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第24話・もう帰って貰っていいっすか?

「二人とも、いつまでいるんすか! 早く逃げてくださいよ!

 ガチのヤツです! 死ぬやつですよ、これ!」


 天井の裏に敵がいた。音も無く気配も無く

 理不尽に天井を貫通して一撃必殺を狙って来る。


 怖いし、早く逃げたい……でも

 本当に良くないのはこの状況だ

 おそらく、既に死人が出てる。


 僕には戦う力はない。

 階段下で僕を見上げるネオンさんとヒメガミさん

 彼女達には、自力で逃げてもらうしかない。

 ヒメガミさんが再び泣きそうな顔になっている。



「でも、スゴミ君……!ケガしてるの…!

 私……私のせいで!?」


 再びパニック寸前、ダメだ、ここで折れられたら……

 動けなくなったら死ぬ……



 僕は青ざめた顔で、歪みながらも笑顔を作り


 踊り場の二人に投げかけた。



「これくらい、よいしょってヤツですよ!

 なんとかなりますから……!大丈夫っすよ!

 女の子が先に逃げてくれないと……

 自分が逃げられないじゃないっすか!!」



 ネオンさんはヒメガミさんに肩を貸していた。


「おいヒサヅカ!どういうつもりだ!!」



 どういうつもり?何の話か分からない。

 問答してるような余裕など、僕には無かった。


「ネオンさんは賢いんだから、もう分かりますよね!

 今ただごとじゃないんすよ!命かかってんすよ!」



 ネオンさんは、それでもなにか違った。

 もの言いたげで、どこか悔しそうな顔をしている。


「ちがう……!ハメられたお前が

 私たちを助けるような真似して……

 なんのつもりだって、それを聞いてんだよ…!!」



 ネオンさんの目を見た、困惑と恐怖に染まっている。

 彼女は賢い、きっと僕より状況の過酷さを理解してる。

 恐らく死んでるクロノ達の事も考えてるのかも知れない。

 分からない。どうでもいいから下がって欲しい。



 説得方法など分からない。僕は気持ちだけ伝えた。




「シバさん……いや、ネオンさん!僕は不登校で、根暗で……

 ちょっと女子に優しくされたら舞い上がっちゃう

 そんなバカな男なんすよ。」


 声は妙に落ち着いていた。


「僕、ネオンさんの事は、賢くてかっこよくて

 面倒見がいいのに、どこか抜けた可愛いさもあって

 騙そうとしてるとか、少しも思いませんでした。」


「なんだよ!こんな時に……!そんな話はしてな……」


「でも、裏切った!

 操作して! 利用して! 踏みにじった!」


 ネオンの表情が曇っていく。


「それは………」




「でもね ネオンさん、僕は初めての通学が不安だった。

 あなた達に優しくして貰えたの、嬉しかったんすよ

 嘘でも、騙そうとしてただけって分かった。今でも……!

 あの時は、居場所が出来た気がして、本当に嬉しかった……」


「ヒサヅカ……」


 ネオンさんの目元が、少し光った。

 泣いているのか、少し暗くてよく見えない。




「だから、もう先に帰って貰っていいっすか?

