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第32話・運命の化学反応

「王女暗殺計画浮上せり、国内密偵ありて王女防衛し難し

 ドラキール帝国軍到着までの4日間王女匿われたし」



 ネオさんが呪文を詠唱しだしていた。


 ソファに深く寄りかかりながら、余裕の顔でコーヒーをすすっている。


「これが、サザナの指示書の内容だな。

 まあざっくり言えば、王女が殺されるから

 4日間泊まらせてやれ……だな。」


 そう言いながら、脇に立つブリアン姫を裏手で指さした。


「私はそれをコイツの口から聞きたいだけだ。」




 ブリアン姫はその手を払い除けるように避けて、再び怒鳴る。


「ねえ!何!?今、コイツって言った?

  それ不敬罪で普通に死刑だからね!」



 ヒメガミさんに似た姫、ブリアン・ブリディエット

 彼女の怒りはブリブリと止まらない。

 さっきから姫がずっと悪質クレーマーみたいな態度で話が進まない為

 ネオさんが依頼の指示書を読んで、強制的に話題を仕切りだしたのだ。



「で、何して欲しいんですか? お姫様」


 気の抜けた顔で発言権を譲るネオさんに

 ブリアンはますますふんぞり返った。


「ふん! 良いでしょう!

 あなた方に私の身の警護4日間をする任務を与えるわ!!

  私の御盾となれる事、光栄に思いなさい!! 」



「断る!!」

 ネオさんの突然の大声に、姫の顔が固まった。

 しかし、一拍置くと再び動きだす。



「は? これは姫の命令なのよ? なんなのあなた!」

「断る。お引取りを」



 それを見てノリコが後ろで大ウケしていた。

「イェイイェイ、ネオっち、かっけー!!」


 両手をグーサインにして高く掲げ

 レザーの際どいミニスカートにも関わらず、ガニ股で踊っている。



 姫が身を乗り出し、机に両手を叩いて乗せ、ネオを覗き込んだ。

「国民が私の依頼を断るなんて、許されると思ってるの?」


 ネオはコーヒー片手に静かに言い放つ。

「わりぃーな姫さん、私ら元々法の外側で活動してますんで

 うぜぇやつと、国絡みの依頼は受けないの。」


 ノリコが高速で回転しながら、頭の上で拍手をしている

「受っけまっせん! はい! 受っけまっせん!」


 それでも姫は食い下がっていた。

 声が震え始めていて、ちょっと泣きそうな顔になってる。


「なんで! 私は殺されるからって、わざわざ……

 こ、こんなかび臭い所で泊まってあげようって

 それで足を運んだのよ!」


 ノリコは戦隊ヒーローのような決めポーズを取って叫んだ。

「運んだ足はウチだけどなあー! わっはっは!!」


 二人の別方向のテンションにも一切動じず

 ネオは机の下からスプレーの様なものを取り出し、淡々と答えた。



「泊まってくれなくて結構、カビ臭くて申し訳。

 消臭剤はサービスしときますので、とっととお引を。」



 姫は既に半泣き状態だった。

「ちょ、ちょっと! なんで、待ちなさいよ!!

 私が暗殺なんてされたら、この国の平和が遠のくのよ!?

 そんな事も分からないの!!」


「国絡みは受けねぇんだよ、二度言わすな」



 ネオの低い声と強烈なにらみが、ぴしゃりと空気を裂いた。




 ───暗殺計画。


 その言葉だけが、僕の脳裏に強く焼き付いた。

 手の中にはヒメガミさんの血のついたネックレス。

 その表面から乾いた血が剥がれ落ち、指の間で粉のようになっていく。



 また……人が死ぬのか。


 ほんのさっきの恐怖体験が、犠牲者達の声が、胸の奥を掻きむしる……



 一番怖がっていた、ヒメガミさん

 ―――「スゴミくん……ごめんね……」


 ハメてきたけど、和解出来そうだったネオンさん

 ―――「スゴミ……死ぬなよ。」


 命狙ってた癖に、命がけで助けてくれた……アルハ。

 ―――「スゴミ……逃げなさい……」



 心の奥底で聞こえる声が、血みどろの後悔を引き摺り

 なぞる様に広げて行く。



「あ、あの暗殺計画……って、流石にヤバくないすか」

 僕は、思わず声を上げていた。


 話し合いに参加していたうち、ノリコとブリアン姫が僕を見た。

 ネオさんは微動だにせず、コーヒーを飲んでいる。

 しかし、視線があつまった手前、話を続けた。



「その、事情とかはあると思うんですけど……

 死ぬくらいなら、泊めてあげた方がいいんじゃ……」


 本当は怖いし、関わりたくない。

 でも、人が死ぬと知ってて放っておくのはもっと怖かった。


 ブリアン姫は眉間に皺を寄せて半開きの口をしながらも

 僕を黙って見つめていた。

 そして、その机の対角でノリコが動き出した。



「ってーかさ、君っち、誰?」


 さっきまで激烈テンションだったのに、急に声が低くなった。

 そういえば、ネオさんは僕の紹介なんてしていない。



「えっと、僕はその、ネオさんの風呂に……」


 言いかけて止まった。

 言えない、ネオさんの風呂に登場して抱き合った以外

 ここに僕の経歴は無い。自分を説明する要素が無い。


 すると、ネオさんはコーヒーカップを机に置いて

 足を組み、ソファで思い切り仰け反って、逆さの状態で顔を向けた。


 そして悪いニヤケ面を構えて、僕を指さした。



「お前の処遇が決まったよ、ゴキブリ君」

「えっ……」


「お前が姫の護衛をやれ、成功報酬は仲介料引いて半分な。」

「ええっ!?ぼ、僕が護衛するんですか!?」



「ノリコ! G8行きポッド起動だ! 詰め込め詰め込め!!」


 ネオさんのテンションが急に上がり、立ち上がると

 壁がシャッターのように開いて壁の中に座席が出てきた。

 そして僕の立ってた床が動き出し、シャッターの前に運ばれた。


「よし来た、将軍! 詰め込め、詰め込めー!

 ほーら、姫様あ! こっちだよー!」

「ちょっと、何してるの! えっ!?」


 ノリコがブリアン姫を引っ張って来て、僕に押し付けてくる。

 そして壁の中の座席へ放り込まれると、即座にシャッターが閉まった。


 そしてネオさんの指パッチン。

「トラップGO!!モールズ・ゲッタウェイ!!」


 バシュウウウン!!


 ネオさんの掛け声と共に、壁の中の高速エレベーターが起動した。

 激しい勢いで上昇していく。

 ブリアン姫と二人、ギュウギュウ詰めにされていた。

 どこを触ってるのかも分からない、柔らかな圧迫に押しつぶされた。


 ブリアン姫は叫ぶ。


「ちょっと近寄らないで!!離れなさ……って

 ど、どこ触ってんのよ!死刑よ死刑!」


「分からないっすよ!無理言わないで!

 暴れないで下さいよぉ!!」


 シュウウウン!!



 僕達二人は、問答無用で基地を追い出されてしまった。


 僕にはまだ、分からないことが沢山ある。

 天使もアルハも、物語もドグマも分からない。

 敵だってワープだって、何も分かってないのに


 混乱の真っ只中で、今度は暗殺対象の姫様と二人きりにされてしまった。


「アルハさん……もう帰っていいっすかぁ!?」

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