第38話・主演女優賞はいただきだ!!
ノリコがホテルの部屋の壁に開けた穴から、外に向かって絶叫している。
「ヘイヘイ! もしもしネオっちー! こちらノリコちゃん!
やっぱりこの子ら、裸でベッドで抱き合ってますよー!!
ラブラブ真っ最中でしたけどもー? どうぞー!!」
「は……はあ!? ちょ、何を叫んでるんすか!!」
僕は跳ね上がって、声が裏がえった。
「おおーい! ネオっち、聞いてくれー!!
スゴミ少年が『出たっす!』 とか言ってたんですがー!?
何が出たのか純情ノリコちゃんには分かりません! どうぞー!! 」
「いや、出たってのは、ノリコさんの事ですからね!?」
報告内容が誤解まみれで終わっていた。
だが、穴の外からネオさんの冷静な声が聞こえる。
「遅い、さっさと出てこい。」
ノリコは顔を手でわざとらしく覆いながら
目の所だけ指で開いて、こちらをガッツリ観察している。
「いやあー! ノリコちゃんってば純粋だからあ!?
こんな生々しいの運べないよおー! キャー!
おおい! 緊急事態だぜ! 服を着ろ! 服をー!!」
「いや、あなたが壁を突き破らなきゃ
たった今、着ようとしてたんすよ!!」
そのツッコミをいれて、僕はようやく我に返った。
「ってか、緊急事態って……何が起きてるんすか……」
そして、それと同時、無我夢中で押し倒し
お互い下着一枚の姿で密着している姫の感触に意識が向かった。
その全身が、とろけそうな程柔らかくて……熱い。
「あっ! ごめんなさい! 姫様!今のは咄嗟で!
その、死刑……死刑だけは……!」
思わず身体を起こそうとすると
姫は腕を僕の背中に回され、固定されていた。
「えっ?」
改めて姫の顔を見ると、目を閉じ、口をこわばらせ
必死に何かを耐えるような顔をしており……
「大丈夫、大丈夫よ私、彼は優しいわ、大丈夫耐えれる……」
顔を真っ赤にして、自分の世界に没頭している様子だった。
ノリコがそれを見て呼びかける。
「おーい! 姫様あー! 中止だ中止だ、雨天中止ー!
銃弾の雨が降って来るってねー、続きは他所でやってもらえー!?」
「続きってなんすか! 僕達、何もしようとしてませんから!!」
僕が跳ね上がって身を起こした。
すると姫も首に手を回した状態でついてくる。
その勢いで姫がようやく目を開いた。
「ちょ、ちょっと、あなた! どこから入ったの!?
っていうか、あなた私を追い出した奴よね!!
今更なにしに来たのよ! 死刑よ死刑!!
私たち、もう寝る所だったのよ!!」
その時……
パパパパン!!タタタタタン!!
ホテルの下のフロアから、銃声が聞こえてきた。
ノリコが僕達の服をボールのようにして投げつけてくる。
「ほらほら敵が入ってきたぞ!
さっさと服着るかあー? それとも全裸で逃げるかーっ!!」
「マジっすか……」
僕は私服のTシャツと制服のズボンだけを着た。
ブリアン姫は、ドレスの着付けには時間がかかると
言って、バスローブだけを着た。
全員でノリコが開けた壁の穴から
縄梯子を使って外にでる。僕が先頭で降りると
下にはバイクにまたがった姿のネオさんが
腕を組んで待っており、その周囲に人が転がっていた。
倒れている人達は黒づくめの戦闘服で
身体に巨大なゴムバンドのようなものが巻きついて、
全く動けない状態になっていた。
「ネオさんのトラップ……
サーペントドライブですか……」
ネオさんは答えることもなく、ヘルメットを投げてきた。
「一人一台ずつ、バイクの後ろに乗れ」
縄梯子をブリアンがヨロヨロと降り終わると、
ノリコが勢いよく縄梯子の紐だけを掴んで滑り降りてきた。
そしてそのまま、止めてあったバイクに飛び乗る。
そして腰の後ろに付いていた
ハンドクリーナーのような形の道具を掲げた。
「ガジェットGEAR・シャークスライサー!!
壁をサクサクーっと切っちゃうやつ!!」
そう言って、それをバイクの外装の後方にはめ込む。
「さあさ! 早く後ろへ、乗った乗った!
