第20話・ドキドキのプロジェクト!
───肝試し大会・ルール説明───
① 3分おきに、一人ずつ出発。
② 廃病院の最上階まで行く。
③ 空き缶を最上階に置く。
④ 次の人は空き缶を回収。
⑤ 入れ替えで空き缶を置く。
順番
カワダ→ハルハラ→クロノ→ヒメガミ→僕→ネオン。
ヒメガミさんの次が僕になっている。つまり彼女が飲んだ空き缶を回収するのが僕だ。その指名を受けた途端クロノが反応してきた。
「おい! 姫の缶に変なことすんなよ!!」
続いてカワダが喚きだす。
「うわあん! 俺が手に入れて毎日一緒に寝ようと思ってたのにぃ!」
「カワダにだけは、渡すんじゃねぇぞ……」
ネオンさんが後ろから僕の脇を小突いた。
「はいっす……」
ルールを仕切っていたのはネオンさんだった。彼女はこのグループの疑いようのない『王』だった。
「うし、最速ギネス記録出してくるわ!」
意気揚々と出発前に気合を入れるのは、目つきの悪い生えかけ坊主のチビ。クロノ。
「ギネス登録されんだ……コレ」
遠慮気味にツッコミする全てが長めのハルハラは、直視はしないが常にネオンをチラチラ見ている。
「されねーよ」
そして、全ての流れはネオンさんがピシャリと返す。
「が、がが、がんばってね……」
ヒメガミさんは、手を振りながらも声が震えていた。
「姫~! やばかったら呼んでねー! 俺すぐいっちゃうからさぁ~! うっうっ」
カワダはブリブリとキモさを炸裂させていた。全員制服の中でTシャツの「I♡姫」が完全に浮いていた。
──そして肝試し大会が始まった。
ここに来る道中で、ネオンさんは僕に一枚の紙を手渡してきていた。これが今回のヒメガミさんへのアタックの為の作戦指示書……
その名も
【GOGOネオン! 吊り橋効果プロジェクト!!】
なんとも言えないセンスの作戦名に思わず絶句していた。ネオンさんはちょっと芋っぽいところがある。
メモには、太字でこう書いてある。
【絶対条件1・幽霊はいない。絶対ビビるな。】
【絶対条件2・マリアンは怖い時、抱きしめて欲しい。】
書いてある事は単純だが、雑にハードルが高い。本当に賢いのか根性主義なのか分からない人だ。
そしてここからが作戦開始。
【ネオン吊り橋プロジェクト①】
男子たち3人が出発したあと、マリアンが出発する、3分待たずに行け!!
予定通り3人の男子が3分おきに出ていき、12分目にヒメガミさんの番が来た。
「よーし! よし、よし! 行ける行ける! 行くよー!」
ヒメガミさんは険しい顔をしながら両手でガッポーズをとり、自分を奮い立たせながらスタートしていった。何してても可愛いなこの人。
その30秒後、ネオンさんが声をかけてきた。
「よし、行け」
「はい!」
僕は兵隊のように返事し、スタートを切った。
【ネオン吊り橋プロジェクト②】
マリアンはどうせ途中でビビって動けなくなるから、すぐに追いつけ。
そう書いてはあるがヒメガミさんは出発の時、結構気合い入れていたし、流石に少しは頑張って進むんじゃないかと思い、メモの内容には少しの疑問を抱きつつも、懐中電灯を手に廃墟前の茂みを進んでいった。
するとメモの予言通り、最初の角を曲がったところで、すぐにヒメガミさんが立ちすくんでいた。ヒメガミさんはこちらの曲がり角の方をずっとチラチラと見ていて、僕が見つけるとすぐに目が合った。
「あ、スゴミ君、やっと来てくれた…… 動けなくて……ずっと待ってたの、怖かったよ……」
目をうるませながら、ソロソロと寄ってきて、迷わず僕の袖をぎゅっとつかんできた。さっき出発したばかりだし、30秒しか経ってないのに、ずっと待ってたらしい。でも僕にすがりついて来るヒメガミさんは、そんな事はどうでもいいくらい可愛い。
暗闇の中で懐中電灯の光が下から照らし、淡い光を纏ったヒメガミさんが、妙に儚くてドキッとする。3分も待たせなくて良かったと心底思った。
そしてその瞬間、次のプロジェクトが脳内で起動した。
【ネオン吊り橋プロジェクト③】
「大丈夫だよ、一緒に行こう」と、お前から言え。
これは心の準備がまったく足りてなかった。ヒメガミさんはもう少し先にいて、それを見つけてから息を整えて声をかけようと思っていた。本当にこんなにすぐに動けなくなってると思っていなかったし、曲がった瞬間寄って来るとも思っていなかった。
それでも台本通り、僕は必死に決められたセリフを言った。
