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第23話・僕の災難はこれからだ!

 今日は初めてだらけの一日だ。



 初めて高校に行き、初めて友達が出来た。

 友達は司馬祢音ネオンさんと、姫神 真理愛マリアン



 そして初めて告白を決め、初めてプレゼントを買い

 初めてフラれ、初の肝試しに参加、初ハメられ、初恐喝。


 そして目の前のヒメガミさんに、初幻滅した。

 いや、幻滅はもっと昔にもあったかもしれない。


 ヒメガミさんが『離さないで』と言うので

 肩をつかみ直した。小さな震えが止まらない。

 彼女の心の弱さがそのまま染み出していた。



「ごめんなさい、スゴミ君…わたっ…

 私、グルだったのに……さっきのほんとに怖くて」


 彼女の目から涙が止まらない。

 クロノが車椅子を押してくる光景は異常だったけど

 それにしても怖がり方が凄まじい。



「大丈夫っすよ、離しませんから、出ましょう。

 立てますか、それともおんぶしますか……?」


「本当にごめんなさい、私こんななのに……

 スゴミ君……私……」


 彼女は震えて同じような事を繰り返して唱えている。

 パニックなのか罪悪感なのか、僕には判別できなかった。



 ただ、彼女の現金さに気づいてしまった今

 心の中では彼女との関係は完全に決別していた。

 それでも僕は、彼女の背中をさすった。


「落ち着いてください、帰りましょう。」



 そうだ、僕は帰る。そして二度と学校には行かない。

 さようならマリアン。僕の青春。って感じだ。


 ヒメガミさんはようやく息を整え、少し顔を上げた。

 涙に濡れた顔、バチバチのまつ毛が濡れて束を作っている。

 とても可愛い、顔だけは。



「スゴミ君…ごめんなさい、こんな私だけど

 これからもお友達で居てくれる……?」


 ……は?


 無理に決まってるだろ、何を言ってるんだ、この人。

 君は僕の心を踏みにじった一人、敵だ。

 今日この病院から出て手を振ったら、それが最後だよ。


「もちろんっすよ!マリアンって呼んだら……

 お友達なんでしょ!」



「ありがとう、スゴミ君……私ね……」


 ヒメガミさんは涙を指でぬぐいながら

 その首にかけた、高級そうなネックレスに手をかけた。

 シャツの中から取り出そうと引っ張りはじめている。


 見せびらかせか、『私こういうのが欲しいの』か

 どちらにせよ僕は身構えていた。





 その時だった。


 階段下にいたネオンさんが突然叫ぶ。




「おい、クロノはどこ行った!!」



 目を丸くして、驚いた表情でこちらを見ている。

 僕はそれを見下ろしながら、廊下側を指さした。



「はあ?クロノならそこに……」


 直後、指先に視線を運ぶ。

 指をさした先は、奥の見えない廊下が続いており

 壁側に車椅子が転がってるのみ。

 さっきまでいたはずのクロノが確かに居なかった。



「あれ……隠れました……?」


 その瞬間、指先に水滴が落ちてきた。


 ハエくらいのサイズの水滴。

 まっすぐ落下し、指先で弾ける。




 直後……


 ポタッ……


 ホコリまみれのビニール床に当たって散らばる。

 指先は色づいて濡れていた。



 赤色。



 ポタッ……ポタッ……


 次々に落ちる水滴が

 ビニール床に不気味な赤い花を咲かせていく。




「なんなんすか……今度は……」

 体の芯が震え始めた。



「もう勘弁してくださいっすよ……」

 僕は恐る恐る顔を上げた。



 天井には、まるで精密機械でくり抜かれたような

 ちょうど人が一人が抜ける大きさの丸い穴が開いていた。


 誰も、穴の開く瞬間を見ていない。

 誰も何かが起きた音を聞いていない。

 なのに、そこに穴だけがあり

 その奥の完全な暗黒が、こちらを見つめているようだった。




 ──直後。


 ウィィィイイイイン!!!!バチバチバチュ!!


 先程から聞こえた、耳を裂くような機械音が

 響き渡る。しかも真上、かなり近い。


 同時に肉の弾けるような音、近くで聞いてハッキリした。

 コレは掃除機の音なんかじゃない、回転ノコギリの音だ。


 それと共に、極小の霧のような飛沫と

 生臭い匂いが降りてくる。




 やばい、やばい、やばいやばい…………!


 昨日、天使が降りてきて、トラックを蹴り飛ばしていた。

 アルハも何か能力みたいなものを持っていた。

 僕の身の回りは昨日から超常現象が連続してた。



 アルハが居なくなって、友達ができた。

 それでどこか、ホッとしていた。


 一瞬で本当の理不尽がやって来事を……

 それが超常現象である事を察した。





「逃げろ! シバさん!! これは絶対にやばい!!」


「はぁ? 他のみんなは?」



「分からないっす! でも自分は何もできないです!

  逃げるしかない!!」


「なんなのコレ……」

 ヒメガミさんは、ネックレスを触ろうと両手で襟を触ったままのポーズで天井を見上げていた。



「マリアンも早く逃げるっすよ!ここはヤバ……」


 そう言いかけた瞬間だった。

 ヒメガミさんの肩を掴んでいた僕の腕が

 ヒメガミさんの肩をつかんだまま

 重力にしたがって垂れ下がっていた。


「は……?」


 直後、ヒメガミさんの顔が血に染る。

 僕の肩が切断され、勢いよく飛び出した血が

 ヒメガミさんの全身に降り掛かっていた。


 そして肩から、脳を貫くような激痛。

 僕の腕は既に音もなく、切断されていた。



「うっ!!」


 僕は思わず、無い腕で自分の肩をつかみ

 痛みを抑えようと意識した。




 ……が、腕はあった!


 両腕がしっかりと肩を押さえており

 自分を守るように、自分自身を抱きしめるように

 クロスしていた。


 それを認識した瞬間、痛みは消え

 ヒメガミさんの顔は、綺麗な白に戻った。




 これは、アルハが部屋に来た時と同じ……


「死の未来予知だ…!!」


 僕は咄嗟に、立ち上がり動いた。

 ヒメガミさんの体を、ネオンさんの方へと突き飛ばした。



「あぶない!!」


「うわ!! なにして……!!」


 ネオンさんはヒメガミさんを抱えて、階段を転げ落ちた。

 二人の身体が踊り場で重なりあって崩れている。



 僕はすぐに転がるように飛んだ。


 その瞬間、天井の板が音もなく裁断され

 その破片が天井の奥へ消えて行くのが見え

 直後天井から巨大な黒いハサミのような爪が二本

 僕のいた場所を狙って切り裂いた。


 避けきったはずが、右腕の外。

 制服の端が鋭く切り裂かれている。

 触られたり引っ張られた感触すらなかった。

 そこから痛みも無く、血がチクチクと出始め

 白い制服を赤くしていく。



「なんだよこれ……! 刃するど過ぎじゃないっすか!!」


「スゴミ君!!」


 踊り場からヒメガミさんの声が響く。

 ハッキリとした、大きい声、さっきの弱々しい声ではなかった。



 その顔は、『恐怖』ではなかった。

 恐怖の顔は、瞳孔が縮み、歯を閉じた拒絶一択の顔だ。


 ヒメガミさんの顔は違う。恐怖の中にも期待を持つ

『心配』の表情を僕に対して向けていた。

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