んー? スゴミっちはスケベそうだしい!
姫様がウチの後ろへおいでー!」
ノリコはそう言ってニコニコ両手で手招きしてる。
それに対してブリアンは顔を真っ青にした。
「い、嫌よ!!私は二度とあなたの後ろには乗らないわ!!」
ブリアンは迷わずネオのバイクの後ろに跨りに行った。
僕はそれを目で追い、ネオさんに尋ねた。
「あの…なにも壁から入ってこなくても
良いじゃないっすか……」
ネオさんは動じず冷静に答えた。
「ホテル前占拠されたから仕方ねぇだろ。
お荷物二人通すのは楽じゃねえんだよ」
「っていうか、暗殺計画って、もう始まってたんすか……」
「当たり前だろ、相手はプロだぞ。」
僕らはネオさんに基地から追い出された。
僕とブリアン姫が彷徨って、ホテルに居る間
その周りで敵を倒してたのがネオさんって事だ。
そこまでは状況を見るだけでわかる。
「助けてくれるつもりだったなら……
先に言ってくれたら良かったじゃないですか」
そう言いかけた途中だった。
ダダダダダダ……!!
僕達が泊まってた部屋から、銃声が鳴り響く。
それと同時に……
『ああーれぇー! 命だけわあ! 命だけわあ!!』
思わず失笑するような音のズレたノリコの録音音声が
部屋の奥から聞こえてきた。 目を細めてノリコに視線を送る。
「へへーん! どーんなもんだい! お涙頂戴!
主演女優賞はウチがいただきだ!!」
形だけは抜群に綺麗なサムズアップを僕に向けていた。
そこにネオさんがクールに入ってくる。
「ほら命が助かったんだから良いだろ。さっさと乗れ。
会話は後だ、そのヘルメットがあれば走行中でも会話出来る。」
そして突然嬉しそうなキメ顔でヘルメットを指さした。
「その名も、ガジェットGEAR・トーキングタートル!!」
ネオさんのネーミングセンスが見事にネオンさんを思い出させる。
僕はヘルメットを見つめた。
「トーキングタートル……おしゃべり亀さん……
別に通信ヘルメットとかで良かったんじゃ」
続けてノリコがバイク上でクネクネしだす。
「うわあーん!スゴミっちー!
ウチ、姫様にフラれちゃったよおーん!
仕方ねえから、野郎で我慢してやるぜえ!
はい、さっさと逃げるから、おいで、おいでー。」
そう言ってバイクの後ろのシートをバンバン叩いている。
「めちゃくちゃフリーダムっすね……」
僕は急いでノリコさんのバイクの後ろに乗りに行った。
僕がバイク乗った瞬間、二人のバイクは一斉に走り始めた。
僕は落ちそうになりながらも
必死にノリコさんのバイクにしがみつく。
「ちょ!出るなら言ってくださいよっ!」
「はいっ! 出たっすぅー!!」
……コイツっ!
後ろでは……ホテルの壁の穴から機関銃を持った特殊部隊員が
こちらに銃を構え、発砲してきていた。
それに対してノリコは、運転中のバイクから両手を離して
その両手で大きく何度も投げキスをしだした。
「はいはーい! ノリコちゃん劇場へのご来場……あざーっしたーっ!!」
それと同時、ホテルの部屋の穴から、ノリコの録音音声が叫びをあげた。
『うおお! 死なば諸共! バンザイアターックじゃあ!!』
直後……
バゴォオン!パリッパリーン!
激しい爆音と共に閃光が走り、僕達のいた部屋は爆破された。
建物から破片と土煙が吹き出し、黒煙が昇っている。
「や、やりすぎでは……」
それを見てノリコは両手を広げ体を思い切り反らせ
二人乗りバイクの前の席から、仰け反る形で僕の肩に頭を乗せてきた。
「わっはっは!! 感動のフィナーレだったなー!!
儚く散った、録音ノリコちゃんの勇姿をお忘れなくー!!」
「ってか、前見て運転してくださいよ!!」
迎えに来てはくれた訳だが、イカれたテンションの少女。ノリコ。
彼女のバイクの後ろに小さく収まった僕。
この狭い後部座席が、僕にとっての新たな波乱の舞台となる。