「あ、 マリアン! その、だ、大丈夫っすよ……! あ、あの……いっ、い…………」
「ねぇ、スゴミ君、一緒にいこ?」
「は、はい! よろしくお願いします!!」
言われた瞬間、反射で背筋が伸びていた。僕はぎこちなく何度も頷き、ヒメガミさんに袖をつかまれながらも、一歩ずつ歩き出す。
コツ、コツ……
ただ、この行動は全て見られている。振り返っても気配を見せないが、すぐ後ろからネオンさんがついて来ているハズだ。
なにしろ、プロジェクトにそう書いてある。
【ネオン吊り橋プロジェクト④】
私がお前らについて行く。良い所で物音を立てるから、マリアンを守れ。
つまり今の僕の行動が上手くいってるか否かは、ネオンさんがモニタリング中ってわけだ。二人の吊り橋進行をガチで観察されている。失敗しないようにしなくては、キッチリやりきらなければ、きっと後が怖い。
廃病院のメインエントランスの前に来ると、入り口の自動ドアも盛大にぶち割れていた。ガラスの散らばった自動ドアをくぐろうとすると、足元のガラス片を踏みしめて、乾いた音が夜に響いた。
パリン……
その時だった。
病院のかなり奥の方から、妙な音が響いてきた。
ウィィィィイイイン………
とても遠くから反響した音だった、掃除機が毛布を吸い込むような、不快な異音だった。妙に湿ってて、耳の奥がムズムズする。
僕はその音に驚き、心臓が止まりそうな程だったが、その瞬間左腕を強く引かれた。
「スゴミ君っ!!」
そして左腕にヒメガミさんが飛びついてきた。腕を完全に抱きしめられ、羽枕のように柔らかい何かが、二の腕を包むように押し当てられる。その感覚に、僕はたった今感じた恐怖が吹っ飛んだ。
吊り橋効果、すごいです! ネオン様!!
「今の何!?」
しかし、ヒメガミさんは完全に怯えていた。震えた声で遠慮なく身を寄せてくる。その抱擁に自分がヒメガミさんに頼られているんだと感じた。こんな僕なのに、何も成せない僕なのに、この子は頼ってくれる。そう思うと、心の奥から『強くあらなくては』という気持ちが自然と湧いてきていた。
「大丈夫だよ、多分……風の音じゃないかな?」
ヒメガミさんを勇気づける為のセリフだが、自分に言い聞かせるような言葉でもあった。幽霊なんていない、ビビるなって、ネオンさんの指示にも書いてあった。今の音はネオンさんの演出とか……ですよね? だよね? ねえ、ネオン様……?
僕たちは病院の一階をゆっくりと進み、一階の一番奥の上り階段の前まで到着した。上の階は下よりもさらに暗く。ひとつ上の階すら、懐中電灯を向けてもほとんど見えない。しかし足元には、埃を踏んだ足跡が幾つか残っていた。この足跡はホコリを踏んでから新しい。間違いない。
先に出発したカワダ、ハルハラ、クロノの足跡だ。
あいつらはしっかり一人でこの階段をのぼって行ったと言うわけだ。これ一人で登ってるのは精神力がヤバすぎる。僕は上りたくはないが、ネオンさんが見ていると思うと、進むしか無かった。
「マリアン、一緒に階段を登るよ」
そう声をかけると、ヒメガミさんが首を振り、思い切り出口側に尻を突き出して、身を引こうとし始めた。
「嫌だ……! ねぇ、もう怖い!! 戻ろ! ねぇ、スゴミ君、お願い!!」
今にも泣きそうな声……というか、もう泣いてる。これはネオンさんのプロジェクトにないパターンだった。ヒメガミさんが泣いて戻りたがってる時、どうすればいいんですかネオン様!!
でも、ここで戻ったら、ネオンさんに絶対に怒られる。それは分かる。すごく逃げたい気持ちでいっぱいだったが、今だけは一つ勇気を──
「マリアン、大丈夫っすよ、僕がついてる。しっかりつかまってて、行きましょう」
「ぐすっ、スゴミ君…うん…」
小さく頷くヒメガミさん。か弱く今にも消え入りそうなその声に、僕の胸はぎゅっと痛くなった。これはアルハや天使の、理不尽な『守れ』『戦え』『殺せ』とは違う。やっぱりアルハ達は、どこかおかしかった。
吊り橋効果とか抜きにしても『この子は守らないと』
―――そう思えた。
僕も廃墟は怖い、でも大丈夫だ。なにしろ勝算がある。たぶん、僕が先頭だったら逃げていただろう。しかし今は違う。ホコリを踏んだ足跡がある。この先にあるのは、カワダ、ハルハラ、クロノが踏みならした、地雷なしの安全地帯。
少なくとも、今の僕らはそこをなぞっていける。吹けばホコリのように飛び散りそうな理論を胸に、階段に足をかけ、僕たちは寄り添って暗闇の二階へとのぼり始めた。