 そうしないと、僕が帰れなくなるじゃないっすか。」



「帰るって……でもお前……っ!」



 僕は天井を見上げた。



「なんか訳わかんないっすけど、上に敵が居ます。

 避けれてあと一発です……一発避けたら

 僕も他は全部無視して、全力で帰りますんで……」


 ―――息を飲み、ネオンさんを見つめた。


「マリアンの事、頼みますよ。」




 ネオンさんは小さくうなずいてくれた。


「……ああ!後だ、後でまた

 改めてしっかりと……話をしよう。」


 僕は軽く目配せだけして、うなづいた。

 そして彼女は初めて僕を名前の方で呼んでくれた。


 その凛々しい眼差しで。


「スゴミ……死ぬなよ。」


「はは……死ぬ気だけは、元々ないんすよね。」



 そういうと、ネオンさんはヒメガミさんの脇に肩を入れ

 引っ張るようにして階段を降りていった。

 ヒメガミさんの瞳が、最後まで僕を見て何かを呟いていた。






「……さて」


 敵は音も気配も無い、突然天井をくり抜いて

 ハサミみたいなもので一瞬だけ攻撃してくる。


 天使さんとは違う

 慈愛も可愛さもない、純粋な殺意だけの敵。


 僕の頼みの綱は、死の未来予知。

 原理も発動条件も分からないけど

 多分死ぬ時だけ、死の未来を体感出来る。



「微妙過ぎないっすか……

 天使さんがくれたんすかね、この能力……」


 天井を見上げて見渡していると

 アルハ刺された首の傷が開いた。絆創膏に血が滲んで痛む。


「そういや、アルハさんとのベッド戦では

 首刺されても未来予知は発動しなかったっすね……?」


 それに気づいた瞬間、背中に汗が湧きたった。



「未来予知の発動が、もし気まぐれだったら……」



 僕は廊下を走り出していた。

 目の前にはクロノが持ってきた車椅子が転がっている。

 そのシートに頭を突っ込み、逆さにして被るように持ち上げた。



「発動しなかったら死ぬじゃないっすか……!!」



 装備:車椅子アーマー、防御力不明

 敵:天井のハサミ、攻撃力不明

 能力:死の未来予知、条件不明


 ミッション:一発避けて、すぐ逃げる。




「うおおおあああ!なんとかなれーっ!」


 そう言った瞬間、視界が完全に無くなった。暗黒。



「えっ?死んだ?」


 音はしなかった。何かされた感覚も無かった。

 予知は無い、突然そうなっていた。


 感覚の認識がようやく始まる……

 まず足が宙に浮いている。

 車椅子をつかむ腕に力が入っている。

 懐中電灯は持っていて、光が下を向いている。


 そして、車椅子のシートが

 左右から圧迫されている。潰されそうな圧力だ。


「うぐっ」


 急いで懐中電灯を目の前に向けた。

 その瞬間、ひどい臭気が鼻をついた。



「ええ……っ」


 目に映ったのは、血液だった。

 血に染まったTシャツに、『I♡姫』のプリント。

 こんな趣味の悪いTシャツを着てるやつは一人しかいない。




「カワダ……!? おい!!カワダ……!!」


 明かりを上に持ち上げた。

 その瞬間、目を覆いたくなるような残酷が目に飛び込んだ。


 目に入ったのは、顔のない死体。

 顔面の鼻より上がバターのように切り取られ

 上から黒い装甲の板が嵌め込まれている。

 口は力なく空いて、血がよだれのように流れている。


 胸には肋骨のような黒いアンカーが打ち込まれ

 手足には黒い釣り針のような爪が無数にひっかかっていた。



 冒涜的な遺体拘束装置。


「うあああああああああ!!!」


 その背中からは、ジョロウグモの足のような

 細長い爪が無数に伸びており、地面に立つ担当の足と

 攻撃をする為の足で役割分担していた。


 そのうちの数本が僕の車椅子を

 箸でつまむように拾い上げて、宙吊りにしていたのだ。




「車椅子の防御力……ギリギリ足りてた……!!」


 戦うなんて選択肢は微塵もよぎらなかった。

 速攻で身体を捻って車椅子の歪みから肩を外し

 車椅子の中で隙間を作って滑り落ちるように脱出。


 足元にあった穴から、下の階に飛び降りた。


 着地は失敗、思い切り尻もちを付いて、天井を見上げる。

 天井には三つ目の穴が空いており、真っ暗で何も見えない。



「カワダを助け……」


 ありえない、頭がなかった。絶対に死んでいた。

 一発は引き付けた。ミッション達成。

 ネオンさんも、ヒメガミさんも逃げた。




「やる事やった!帰ります!!」


 僕は尻をついた体勢から

 死にものぐるいで起き上がりながら駆け出した。

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