあ、君ぃ! 良く落ちなかったな!  しかもちゃんと一体化してるしぃ!?」


「必死……だったんすよ……」



 そこに、道路の真ん中の鉄板が開き、中からネオさんのバイクと

 ブリアン姫がエレベーターのようにして登場した。

 どうやら二人は地下通路を使って避けてきたみたいだった。

 ブリアン姫もネオの背中に必死の形相で抱きついている。

 それを見るなり、ノリコの茶化しが始まった。


「おーっと! 姫様ごめんねぇ! スゴミっちは

 もうノリコちゃんに夢中だってさあ!!」


 ブリアンは毛が逆立ったままこちらを見ていたが、何も言わなかった。

 僕は尻を突き出した立ち乗りのノリコの後ろに、必死にしがみついていた。

 だがそんな茶化しにツッコミを入れる気力も僕には残っていなかった。

 力なく崩れ落ち、座席に腰を下ろす。


「あースゴミっち選手ダウン!! でもまだ続くからね!

 腰だけはしっかりと掴んでいるように!!」


「はい……」


 僕は大人しくノリコの腰に手を当てた。

 もう逆らう気力も起きなかった。

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